第61話 大地の守護者
僕とグレイブ殿は、互いに顔を見合わせる。
「ディゼル殿も気付いたか」
「ええ、フラット一族といえばボルメスク山脈を守護する戦士の一族ですね」
僕達の会話に、リリア嬢とロゼ嬢もハッとした表情に変わる。どうやら、彼女達も聞き覚えがあるようだ。
「ボルメスク山脈って確か……」
「学園の授業で習いましたわ――氷雪国にある聖地ですわよね?」
「ええ、その通りです」
氷雪国に、ボルメスク山脈と呼ばれる山地が存在する。その地を守護するフラットという姓を持つ一族……彼等は、“大地の守護者”の異名で知られている。
僕達が住まうこの世界は、“女神”が御創りになられたという。世界が誕生した際、女神はこの大陸の中心に降り立ったと伝えられている。
女神が降り立った大陸の中心には現在、ひとつの小国が存在する――大陸最古の歴史を誇る創世神国。女神が最初に降り立ったとされるこの地は、大陸中に多くの信徒を擁する“女神教”の総本山である。
伝説によると、氷雪国にあるボルメスク山脈にも女神は降り立ったという。その伝説から、ボルメスク山脈は女神教の総本山である創世神国から聖地のひとつに認定されている。
そして、遥か昔からボルメスク山脈の麓に住まい、聖地である山脈を守り続ける戦士達が居ると、学園の授業で習った事を思い出した。戦士達はフラットという姓を持つ一族で、全員が強い地の力を宿しているとされている。
フラット一族は聖地を守護する大役を女神から直接任され、女神から強い加護を与えられ、極めて強い地の力を有しているという。あくまで伝説や御伽噺の類で真相は定かではない。
しかし、それは単なる伝説や御伽噺ではないかもしれない。彼等は実際に、特異な体質を持つ事が確認されている。
通常、各々が宿す属性の高度な魔法を発動するには魔道具や魔法陣によって属性の力を増幅しなければ発動出来ないとされている。それにも関わらず、フラット一族は地の力を増幅しなければ発動困難な鋼体術を魔道具や魔法陣による恩恵も無しに発動出来るのだ。
僕が王立学園に在籍していた頃、授業中に聞いた内容によれば、フラット一族の下にある学者が訪れ、数ヶ月に渡って彼等と交流しながら、彼等の特異体質について研究した事があるという。
学者の研究結果により、ある事実が判明した。フラット一族は地面……即ち、この大地そのものから力を借り受けて地の力を増幅する事が出来る特異な体質を持っていると。
大地から直接力を与えられ、聖地である山脈を守護するフラット一族――それゆえに、彼等は“大地の守護者”と呼ばれているのだ。
テナ嬢はその戦士一族の人間なのだろう。大地から与えられる力で地の力を増幅する事で、鋼体術を発動しているに違いない。
ライリー嬢はテナ嬢を気絶させるのが狙いだったのだろうけど、それは通用しない。残る手段は、相手を場外に落とすか相手の武器破壊のどちらかしかない。
――ライリー嬢、今こそ特訓の成果を見せる時です。この数週間で、僕から学んだ技術を用いれば、勝機を見出せる筈です。
リングの上で、緊張した面持ちのライリー嬢に無言のエールを送った。
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