閑話40 私の求めていた人


 ――子供の頃から、私は求めていた。私には捜さなくてはいけない人が居た。


 だけど、それが誰か分からない。何故、その誰かを捜さなくてはならないのか……自分でも分からない。だけど、見つけなくてはならないと思った。


 聖王国の辺境レイナード伯爵領、この地を治める伯爵家が邸宅を構える町の比較的裕福な家庭に私は生まれた。思えば、子供の頃から自分自身でも分からない事があった。


 誰に言われるわけでもなく、私は家事や雑務といった作業をテキパキとこなしていた。その手際の良さに両親は戸惑いを隠せなかったという。


 11歳になったある日、外で父の仕事を手伝っていると話し掛けてきた男性が居た。父は姿勢を正した――話し掛けてきた男性は、この地を治める伯爵様。


 私に伯爵家の侍女になってもらえないかとおっしゃられた。突然の話に、私も父も呆けてしまったのは言うまでもない。


 どうやら、子供とは思えない私の仕事振りが伯爵様の目に留まったらしい。私のような子供がお役に立てるのかしら。


「お父様、このお姉さんがお手伝いさんになってくれるんですか?」


 女の子の声が聞こえた。伯爵様の後ろからひょこっと、ひとりの少女が顔を出す――伯爵様おひとりではなかったみたい。


 紫髪と赤い瞳が印象的な少女、年齢は10歳にもならない。その子の姿を見た瞬間、まるで雷を受けたような衝撃が走った。


 この少女、だ。私が捜していたのは、求めていた人はこの子だ。


 涙が溢れてきた。どうして、涙が溢れるのか分からない。


 私が涙を流す事に、父も伯爵様も戸惑い、その少女も慌てた様子で傍に寄ってきた。少女が私の手を取る。


「お姉さん、大丈夫ですか?」


「はい……」


「私はリリア、リリアです――お姉さんは?」


「エリスです」


 これが私――エリスとリリアお嬢様の出会い。


 その後、落ち着いた私は迷わず伯爵様の申し出をお受けする事にした。お嬢様のお役に立ちたい、お傍に居たかったから。


 どうして、私はお嬢様を求めていたのか? その答えはまだ見つかっていない。


 月日は流れ、お嬢様は聖王都の王立学園に入学された。当然、侍女の私も一緒に同行している。


 ある日、学園の短期休暇で久々に故郷であるレイナード伯爵領に帰郷した。私とお嬢様を乗せた馬車は街道を走っていた。


 お嬢様は馬車の窓から外を眺めていた。最近のお嬢様は憂鬱な表情をされる事が多い――将来が不透明であると、不安になっているみたい。


 私にも何か出来る事はないかしら……そう思っていると、急に馬車が止まった。


「どうされました?」


「街道に、怪我をしている若者が居まして……」


「怪我を……?私が治します」


「あ、お嬢様!?」


 お嬢様が馬車から降りる。いけない、もしも危険な輩だったら危ない。


 私も直ぐに馬車から降りた。視界に入ってきたものは騎士の装束を身に纏った赤髪の青年の姿だった――。





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