第81話 清々しい気分
……やれやれ、盛大に負けちまったなァ。試合を終えて、頭を掻きながらオレは闘技場の観客席に向かっていた。
あの赤髪のアンちゃん、聖王陛下の推挙で参加しているからかなりの手練れとは思っていたが、想像以上だったぜ。
にしても、気になるな。あの時の言葉――。
『僕には尊敬している方が居るのですが、その方には剣術で何度挑んでも勝てない有様でして……』
あのアンちゃんが勝てないなんざ、一体どれだけ化け物染みた奴なんだ、その尊敬している相手ってぇのは。オレは、正に井の中の蛙だったてぇ事か。
「や、ソラスくん。盛大に負けたね」
声を掛けられた。視線の先には、ザッシュの奴が手を振ってやがった……何やら両頬に往復ビンタされた跡がある。
「大きなお世話だ、このヤロー。つーか、何だその顔?」
「いやー綺麗なお姉さんが居たからナンパしてたら、例の如くリューちゃんに見つかっちゃってねぇ。ご覧の有様だよ」
「少しは学習しろや……」
「何言ってんの、リューちゃんにシバかれるならそれはそれで御褒美だよ(*´Д`*)♪」
「(駄目だ、こいつ。手の施しようが無ぇ……( ;´Д`))」
「ま、それはそうとして……ディゼルくんだっけ? とんでもない相手だね、彼」
ったく、急に真剣な眼つきに変わりやがって。テンションに付いていけねぇ。
こいつ、試合はしっかり観戦してたみてぇだな。真面目なんだか不真面目なんだか、はっきりして欲しいもんだぜ……。
溜息交じりに、オレは得物である双剣を抜く。刀身が半分ほど無い――当然だ、あの赤髪のアンちゃんに物の見事に切断されちまったからな。
ザッシュは双剣の切断面をまじまじと見つめる。
「おいおい……こりゃ、シャレにならないね」
「オメーもそう思うか」
自慢の愛剣を両方とも折られた事は悔しかったが、この切断面を見た瞬間に身震いするほどの衝撃を受けた。切断面は、まるで鏡のように滑らかだった。
オレが同じように剣を切断しても、こんな見事な切断面には出来ねぇだろな。しかも、あのアンちゃん――剣と剣がぶつかり合う“瞬間”にだけ武装強化術を発動してやがった。
身体強化術にしろ武装強化術にしろ、発動する時にはそれ相応の集中力が必要となってくる技術だ。剣と剣が激突するあの瞬間にだけ武装強化術を発動するとは……本当に恐ろしい奴だぜ。
負けはしたが、不思議と悪い気はしねぇ。寧ろ、清々しい気分だぜ。
「おりょ? 負けたのにあんま悔しくなさそうだねぇ」
「うるせー、それよか観客席に行こうぜ。もう少ししたら、第七試合だろ」
「そうだ、第七試合はリューちゃんの出番だった!! もし、見逃したりしたらシメられちゃうよ!!」
顔を真っ青にしながら、ザッシュのボケは観客席の方に全力疾走していく。やれやれ、ホントに騒々しい野郎だぜ。
ディゼル・アークスか――世の中は広いもんだ、オレよか若ぇのにあれだけの強さの持ち主が居るとは。機会があれば、再戦してみたいもんだ。
第一回戦も残すはあと二試合か……こっからは、ひとりの観客としてじっくり観戦させてもらおうかね。
切断された双剣を鞘に納め、オレは観客席に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます