閑話29 吾輩は添え物である


 ――吾輩は添え物である。断っておくが、吾輩は食べ物ではない。


 吾輩は聖王国に仕える兵士である。聖王国の養成機関と言えば、聖王都にある王立学園が有名であろう。


 しかしながら、吾輩は王立学園の出身者ではない。聖王国各地にある兵士訓練校出身の一般兵なのである。


 王立学園は騎士や魔術師を育てる教育機関である。この学園に通うには入学前に試験を受けて、合格ラインに届かなくてはならないのだ。


 残念ながら吾輩は辺境出身である為に、遠方にある聖王都まで王立学園の入学試験を受けに行く事が出来なかったのである。とほほ、である(´;ω;`)。


 そもそも、聖王国騎士団に所属している者は全てが騎士というわけではない。騎士団総長を頂点に、騎士団副長、守護騎士、上級騎士、一般騎士、兵士長、一般兵という階級になっているのである。

 

 王立学園を卒業した者は、一般騎士として騎士団に所属する。兵士訓練校出身の吾輩は一番下っ端の一般兵である。


 しかしながら、聖王国は実力を重視する国家でもある。王立学園を卒業していない一般兵であっても活躍次第では、一般騎士に昇格出来るのだ。


 実際、吾輩の先輩にあたる兵士の騎士叙勲の場に立ち会った事がある。先輩は現在、騎士のひとりとして剣を振るっているのである。


 吾輩も騎士になりたい。だから、どんなに過酷であろうと自分の職務を全うするのである。


 そして今――吾輩は、絶賛命の危険に晒されているのである。吾輩は聖王国内のとある町に出現した深淵の軍勢から、町の人々を避難させていたのである。


 聖王都のみならず、各地の町や村には深淵の軍勢の魔手から住人を守る為に結界を張り巡らせているのである。結界を作り出しているのは、結界柱と呼ばれる柱の形状をした魔道具である。


 結界柱には結界術が付与さているのだが、結界を発動させる為には魔力を送る必要がある。今、吾輩が訪れている町は結界柱が不具合を起こし、結界が消失してしまった。


 更に悪い事は重なるもので、狙ったタイミングの如く深淵の軍勢が襲来したのである。駆けつけた騎士団の部隊と兵士隊――吾輩も兵士隊の一員として、この騒動を収めるべく、奮闘しているのである。


 吾輩は走っている。自分ひとりではなく、小さな女の子を抱えて……逃げ遅れた子供なのである。足に怪我をしているらしく、歩く事が出来ないらしい。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお(;゚Д゚)!」


 気合の篭った掛け声と共に吾輩は子供を抱きかかえたまま、身体強化術で脚力を強化して全力で走る。王立学園よりも学ぶ事が少ないとはいえ、兵士訓練校でも魔法技術の習得は義務付けられているのである。


 聖王国騎士団に所属する兵士は、最低でも身体強化術と結界術を習得している。吾輩は同期生の中でも、身体強化術の成績だけはそれなりに良かったのである。


 兎に角、吾輩は子供を抱えたまま全力で走る。何せ、後方からは深淵の軍勢たる異形達が追いかけて来ているからである! 追いつかれたら、命はないのである!!


 ゼェゼェ……( ;´Д`)。ま、不味いのである、息切れしてきたのである。このままでは、吾輩もこの子も――諦めそうになった、その時であった。


「――天剣一閃」


 澄んだ声と共に、虹色の閃光が駆け抜けたのである。直後、深淵の異形達の奇声が響き渡る……何事かと、立ち止まって後ろを振り返る。


 背後から追って来ていた異形達が全て両断されて、霧散していく。吾輩の瞳に映ったものはひとりの騎士の後ろ姿、赤髪の騎士の後ろ姿。


「遅くなりました、大丈夫ですか?」 


「ぶ、無事であります(`・ω・́)ゝ!」


 若い……こちらに振り返った騎士は、まだ少年と言っても過言では無い。吾輩よりも年下かもしれない。しかし、彼が身に纏う騎士装束は一般騎士が纏う物とは異なっている。


 それは、聖王国の精鋭騎士たる守護騎士だけが纏う事が許される戦闘衣。そういえば、先輩達から聞いた噂話に最年少で守護騎士になった赤髪の少年の話があったような……確か、名前はディゼル・アークライト。


 そこから先は、ディゼル殿の大活躍が始まったのである。彼は襲い掛かって来る異形達を瞬く間に斬り伏せていった。


 お陰で、吾輩や仲間の兵士達は無事に町の人達を避難させる事が出来たのである。皆が無事であった事に安堵した吾輩。


 そんな時、連絡用に設置されている通信球が輝き出した。それは、通信魔法がこの通信球に送られてきた事を意味する。


 通信球を作動させると、声が聞こえてくる。どうやら、相手は聖王宮の文官殿――内容を聞いて、ビックリしたのである。


 何と、アストリア陛下……この国の女王陛下がディゼル殿にお会いしたいとの事。女、女王陛下――吾輩からすれば雲の上の存在である。


 と、ともかく、吾輩はディゼル殿のところに急いだ。 


「ディゼル殿!」


「どうしました?」


「聖王都から通信魔法が送られてきました。アストリア陛下がディゼル殿にお会いしたいと」


「アストリア陛下が? 分かりました、後をお願いします」


「了解であります(`・ω・́)ゝ!」


 ディゼル殿は後事を他の騎士や兵士達に任せて、聖王都に向かわれた。町の人々は、彼の姿が見えなくなるまで手を振り続けた。


 まだ年若いのに、立派なのである。吾輩もあんな風になりたいのである。


「コラ、そこの! ボーッっとしとらんで、キビキビ動かんかヽ(`Д´#)ノ!」


「りょ、了解であります(;´・ω・)!」


 兵士長に怒鳴られ、吾輩は仕事に戻る。


 ディゼル殿は料理で例えるなら、メインディッシュ。吾輩はどう頑張っても、メインディッシュを引き立てる添え物であろう。

 

 しかし、添え物にも添え物の矜持がある。吾輩は深呼吸した後、頬を叩いて自分の仕事に専念したのである٩( 'ω' )و





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