第72話 カイルの秘密幕間 アルル先生の栄養ドリンク
「うーん……ハッ!?」
ぼくは、ガバッと起き上がる。そこはベッドの上だった。
隣のベッドには、シエル嬢が眠ったままだ。彼女が教皇猊下のお孫であると聞かされた事で気が動転し、ぼくは意識を失ったようだ。
ぼくが眠っていたベッドのすぐ近くにある椅子に、ラウラ殿は腰掛けていた。
「アトスくん、気が付いた?」
「あ、あの……ラウラ殿、どれくらい気絶してました、ぼく?」
「大体10分くらいかしら?」
あ、あんまり時間は経っていないのか。こういう場合、丸一日過ぎてそうなイメージがあるんだけどなぁ。
ボゥンッ!
「!?」
「え、な、何、今の音! あ、アルル先生、何かあったんですか?!」
唐突に、聞こえてきた何かが爆発するような音。その音は、医務室の奥――アルル先生が居る場所から聞こえてきた。
「出来ました~」
そう言って、アルル先生がにこやかな笑顔でこちらにやって来る。先生は盆を手に持っている。
盆の上にはコップが置かれている……いや、置かれている物がコップだけなら何も問題は無いだろう。問題なのは、そのコップに注がれている液体だった。
コップの中身はゴポゴポという不気味な音を立てている、灰色と緑色が入り混じった奇怪な液体だった。あ、あれは、何だろう……飲み物、なのかな?
恐る恐る、ぼくはアルル先生に訊ねる。
「あの、先生……それは何ですか?」
「これですか~? これは、私の愛情がたっぷり詰まった栄養ドリンクですよ~」
栄養、ドリンク……? いやいや、どこからどう見ても危険物にしか見えないんですが(;゚Д゚)!?
「シエルさんが起きたら、これを飲んで頂こうかと思いまして~」
「ええっ!?」
ちょ、待って待って! そんな得体の知れない液体をシエル嬢に飲ませるつもりですか、あなたは?!
そんなの飲んだら、シエル嬢は第二回戦を欠場しかねませんよ!!? だ、駄目だ――ここは、ぼくが何とかしなくては!
失礼とは思いながらも、ぼくはアルル先生が持っている盆の上にあるコップを強引に奪う。
「あ~何するんですか~」
「あ、アトスくん! は、早まった真似をしないで!!」
先生とラウラ殿の声を無視し、栄養ドリンクという名の謎の液体を一気に飲み干した。その瞬間――ぼくの目の前に未知の光景が広がった。
医務室の中に居た筈なのに、何故か眼前には大草原が広がっていた。こ、ここは一体全体、何処なんだ……?
周辺を見回すと、何やら槍を持った半裸で奇怪な仮面と腰蓑を身に付けた集団が大きな焚火を囲んでぐるぐると回っていた。彼等は、怪しげな呪文を唱えながら延々と焚火の周りを回る。
な、何だあれは? 何かの儀式なのか?
「おいでませ、我らが守護神よ!」
仮面の一団のひとりが大声を上げる。すると、焚火の炎の中から――。
「アトスくん、しっかりしなさい!」
「はぁああああああああああああああああああっ(;゚Д゚)!?」
ラウラ殿の呼び掛けで、ぼくは正気に戻った。どうやら、幻覚を見ていたらしい……あの栄養ドリンクという名の不気味な液体を飲んだ事で。
「も~ダメじゃないですか~。新しいのを作らないと――」
「「作らなくて結構です!!」」
こんなんをシエル嬢に飲ませるわけにはいかないと、ぼくとラウラ殿の声は見事にハモッたのだった。
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