第22話僕は姉妹の間でバランスを取る

「お母さんが帰って来たみたい。」

楓が言って、玄関に向かった。


僕も立ち上がって、彼女について行った。


「お邪魔…してま…すぅ、一ノ瀬です。」僕は噛みながら言った。


「あら、あなたが…娘が、助けられたそうで、ありがとうございます。」

楓のお母さんが頭を下げていた。


うぉ、好感触というやつでは?


僕は、楓のお母さんに気に入られているのかなとほくそ笑んだ。


「さっ、一ノ瀬君またお話ししましょ。」

楓が言った。


「あ、うん。」

僕はそう返事を返したが、改まって言われると、何を話せば良いか分からなかった。



こう言う時頭が真っ白になるって言うけど、その通りのことが起きた。


2人きりの時は、まだ話せるけど、1人増えただけで、話せなくなるのは、なんでだろう?



まぁ、僕が話さなくても、向こうが話してくれるだろう。そう思う自分は、情けなくもあるが、これから、コミュ力が上がれば、こう言ったこともなくなるのだろうか?


「一ノ瀬君、表情が固まってない? 緊張してる?」

陽葵さんがそう声をかけた。


「ええ、正直結構緊張してます。」

素直に僕は、認めた。


「大丈夫だよ。もうここ自分家だと思ってくれて良いから。今度勉強教えてあげようか? 助けてもらったお礼になればいいと思うし。」

彼女が、僕をフォローしつつ、そう提案してきた。


なんて優しい人なんだろうと僕は思った。


「ありがとうございます。じゃあお言葉に甘えて、お願いします。」

僕は感謝して、提案を受け入れた。


「それは良かった。」

陽葵さんが微笑んで言う。


「一ノ瀬君、うん自分家だと思って良いよ。緊張する事ない。」

楓もフォローしてくれた。


「楓、それ私がさっき言った。」

陽葵さんが言う。


「良いじゃん、別に。ねぇ今日、一ノ瀬君と2人で水族館行ったんだよ。楽しかった。」

楓が嬉しそうに言う。


「うん、楽しかった。」

僕も心からそう思う。


「へー良いな、じゃあ今度私と、動物園行かない?」

陽葵さんが言う。


「いや、そう言う言い方、一ノ瀬君が断りずらいじゃん。断って良いからね。」

楓が慌てる様に言う。



「なんだよ〜。断って良いって。妹なら、応援しろってば。」

陽葵さんが口を尖らせて言う。



「何が応援? 一ノ瀬君人がいいから、代わりに私が断ろうか?」

楓が反論する。


「いやいや、一ノ瀬君が嫌かどうか、判断勝手にすんなし。接点ないしさ。どうかな? 一ノ瀬君。」

陽葵さんが真剣な表情で、椅子から立ち上がりながら聞いた。


何て答えれば良いんだろう。僕は悩んだ。楓が大事なので、彼女の様子を伺った。表情からは、断るよね? と暗に言っている様だった。


僕は頭をフルに活動させ、この状況での返事を考えに考えた。


「行きましょう。楓も一緒にどう? 動物園。」

陽葵さんを尊重しつつ、楓も尊重する…完璧な返事だと僕は思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る