第78話 幕間 観戦する人々


 親善試合の様子は、開催国である聖王国から映像魔道具を通じて大陸全土に映像が送られている。


 映像用魔道具は、主に各国王城の謁見の間や町や村の広場に設置されいる。特に町や村の広場に設置されている大型の映像魔道具の前には、試合を一目見ようと多くの市民達が集まっていた。


 現在、第五試合までが終了した。次は第六試合――。






 帝国の首都である帝都、皇族達が住まう帝城謁見の間。設置された映像魔道具から送られてくる試合を観戦するのは、病床の皇帝である父に代わって政務を仕切る皇太子デューク。


 彼の傍らには妹であるふたりの皇女の姿もある――帝国の第一皇女フィアナと第二皇女クラリッサである。落ち着いた雰囲気を持つ姉と、活発な雰囲気を持つ対照的な姉妹として有名だ。


 フィアナは先日、16歳を迎えたばかり――常にヴェールで顔を隠しており、彼女の素顔を知る人間は家族を含めて極僅かしか居ない。彼女が素顔を隠す理由を知る人間も限られている。


 クラリッサは12歳、聖王国の第一王女ノエルとは同い年で文通し合う友人同士。彼女は瞳を輝かせながら、親善試合を観戦していた。


「選手の皆さん、凄いです!」


「ああ、そうだな。我が帝国はこれで1勝1敗か――フィアナ?」 


 皇太子デュークは第一皇女である妹フィアナの様子がおかしい事に気付いた。ヴェールで顔を隠している為に表情は窺えないが、小刻みに震えている。


 クラリッサも心配そうな表情で姉の手を取る。


「姉上、大丈夫ですか?」


「ごめんなさい、少し気分が優れなくて……」


「そうか……すまない、誰か」


 デュークが侍女を呼ぶ。侍女に連れられフィアナは謁見の間から退室していく。


 フィアナが居なくなった後、デュークは俯く。


「フィアナには、こういった試合の光景は見せない方がよかったかもしれないな。私の思慮が浅かった」


「兄上……」


「“あんな事”さえなければ、あの子が人前で顔を隠す事も体調を悪くする事もなかったかもしれないな……ん、どうやら次の選手達が入場してくるようだな」


 映像魔道具に第六試合に出場する選手達の姿が映る。


 ひとりは背の高い黒髪と褐色の肌を持つ青年――砂漠連合騎士団所属の騎士であるソラス・レイラント。まだ若輩であるが、1年ほど前に帝国騎士団と共同で行った深淵の軍勢の討伐作戦で多くの敵を討ち取った。


 もうひとりは、赤髪の青年――今大会に聖王国からの特別枠として参加する選手なのだが、彼に関する情報は殆ど分からない。デュークは手元にある資料に目を走らせる。


 資料に記載されている彼の名はディゼル・アークス。年齢は17歳である事と、2ヶ月ほど前に聖王国辺境に領地を持つレイナード伯爵家の次女リリア・レイナードの護衛になった事のみしか記載されていない。


「アークスか、初めて聞く家名だな。エルド陛下の推挙する人材ならば、相当の腕前とは思うが――クラリッサ、どうした?」


「どちらもカッコいいお兄さんです……(*´ω`*)」


「そ、そうか(;´・ω・)」


 野性的な男前のソラス、息を呑むほどの美男子であるディゼルを瞳をキラキラさせながら見つめるクラリッサ。デュークはやれやれと、溜息を吐いた。


 同じ頃、帝国以外の国家元首達の下に設置されている映像魔道具にディゼルの姿が映し出される。特別枠からの参加選手という事で、注目の的のようだ。


 聖王国闘技場観戦席に座るリリアはギュッと両手を握り締める。彼女の視線の先に居るのは勿論、自らの護衛を務めてくれるディゼルであった。

 

「(ディゼルさん、頑張って――)」


 リングの上に立つ両名が、それぞれの得物を構える。ディゼルは長剣、ソラスはやや短めの刀身の剣を二振り。


『親善試合第六試合、開始――!』  


 第六試合開始のアナウンスが闘技場に響いた。





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