第191話 黒騎士4
私は、聖王都と呼ばれるこの国の首都にやって来た。首都と呼ばれるだけあって、歴史ある街並みをしている。
聖王都に入るには門を通らなければならないが、この国の兵士達に行く手を阻まれた。ここを通すわけにはいかないと、彼等は武器を構えて襲い掛かってきた。
無益な争いをする気は無い。私は身体から発する魔力を雷に変えて放電、兵士達を一気に無力化し、彼等が動けない内に門を通過した。
雨が降っている影響もあってか、外出している人間の姿は少ない。すれ違う通行人は私の姿を見るなり、道を譲るか悲鳴を上げて離れていく。
町中を歩いていて、懐かしいという気持ちが湧き上がってくる。私は、この町を知っている……ここに、失われた記憶の手掛かりがあるかもしれない。
暫く歩き続けると、ひとつの建物が見えてきた――古いが立派な佇まいを感じさせる屋敷。何かを感じる、あそこに入ってみよう。
「何だ、お前は!?」
「止まりなさい!」
屋敷を目前にして、声を掛けられた。声を掛けてきたのは、傘を差した8人の少年少女達。
彼等は手に持っている傘を捨て、各々が携帯している武器を構える。どうやら、単なる子供ではないようだ。
先刻の兵士と違い、相手は子供。子供を傷付けるつもりなどない。
私は彼等の言葉を無視し、眼前の屋敷に視線を向ける。屋敷の前には看板があり、『アークライト記念館』と書かれている。
アーク、ライト……その名前に堪え切れないほどの懐かしさを感じる。知っている、私はこの屋敷を知っている。
私は記念館と呼称されている屋敷に足を運ぼうとする。
「待ちなさい!」
8人の少年少女の内のひとり、藍色の髪の少女が私を呼び止める。少女の姿を瞳に捉え、無言のまま彼女を見つめる。
「(何だ……?)」
この藍色の髪の少女に既視感を憶える。この少女本人ではなく、この少女によく似た“誰か”と会った事があるような気がする。
少女は緊張した面持ちで、私に訊ねてきた。
「あなたは何者ですか? 何の目的でここに来たのですか?」
「……探しているのだ」
「探す? 一体、何を?」
「それは――」
「ライリー、どうしてここに!?」
「それに、留学生の皆か!」
《そいつから離れるんだ!》
新たな来訪者が現れる。騎士と思われる3人の若者がやって来た。
西門から聖王都に入った俺達は、黒騎士の行方を追う。町に入るなり、怯えた表情の市民を見つけ、事情を聞く。
怯えていた市民は、黒い鎧を纏った異様な人物と遭遇した事を話してくれた。幸い、黒騎士は市民には手を出していないようだ。
しかし……黒騎士は何者なのだ? 行動を共にしていた深淵教団を裏切り、聖王都にやって来た目的は?
いや、今はあれこれ考えている余裕は無い。死者は出ていないものの、既にかなりの数の騎士や兵士が黒騎士の手によって負傷している。
これ以上の被害を出さない為にも、見つけ次第拘束しなくては。感知術を発動させながら、俺はルディアとジスと共に町中を駆ける。
やがて、複数の反応を見つける。反応は9つ……何れも深淵の軍勢ではない。
場所も近い、目と鼻の先だ! 現場に急行した俺達が目にしたのは黒騎士と王立学園の生徒達だった。
あっ、とルディアが声を上げた。見知った顔だったからだ。
「ライリー、どうしてここに!?」
「それに、留学生の皆か!」
《そいつから離れるんだ!》
黒騎士と対峙していた彼等は、親善試合に参加していた各国からの留学生達……更には、ライリー嬢の姿もあった。
留学生の幾人かは武器を構えている。どうやら、彼等は黒騎士に戦いを挑むつもりだったようだ。
俺は生徒達に呼び掛ける。
「ライリー嬢、留学生の皆も下がっているんだ」
「ですが……」
「君達にどうにか出来るような相手ではない」
俺の険しい眼差しと言葉に、彼等も息を呑んで下がる。俺達は黒騎士を取り囲んだ――。
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