第67話 雪国から来た少女と燃える少女
え、えーと……第三試合は予想外の出来事があり、マイラ嬢が勝利した。彼女は頬を真っ赤に染めながら、裂けた衣服の胸元を直していた。
彼女の手刀による当身で気を失ったライカ殿は、担架で運ばれていった。ライカ殿、あのような事態が起きなければ勝者はライカ殿だったかもしれませんね……。
ふと、僕は近くの席に座っているライリー嬢や彼女の友人達の様子がおかしい事に気付いた。一体、どうしたのだろうか?
「ライリー嬢、どうしたんですか? 何処か、具合でも悪いのですか?」
「……いえ、何でもありません。女性として、敗北感を感じまして」
「は?」
そう言って、ライリー嬢達は自分達の胸元に手を当てていた。
「マイラさん、同い年なのにこの差は……」
「う、羨ましい……」
涙目になるライリー嬢達――い、一体何なんだろう? 困惑する僕に、リリア嬢が真っ赤な顔で話し掛けてくる。
「ディゼルさん、少しはライリーさん達の気持ちを察して下さい……」
「ディゼル殿、空気を読んで下さい」
「は、はい……?」
リリア嬢とエリス殿の言葉に、困惑が深まる一方だった。これは、どういう事なのだろうかと、グレイブ殿に訊ねてみようとしたところ――。
「ロゼ御嬢様……その、」
「グレイブさん、何も言わないで下さい……(´;ω;`)」
ロゼ嬢もライリー嬢達と同じように、涙目で胸元に手を当てていた。グレイブ殿は、何やら焦った表情でロゼ嬢に言葉を掛けようとしているみたいだけど……。
「あ、見つけた! ディゼル殿、ライリー、ここに居たんですね!」
僕達が居る観客席に来訪者が訪れる――ルディア殿とロイド殿、そして氷雪国から来たというシルク嬢だった。ルディア殿が手を振りながら、こっちに向かって来る……何やら、頭に大きなたんこぶが出来ているのが気になる。
「いやー、第三試合があんな幕引きになるなんて思いもしませんでしたね」
「あの、ルディア殿? その頭のたんこぶ……どうしたんですか?」
「え? ああ、これですか? マイラさんの胸がおっきーなって言ったら、ロイド先輩からシバかれまして(・ω≦) テヘペロ♪」
ルディア殿の発言に、ライリー嬢やロゼ嬢が涙目で彼女に詰め寄る。
「そうですよね、ルディア先輩!? マイラさん、大きいですよね!?」
「同年代なのに、納得いきませんわ!」
ワンワン泣く彼女達……えーと、つまり、彼女達は自分の胸の大きさを気にしていたって事なのかな? リリア嬢とエリス殿がジト目で僕を睨んでくる。
「ディゼルさんの鈍感……」
「ディゼル殿、もう少し女性の事を勉強なさって下さい」
い、いえ、そう言われましても……(;´・ω・)。微妙な空気が漂う中、それを打ち破るようにルディア殿が腕を組んで笑みを浮かべる。
「フッフッフッ……皆さん、甘いですよ! 世の中、上には上が居るのです! こちらのシルクさんをご覧なさい!!」
「えっ、えっ(;゚Д゚)?」
突然、名指しされて困惑するシルク嬢。ライリー嬢やロゼ嬢達がジーっとシルク嬢の胸元に視線を向け、驚愕の表情に変わる。
「はうっ(;゚ω゚)!?」
「しゅ、しゅごいですわ(;・∀・)!!」
「でしょー!? マイラさんもなかなかのモノをお持ちのようですが、シルクさんのたわわな果実にはまだまだ及び――んごぉおおおおおおおおおおおっ!?」
ルディア殿は、最後まで言葉を紡ぐ事が出来なかった。例の如く、ロイド殿がアイアンクローをルディア殿に極めたからである。
「先輩ィィィィィィィィ! 可愛い後輩にアイアンクローをかますなんて、先輩は鬼ですかァァァァァァァァァァ!?」
「やかましい、少しは自重しろ(# ゚Д゚)」
「ろ、ロイドさん……私、気にしてませんから」
アイアンクローを極めているロイド殿を、シルク嬢が宥める。
