第71話 カイルの秘密3
女神様の石像が安置された祈りの間に祈りを捧げに向かう途中で、私はふたりの子供と出会った。年齢は私より、少し年下だろう――美しい銀髪を持つ男の子と女の子だった。
……って、もしかしてこの子達。さっき会った女の人が捜している子供達なんじゃないかしら?
あの人が捜してる子供達も銀髪って言っていたから、思いっ切り特徴が一致している。壁に隠れて、祈りの間に続く扉の方を見つめて何か話し合っていたみたいだけど……。
「どうしたの? こんな場所で何して――んぐっ!?」
私が言葉を紡ぐ前に、男の子と女の子が口を塞いできた。な、何なの、一体?
ふたりは、私を自分達の方に引っ張り込んだ。
「ご、ごめんなさい。声を出さないで」
「私達、病気の御婆様の為にお祈りに来たの。でも、見つかったら連れ戻されちゃうの」
つまり、お家の人達に内緒で女神様に祈りを捧げに来たって事? この子達を捜してた人に、見つけたら教えて欲しいって言われたけど……うーん、どうしよう?
病気の御婆様の為にお祈りしたいか――そんな話聞かせられたら、ほっとけないわ。よーし、それならお姉さんが一肌脱いであげちゃうわ!
「ふたりとも、ここはお姉さんに任せなさい。私が時間を稼いでる間に、御婆様の御病気が良くなるようお祈りを済ませてきて」
「え……あ、ありがとう!」
「んじゃ、早速行ってきますか!」
「それで、その子達にお祈りさせる為にちょっとした騒動を起こして祈りの間の扉の前を警護していた騎士達に追いかけられている間に、その子達は無事に御婆様の病気が快復するようにお祈り出来たの……それが、カイルくんとシエルさんとの出会いだったわ」
闘技場内の医務室、ベッドの上で眠るカイル殿――いや、シエル嬢の頭を優しく撫でながら、ラウラ殿は懐かしそうにふたりとの出会いを話してくれた。
いや、それ以上にぼくには気になっている事があった。ラウラ殿に訊ねてみる。
「あの……ラウラ殿、具体的にどんな騒動を起こしたんですか?」
「まぁ、色々よ。 若気の至りって奴かしら、少しやり過ぎちゃった感はあったけどね♪」
「は、はぁ……」
一体、何をやったんだこの人。真面目そうな人に見えたんだけど、意外とお茶目な人だったみたいだ。
っていうか、若気の至りって……まだ、十分お若いでしょ。8年前、11歳だったって事は、今は19歳くらいかこの人。
「まぁ、その後が大変だったわ。騒ぎを聞きつけてやって来たお父様にこってり絞られて正座させられちゃって……」
どうやら、ラウラ殿の御父上がやって来て盛大に雷を落とされた模様。そりゃそうだよなぁ、我が娘が女神像を奉る神殿内で騒動を起こしたら大問題だもんな。
「まぁ、そんな騒動を起こしてタダで済むとは思ってなかったわ。お父様から、何らかの罰を与えられる覚悟はしたんだけど……」
それに待ったを掛けたのが、カイル殿とシエル嬢だったという。彼等は自分達の祖母殿の為に女神様の石像にお祈りしたいが為に、ラウラ殿がこんな騒動を起こした旨を事細かに説明してくれた。
ふたりの必死の説明もあって、ラウラ殿の御父上も眉間を押さえながら許してくれたという……まぁ、流石に拳骨一発はもらったそうだけど。
「いやー、あの時のお父様の拳骨は痛かったわ。でも、カイルくんとシエルさんが事情を説明してくれなかったら、もっと大きな罰を受けてたかも」
「そ、そうですか。あ、そういえば……御話を聞いていて気になったんですけど、カイル殿とシエル嬢は身分の高い家柄の御子息と御息女なんでしょうか?」
「ええ、ふたりの家系であるハーツィア家は創世神国でも知らぬ者が居ないほどの名家なの。貴族の家柄で例えるなら、公爵家ってところかしら?」
「こ、公爵家!?」
公爵家は貴族の階級の中では最上位……た、確かに公爵家に比肩するほど身分の高い家柄の子供が居なくなったら、捜索する側は気が気じゃないだろう。
「うーん、実はそれだけじゃないのよね。聖王国とも深い関りがあるの」
「聖王国と?」
「ええ、シエルさんの高祖母にあたる方が聖王国から嫁いだ公爵家の御令嬢だったそうなの。確か、アルフォード公爵家だったかしら?」
「あ、アルフォード公爵家!?」
ラウラ殿の口から出た家名に更なる衝撃を受ける。アルフォード公爵家といえば、聖王家に連なる名家じゃないか!?
「ええ、そうよ。今、この聖王国を治めるエルド陛下の御先祖である聖王グラン陛下もアルフォード公爵家の出身だそうだから、シエルさんとエルド陛下は遠戚関係にあたるわ」
開いた口が塞がらない。ぼくの家系であるロンド家も一応貴族だけど、階級は子爵家――公爵家の御令嬢が嫁がれるなんて、ハーツィア家はロンド家とは比較にならない名家と言っていいだろう。
「まぁ、それ以上に一番の理由は――」
「え、まだ何かあるんですか?」
もう、既に情報量が濃過ぎてお腹一杯の状態なんですが。これ以上、何を聞かされると言うんですか?
「教皇猊下のお孫様って事かしら」
「……は?」
ラウラ殿の口から放たれた一言に、思考が停止する。今、この人は何て言ったんだ?
「いや、だから、教皇猊下のお孫――」
「あ、あの、つかぬ事を御伺いしますが、ラウラ殿」
「え、何?」
「きょ、教皇猊下とは女神教の最高指導者で創世神国の国家元首であらせられるあの教皇猊下の事でございましょうか!?」
「もう、何言ってるのよ。創世神国の教皇猊下といえば、その御方以外に存在しないじゃない――って、アトスくん!?」
ぼくは、ブクブクと泡を吹いて卒倒した。し、シエル嬢が、きょ、教皇猊下のお孫様……い、いくら、体調が悪いからと医務室に運んだとはいえ、そんな雲の上の御身分の御方の御身体に触れてしまうなんて。
も、もし、これが教皇猊下のお耳に入ったら、ぼ、ぼくはどうなってしまうんだろうか? ラウラ殿が呼び掛けるも、ぼくの意識は暗闇の中に溶けていった。
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