第64話 母と友


「ん~負けちゃったかぁ、まさか、テナの剣が折られちゃうなんて。ライリーちゃん、凄いね」


「この日の為に続けてきた鍛錬の賜物だと思います」


 テナさんは苦笑いしながら、折れた大剣の刀身を拾っていた。改めて、彼女の持つ大剣を見ると、相当刃が分厚い大剣だわ――ディゼル先生との特訓が無ければ、きっと折る事は出来なかったと思う。 


 ディゼル先生、ありがとうございます。あなたとの特訓の成果もあって、勝利を掴む事が出来ました。


 テナさんと握手を交わし、リングから下りていく。私とテナさんが居なくなるまで歓声と拍手は続いた。


 控室に戻ると、テナさんは居なくなっていた。観客席に居るイリアス殿のところに行ったのかな?


「ライリーさん、二回戦進出おめでとう!」


 声を掛けてきたのは、砂漠連合出身のマイラさん。次の試合の出場選手だから、準備をしているみたい。


「ありがとうございます。マイラさんも試合頑張って下さいね」


「うん、相手はリナさんのお兄さんだから油断せずにいかないと」


 マイラさんの対戦相手は、第一試合でイリアス殿と戦ったリナさんの双子の兄上であるライカ殿……おそらく、彼も刀を扱う剣の使い手に違いない。


 私は準備しているマイラさんに目を配る……彼女が使う武器は手甲? マイラさんは右手に手甲を付けていた。


 通常の手甲と違うのは、手甲に刃が装着しているという点。剣と手甲が一体化している非常に変わった形状をしていた。


 一体、彼女はどんな戦闘技術を体得しているのかしら? 控室から出て行く彼女を見送り、私は観客席に向かう。


 私の次の試合までは、まだ時間がある。第一回戦終了後には、再びくじ引きが行われ、第二回戦の相手を決める事になっている。


 その間は観客席で他の選手の人達の試合を見学しよう。他国の戦闘技術を見られる機会なんて、そうそうあるもじゃない。


 何よりも、楽しみなのはディゼル先生の戦いが見られる事――彼の対戦相手は騎士団枠の選手。学生枠の選手とは異なり、先生の相手は実戦経験がある手練れの騎士――どんな戦いになるか、今からワクワクしちゃう。


 観客席に行くと、真っ先に私を迎えてくれたのは母上だった。


「ライリー、二回戦進出おめでとう」


「ありがとうございます、母上。あ、あの~……」


「あら、どうしたのかしら?」


「い、いえ、ち、父上はどうしたんですか? 何か、地面に埋まっているんですけど……」


 母上の直ぐ近くには、地面に埋まっている父上の姿があった――何か、白目を剥いているみたいだけど。周囲の観客の人達は、真っ青の表情で視線を逸らしているし……な、何があったのかしら。


「ああ、これですか。実は……」


 母上は溜息交じりに語り出す。どうやら、私の勝利が決まった瞬間に号泣&雄叫びを上げた父上を、母上が拳骨で沈めた模様。


 他の観客の迷惑になったらいけないと父上を止めたみたい。や、やり過ぎなんじゃないかな?


「全く、この人は……試合中は真剣に観戦していたのに、ライリーの勝利が決まった瞬間に親バカが爆発するんですから」


「あはは……ふにゃっ!?」


 苦笑していると、急に後ろから誰かに抱き締められた。驚いて、変な声が出ちゃった……も、もしかして、と抱きついてきた人物に視線を向ける。


「ライリー、凄いじゃない! 何時の間にあんなに強くなってたの!?」


 抱きついてきたのは、親友のティナだった。彼女だけじゃない、騎士科の友達や後輩達も集まっていた。みんな、応援に来てくれたんだ――。 


 母上がティナ達に深々と頭を下げる。


「皆さん、娘の応援に御越し頂いた事を誠に感謝致します」


「い、いえ! こちらこそ、フォーリンガー御夫妻にお会い出来て光栄です!」


 ティナ達は母上の丁寧な挨拶に緊張している。ローエングリン家ほどの騎士の名家じゃないけど、フォーリンガー家も騎士として名を馳せているからかもしれない。


 母上の佇まいに圧倒されているみたい……まぁ、色んな意味で圧倒されるかもしれない。何せ、父上をこんな風にしちゃうからね。


「……あ」


 私の視界にある場所が映る。そこには、ディゼル先生やリリアさん達の姿があった――ここから少し離れた観客席で観戦しているみたい。


「ライリー、どうしたの?」


「ディゼル先生があそこで観戦してるみたい」 


 地面に埋まっている父上を放置して、私と母上、ティナ達はディゼル先生のところに向かう。えーと、父上、後でお会いしましょう……(;´・ω・)。


 ディゼル先生達が居る観客席に到着する頃、リングの上にマイラさんとライカ殿が姿を現した――。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る