「あれ? そういえば、初めてお会いしますけど……ロイドさん、ルディアさん、そちらの方は?」
リリア嬢がロイド殿達にシルク嬢の事について訊ねてきた。ロゼ嬢も気になるのか、うんうんと頷いている。
ああ、そういえば……僕とライリー嬢は今朝、闘技場の外でシルク嬢と顔を合わせたけど、リリア嬢やロゼ嬢達は初対面だったな。
「ああ、こちらは氷雪国の宮廷魔術師であるシルク嬢だ」
「きゅ、宮廷魔術師!?」
ロゼ嬢が驚きの声を上げる。リリア嬢も声こそ出してないけど、口元を押さえて驚いていた。
いや、彼女達が驚くのも無理は無いか……僕とライリー嬢も驚いている。どう見ても、シルク嬢はリリア嬢達と殆ど変わらないくらいの年齢にしか見えない。
彼女が氷雪国から来た人間という事は初対面の時に聞いたけど、宮廷魔術師だったなんて。しかし、シルク嬢は焦った表情でそれを否定してきた。
「ま、まだ正式な宮廷魔術師じゃないです……。私、この国で色々と学ぶ為にやって来たんです。それに、ルディアさんと主従契約を結んでいますし……」
「え……主従契約を?」
主従契約といえば、主となる者と従者となる者が結ぶ魔法契約。何故、シルク嬢とルディア殿がそれを結んでいるんだろう?
「それについては、俺から説明しよう――」
ロイド殿が溜息交じりに、事の詳細を説明してくれた。氷雪国で起きた氷漬け事件、強い魔力を制御出来なかったシルク嬢の境遇、そんな彼女をルディア殿が身体を張って救った事……。
「で、このイノシシ娘が自分の魔力でシルク嬢の魔力を制御した時に、偶然主従契約が結ばれてしまってな」
「そんな経緯が……」
そういえば、昔読んだ文献に自分と他者との魔力干渉で主従契約に必要な儀式も無しに、契約が結ばれた稀有な例があるという記述を目にした記憶がある。彼女達は、正にそれに当てはまるというわけか。
氷雪国の筆頭魔術師殿の話では、研鑽を積めばシルク嬢は大陸有数の魔術師になり得る可能性があると。それだけの才覚を持つシルク嬢が結界術を体得すれば、氷雪国の大きな守りとなるだろう、と。
なるほど、氷雪国は常に寒波に晒されている寒冷地帯として有名だ。強い魔力を秘めるシルク嬢が結界術を体得すれば、心強い事この上ない。
「ふっ、ふふふ……」
「え?」
「ロゼ御嬢様?」
何やらロゼ嬢が笑っている。どうされたんだろうか?
グレイブ殿も気になったのか、彼女に声を掛けようしたが――。
「俄然燃えてきましたわ! そんな凄い人がこの聖王国に留学されるなんて、リリアさんに並ぶ新たなライバルの出現ですわ!」
……何か、ロゼ嬢のスイッチが入ってしまったみたいだ。リリア嬢同様、優れた才覚を持つシルク嬢もライバルとして捕捉したようだ。
ロゼ嬢は瞳に炎を燃え上がらせながら、シルク嬢の両手を握る。
「シルクさん、私負けませんからね!」
「は、はひ……よ、よろしくお願いします」
ロゼ嬢の勢いに、シルク嬢は圧倒されている模様。視線をグレイブ殿に向けると、彼は顔に手を当てていた……が、頑張って下さいね、グレイブ殿(;´・ω・)。
ディゼル達が居る観客席から少し離れた場所で観戦していたザッシュとリューは、賑やかなディゼル達の様子を眺めていた。
「あちらさんは、何か楽しそうだねぇ。女の子もいっぱい居るみたいだし、ちょっと行って来ようかな?」
「ザッシュ、女の子達に余計なちょっかい掛けようとしたら――どうなるか、分かってるわよね♪」
にこやかな笑顔で、指をボキボキ鳴らすリュー。顔面蒼白になるザッシュ。
「こ、ここでリューちゃんと一緒に観戦します……((((;゚Д゚))))」
「よろしい――あ、いよいよね」
リングの上に、第四試合の出場者であるアトス・ロンドとカイル・ハーツィアが姿を現した。
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