第79話 赤髪の護衛と砂漠の双剣使い(前編)
いよいよ、親善試合第六試合が開始される。私こと、ライリー・フォーリンガーはワクワクしていた――ディゼル先生の試合が見られるからだ。
先生とは親善試合が開催される今日まで特訓に付き合ってもらい、何度か練習試合も行った。だけど、あれはあくまで練習試合であり、私に合わせてくれていた。
これから始まる試合では何の制約も無しに戦う。つまり、ディゼル先生の本気を見る事が出来る。
視線を近くの席に座るリリアさんに向ける。彼女はギュッと両手を胸元に添えている……ディゼル先生の事を心配しているのかな?
「ぐ、ぐむぅ…… 漸く地面から出られた」
物凄い聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。いや、聞き覚えがあるどころじゃない、私の身内の声だったもの。
後ろを振り返ると、そこには頭に出来た大きなたんこぶを擦りながら歩いて来る父上の姿があった。そういえば、母上の拳骨で地面に沈められたままでしたね……忘れてて、ごめんなさい(;´・ω・)
母上が瞳をキュピーンと光らせながら、父上に微笑む。
「あなた……少しは自重して下さいな ♪」
「りょ、了解しました( ;´Д`)」
ウフフ、と威圧感を発しながら笑みを浮かべる母上に父上は震えていました。こ、心なしか、周囲に居る観客の皆さんも震えています……。
母上の隣に座った父上が、何やら資料を取り出して視線を走らせる。先ほどとは打って変わって、真剣な表情で資料を見つめていた。
何の資料を読んでいるのかな? 気になって、父上に声を掛けた。
「父上、何の資料を読んでらっしゃるんですか?」
「今大会に出場する選手の資料だ。今読んでいるのは、ディゼル・アークスに関する資料なのだが……」
「ディゼル先生の資料ですか?」
「ああ、この資料によると――彼は2ヶ月近く前にレイナード伯爵家のリリア嬢の護衛になったと記載されている。しかし、それ以外の情報が全く無いのだ」
その言葉に隣に座る母上も気になったのか、父上が持つ資料を覗き込む。
「全く無い……? 彼の生まれ故郷や御家族は?」
「記載されていない。判明しているのは名前と年齢、リリア嬢の護衛である事。彼が何処の生まれで、家族構成やこれまでの経歴は一切記されていない」
「あの、父上。私も見せて頂けますか?」
「ああ」
父上から資料を渡され、私は目を通す。そこに記載されていたは以下のような内容だった――。
ディゼル・アークス、17歳。2ヶ月前にレイナード伯爵家次女リリア・レイナードの護衛に就く。たった、これだけだった。
あまりにも簡素過ぎる内容に、私も開いた口が塞がらない。とても、参加選手の資料とは思えない内容だったからだ。
私や他国から参加する選手の資料には出身地や家族構成、ある程度の経歴が記載されているのに、ディゼル先生の資料にはそれが全く無いのだ。
そういえば、ディゼル先生はリリアさんの護衛を務めてるって聞いたけど、ほんの2ヶ月くらい前からなんだ。じゃあ、それ以前は何処で何をしていたのかな?
優れた剣術や体術の腕前に、魔法剣の扱いにも習熟している。非常に強い魔力も有しており、どう考えても貴族の御令嬢の護衛の域を超えているような気がするんだけど……。
「彼の素性は気になるが……今は、試合を観戦するとしようか。始まるようだ」
「あ――」
リングの上に立つディゼル先生とソラス殿が、それぞれの得物を構えていた。い、いよいよ始まるんだ……じっくり観戦しなきゃ!
大勢の観客達が集まる聖王国の闘技場。その闘技場のリングの上に、僕ことディゼル・アークライトは立っている。
正確には守護騎士ディゼル・アークライトとしてではなく、特別枠の参加選手ディゼル・アークスとしてだけど。エルド陛下からの御依頼とはいえ、再びこうして親善試合に出場する事になるなんて――世の中何が起きるか分からない。
以前に僕が参加した親善試合は、この時代から遡ること300年ほど前になる。ちょうど、僕が14歳で守護騎士になって4ヶ月が過ぎた頃に親善試合が開催され、騎士団枠からの参加者として僕は出場した。
参加選手の中で、僕が一番の若輩だったのは言うまでもない。学生枠からの参加選手ですら、その時の僕よりもひとつかふたつ年上の選手達ばかりだったのだから。
騎士団枠からの参加者として選ばれた以上、無様な試合をするわけにはいかなかった。自分がどこまで勝ち進む事が出来るのか、自分を試してみたいという気持ちも強かった。
あの時は準決勝で敗退してしまった。今回は何処まで行けるだろうか……この試合の為に用意した長剣を握る指に力がこもる。
対峙する相手は、砂漠連合騎士団所属のソラス・レイラント殿。彼が両手に持つ二振りの剣に注視する。
砂漠連合で有名な剣術といえば、先の試合でマイラ嬢が振るっていた蛇腹剣による変幻自在の蛇剣術。そして、もうひとつ――二振りの剣を用いて、手数の多さで敵を翻弄する双剣術が存在する。
二振りの剣を用いている点から見ても、ソラス殿が双剣術の使い手である事は疑いない。僕が持つ長剣と比較して刃渡りが短く、重量も軽量な方だろう。
『親善試合第六試合――開始ッ!』
闘技場内に、第六試合開始の合図が響く。
先に動いたのはソラス殿だった――身体強化術を使用せずに駆け出し、一気に距離を詰める。刃渡りが短いとはいえ、彼が持つ二振りの剣もそれなりの重量がある筈だ。
身体強化術も使わずに二振りの剣を持ったままで、この速度……並大抵ではない鍛錬の賜物だろう。ソラス殿は右手に握る剣から斬撃を繰り出す。
僕は繰り出された斬撃を受け止める。間髪入れず、彼は左手の剣で横薙ぎの一撃を繰り出してきた……僕は腰の鞘を引き上げる。
甲高い音が響き、横薙ぎの一撃は盾代わりに引き上げた鞘によって防がれた。僕の鞘には魔力が纏われている。鞘を武装強化術で強化したのだ。
互いに距離を取る、今度は僕の番だ。剣を上段高く構え、両足に魔力を集中。身体強化術で脚力を強化して、一気に駆け出した――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます