閑話17 人気者と不人気者


 聖王国歴724年――その日、俺ことジャレット・クロービスは騎士科の同期生達に呼び出された。ちなみに、全員が男子生徒。


 ……一体、何だってんだ? 俺、何かしたか?


 まさか、俺と果し合いをしようってか――上等だ、俺に喧嘩を売るたぁいい度胸だぜ。まとめて返り討ちにしてやらぁ。


 俺は指をボキボキ鳴らしながら、呼び出した奴等のところに向かう。場所は騎士科の空き教室、主に物置として使われている。


 ガラッと空き教室の扉を勢いよく開ける。


「おう、来てやったぞコノヤロー共。俺に喧嘩を売るたぁ、いい度胸――」


「ウォオオオオオオオオン!」


「――!?」


 空き教室に到着するなり、俺を出迎えたのは号泣する同期生達だった。おいおい、何だ?


 こいつら、何で泣いてんだ……? 同期生のひとりが、俺に視線を向ける。


「じゃ、ジャレット、よく来てくれた!」


「お、おお? ど、どうしたよ? オメーら、何で泣いてんだよ?」


「こ、これを見てくれよ!」


 そう言って、同期生のひとりが手渡してきた一枚の紙を受け取る……えーと、学園男子生徒人気投票結果? 何だ、こりゃ?


「おい、何だよこれ?」


「知らないのか、ジャレット!? 学園の女子達が定期的に行っている、学園の男子生徒の人気投票だ!」


 ……いや、初耳なんだけど。つーか、女子達がんな事してるなんて知らなかったぜ。


「で、これがどうしたんだよ?」


「見りゃ分かるだろ!? ここに居る面々が、誰ひとりランクインしてないんだよォォォオオオオオオ!!」


 同期生達の慟哭(?)が響き渡る――ああ、うるせぇなぁ、もう……。


「お前等……こんなモンを見せる為に俺を呼び出したのか?」


「それ以上にこれを見てくれよ、第一位の男子生徒をよォ!」


 第一位の男子生徒? つまり、一番人気がある男子ってことだよな?


 一体、それがどうし……あ。スゲーよく知ってる顔が一位だった。


「……どう見ても、ディゼルだよな」


「そう、ディゼルなんだよ! あいつ、もう三回連続で一位だぞ!?」 


 男子生徒人気投票第一位は、俺達がよく知るディゼルだった。しかも、同期生の話では三回連続で一位に輝いているとか。


「ま、でも仕方ないんじゃねーか? だって、あいつ顔良いし」


「ぐふぉっ!」


「学年首席だし」


「ぶふぉっ!」


「騎士の名家出身だし」


「げはぁっ!」


「つーか、そんだけモテ要素持ってるのに嫌味な部分とか鼻に掛ける部分とかが全然ねぇから、女子に人気があるんじゃねーか? って、おいおい……どうしたんだよ?」


 空き教室に集まっている男子一同が、床に倒れ伏している……俺、何か、悪ィ事でも言っちまったかな?


「うぅ……ジャレット、お前容赦ないな」


「いや、事実しか言ってねぇけど?」


「コンチクショー! 世の中、不公平だァァァァァァ! ディゼルが嫌な奴だったら、どんだけ心が楽になる事かァァァァァァァ!!」


 益々、号泣する同期生達。つーか、こんなもんに拘らねぇで、鍛錬のひとつでもした方がよっぽど有意義……ん、何だ?


何か、もう一枚あるな。こっちは人気投票じゃねぇみてぇだな――えーと、学園の不人気男子?


「へぇ、不人気な奴の事も書かれてるんだな。こっちはランキングとかは無いみてぇだけど……あ、お前等の顔と名前が書かれてんぞ」


「何ぃぃぃぃいいいいいいいいいっ!?」


 同期生達が、一斉に不人気男子の事が書かれている紙に釘付けになる。女子からのコメントも記載されているみたいだな。

 

「えーと……〇〇〇は眼つきがいやらしい」


「うぐっ!」


「○○○○は声がうるさい」


「はうっ!」


「○○は何か嫌」


「何か嫌って何だよ!? 嫌な部分を詳しく書いてくれよ!!?」


 的を得てるコメントばっかだな~。バンバンと、床を叩いて号泣する同期生達を見てると、思わず笑いが込み上げそうになるぜ(*`艸´)ウシシシ。


「あ、ジャレットも不人気男子に書かれてんじゃん!」


「ぬなっ!?」


 同期生のひとりが、指差す部分に視線を向けると、そこには確かに俺の名前が書かれていた。やれやれ、俺も不人気男子の一員かよ。


 まいったな、と頭を掻く俺に対して同期生のひとりが、俺についてのコメントを読み上げる。


「ジャレットは足が臭いだって」


「……」


 俺に関するコメントを記載した女子の名前を注視する――コメント者『アメリー・フュンリー』。


 コメント者の名前を見た瞬間……俺は無言のまま、空き教室から出て行こうとする。同期生達が一斉に立ち上がり、俺を引き留めようとする。


「おい、落ち着け!」


「ジャレット、抑えて!」


「ざけんじゃねぇぞ、あのじゃじゃ馬がぁぁぁぁあああああああああ! 誰の足が臭いだ、コラァ!! 俺の足の匂い直接嗅がせんぞ、あぁんヽ(`Д´#)ノ !?」


「落ち着けって! 気にするなよ、足が臭い事くらい」


「だから、臭くねーよ! オラ、確かめてみろ!!」


 そう言って、俺は靴を脱いだ――途端、空き教室に居た面々が苦しみ出した。


「ぐふぉぉぉおおおおおおおおおおっ!?」


「な、何ちゅう匂いだ……は、鼻が曲がるぅぅうううううう!」


「目が、目が沁みるぅぅぅううううううううっ!」


 鼻や目を押さえて、床に転がる同期生達。困惑する俺。


「……え? いや、お前等大げさ過ぎね?」


「大げさじゃないわァァァァァァァ!」


「アメリーのコメント、完全に的を得てるじゃねーかァァァァァ!!」


「んだと、コラァ! お前等は不人気男子の仲間である俺よりも、あのじゃじゃ馬の肩を持つ気か、あぁん(# ゚Д゚)!!?」


『当たり前だ!』


 満場一致でアメリーの肩を持つ同期生達と俺の言い争いは、教官達が駆けつけるまで延々と続いた。その後、こってりと絞られたのは言うまでもねぇ。


 つーか、空き教室にやって来た教官達も鼻を摘まんでた。俺の足って、そんなに臭いのかな……(´;ω;`)。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る