閑話42 カレーマスタールーちゃん


 聖王宮の食堂。聖王宮に勤める者達の大半は、ここで食事を摂る。


 その日、俺ことロイド・グラスナーは新作スイーツを堪能すべく、食堂に向かっていた。さて、どんな新作スイーツなのか……期待に胸が膨らむ。


「うおっΣ( ºωº )!?」


 食堂に到着するなり、俺は目を丸くした。ズラーッと物凄い行列が出来ていたのだ。こ、これは……いかん、先を越されたか!?


 俺以外に、新作スイーツを求める人間がこれほどいようとは思わなかった。うーむ、ぬかった。


「ん……最後尾に立っているのはファイか?」


 行列の最後尾に同僚であるファイ・ローエングリンの姿を見つけた。彼女はトレイを持っている……その上には、空になった皿が置いてあるようだ。


 空になった皿を見るに、スイーツの類を食べたわけではないらしい。この行列、新作スイーツ目当ての人間が並んでいるわけではないのか?


 とりあえず、ファイに声を掛けてみた。


「ファイ」


「あら、ロイド。あなたも食事?」


「ああ、新作スイーツが出ると聞いてな……ところで、この行列は何なんだ?」


「ああ、あれよ」


 彼女が指差す方向に視線を向ける。視線の先にあったのは食堂のテーブルについて食事をする騎士や兵士達――彼等が食べているものはカレーだった。


「カレーか? 確かにカレーは人気メニューだが、ここまで行列が出来るとは思わなかったな」


「今日は作ってる人が違うのよ」


「何、そうなのか? ふーむ、俺も一皿頼んでみるか」


 長い長い行列を並び、俺の前に現れたのは――。


「あ、ロイド先輩。先輩も私のカレー食べに来てくれたんですか!?」


 エプロン姿のイノシシ娘こと、ルディア・クロービスであった。俺がその場でズッコケたのは言うまでもないだろう。


「先輩、何してるんですか? 後がつっかえるんで、早くして下さいよ」


「ああ、すまん……じゃないわ! お前、ここで何をやっとるんだ!?」


「カレー作ってます!」


 キラーンと歯を光らせながら、サムズアップするイノシシ娘。


「何で守護騎士のお前がカレーを作っているのかと聞いとるんだ!」


「食堂のおばさんが腰を痛めてカレーが作れないと聞いたんでカレー作りが得意な私が助っ人として参上しました(`・ω・´)ゞビシッ!」


 ……いやいや、お前が助っ人としてカレーを作るってどういう事だ。普通は他の料理人を呼ぶなりするものだろうが( ;´Д`)


 しかし、この行列を見る限りではこいつのカレーは大好評のようだ。ふむ……カレー作りが得意という話、案外本当なのかもしれんな。


「……とりあえず、俺も一皿貰うとしようか」


「はい、私の愛情がてんこ盛りのカレー一皿ですね!」


「愛情はいらん」 


 イノシシ娘お手製のカレーと新作スイーツを乗せたトレイを持って、俺は先にテーブルについていたファイの隣の席に座る。


「あら、ちゃんと新作スイーツも一緒なのね♪」


「寧ろ、俺にとってはこっちがメインだからな」


 正直、問題児のイノシシ娘の料理を口にするのは気が進まないが……と、思いながらカレーを一口。瞬間、口の中に旨味の世界が広がる!


 な、何だこれはァァァァァァァァァァァァァ!? う、美味い……これまでの人生で食べてきたカレーの中で一番の美味さだ!!


 美味過ぎて、スプーンが止まらない! 俺はあっと言う間に完食してしまった。


「信じられん……コレ、本当にルディアが作ったのか?」


「ええ、私なんてこれで5皿目よ♪」


 いや、食べ過ぎだろう……そういえば、ファイは辛党だったな。ちなみに、俺が食べたカレーは甘口である。


 イノシシ娘のカレーの評判は聖王宮で持ち切りになり、一ヶ月に一度だけルディアは食堂で手製のカレーを振舞うようになった。


 聖王宮に勤める者達はルディアをこう呼ぶ――カレーマスタールーちゃんと。


 ……いや、カレーマスターって何だ(;´・ω・)?





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