閑話19 腐れ縁は、何時までも
聖王国歴739年――深淵の戦いと呼ばれる、あの過酷で凄惨な戦いから12年の月日が流れた。聖王国の守護騎士を務める俺こと、ジャレット・クロービスは何時も身に纏う守護騎士の戦闘衣ではなく全く違う服を身に纏っていた。
俺が身に纏っているのは結婚式用の礼服。今、俺が居るのは結婚式場の花婿の控室――今日、俺は結婚するのだ。
「(まさか、俺が結婚する日が来るとは夢にも思わなかったな。しかも、相手が相手だからなぁ……)」
別室で花嫁衣裳を纏っている結婚相手の事を考えて、少ししかめっ面になってしまう。俺の結婚相手は王立学園時代から、かれこれ16~17年くらいの付き合いになる。
結婚相手があいつとは、腐れ縁ってのは切っても切れねぇもんなのかねぇ。溜息交じりに頭を掻いていると、控室の扉を叩く音が聞こえてくる。
「どうぞ」
入室を許可すると、入って来たのは藍色の髪の女性。ブレイズフィール侯爵家のレイン・ブレイズフィール夫人だ。
「ジャレットくん、久し振りね――結婚、おめでとう」
「御久し振りです、レインさん。旦那さんは一緒じゃないんですか?」
「あの人は、先に会場に行ってるわ。グラン陛下とアストリア様と談笑されているみたい」
「……まさか、グラン陛下と王妃様まで俺の結婚式に参加して頂けるとは恐縮っス」
……正直、緊張するなという方が無理な話だ。この国の国王陛下と王妃様が直々に結婚式に来て下さっているのだから。
俺の家系クロービス家は、アークライト家やローエングリン家のような聖王国建国の頃から続いてきた由緒正しい騎士の家系ってわけじゃない。クロービス家から騎士になった人間は俺が初めてだ。
普通なら、そんな一般家庭からのポッと出の騎士の結婚式に国王陛下と王妃様が出席するなんてあり得ない。おふたりが出席して下さるのは、俺がレインさんの弟の友人だからだろうな。
レインさんはアークライト家の長女――俺の友人だったディゼル・アークライトの実の姉だ。ディゼルは最年少で守護騎士に昇格し、守護騎士隊長を務めたグラン陛下が最も目を掛けていた部下だった。
深淵の戦いの最終局面、深淵の王封印の際にあいつはグラン陛下を闇魔法から庇ってこの世界から姿を消したという。葬儀の際は空の棺しか無かった。
それから、暫くしてからだったな――ディゼルが護衛を務めたアリア殿下が亡くなったのは。俺はアリア殿下と話した事が一切無いから、殿下がどんな方だったかは詳しく知らない。
だけど、守護騎士に就任してから守護騎士の先輩達や聖王宮の侍女達の話を聞く限り、アリア殿下はディゼルの事が好きだったんだろうな。考えたくないけど、もしかして殿下はあいつの後を追って……。
「ジャレットくん、どうしたの?」
「……え? ああ、何でもないっス」
「?」
レインさんに声を掛けられて、我に返る。いかんいかん、完全に別の事を考えちまってたな。
「そろそろ時間みたいね。あまり、花嫁を待たせたら一生の弱みになるかもしれないわよ?」
「そりゃ勘弁」
よし、行くとしますか――花嫁のところに。俺は控室を出て、式場へと向かう。
式場前の扉には、花嫁衣裳に身を包んだ黒髪の女性が立っていた。最早、切っても切れない間柄であるアメリー・フュンリーの姿がそこにあった。
「……」
思わず、息を呑んでしまった。花嫁衣装のアメリーの姿を見て、目を逸らす事が出来なかった。
そんな俺の視線に気付いたアメリーは、悪戯っぽいを笑みを浮かべた。
「何? 私があまりにも綺麗だから見惚れちゃった?」
「ば、ばばばばば馬鹿言ってんじゃねぇよ! オラ、行くぜ」
「はいはい」
扉の前に立つ、俺とアメリー。
「……ディゼルにも来て欲しかったな」
「そうね……でも、きっと見守ってくれてるわ」
「ああ、そうだな」
扉が開き、俺とアメリーは入場した。盛大な拍手と共に結婚式は始まった。
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