閑話14 闇の力、市長の考察
魔法都市ラングレイ中央省庁の執務室にて、市長である私――メルトディス・ラングレイは取り寄せた文献に目を通していた。今、私が目を通しているのは闇の力に関する記述が記載されている古い文献だ。
我々が住まうこの世界に生まれる人間は、天光雷地水火風の7つの力の何れかを宿して生を受ける。
天の力は一時代にひとり、選ばれし者だけが宿すとされ、光の力は聖王家や一部の家系しか宿さない希少な力。私が宿す雷の力も、光の力ほどではないが希少な力と云われている。
基本的に、この世界で生を受ける人間が宿す力は地水火風の四属性の何れかである事が多い。ラングレイ魔術師団に所属する魔術師の大半もこの四属性の何れかに該当する。
「(それにしても、天の力を宿す人間と出会える機会が来るとは……世の中何が起きるか予測出来ないものだな)」
少し前に発生した深淵教団による事件……その時、事件解決に協力してくれたのが聖王国からやって来たディゼル・アークスという青年だった。まさか、彼がかつて深淵の侵略を退けた伝説の英雄騎士本人とは、流石の私も驚いたものだ。
不謹慎と非難されるかもしれないが、伝説として語り継がれる天の力を目の当たりした私は身震いするほどの感動を憶えた。もし、ディゼルくんと再び会う機会があるのなら、彼と色々な話をしたいものだ。
そんな私が今、闇の力に関する資料を紐解いて目を通している。断っておくが、決して危険思想に傾倒したわけではない。
私が闇の力について調べているのは、深淵教団の魔術師達が身に付けていた不気味な黒い腕輪型の魔道具の謎を探る為だ。 あの黒い腕輪には、闇の力が付与されていた……そう、この世界に住まう我々にとって不倶戴天の天敵といえる深淵に住まう悪しき異形の怪物達が宿す、あの忌むべき力が。
闇の力が付与されていた以上、あの腕輪は何者かが付与魔法を用いて製作した品という事だ。しかしながら、如何なる文献を紐解いても闇の力を宿した人間が居たという記録は見つからない。
当然と言えば当然か。闇の力を宿す人間が存在した事実があるのなら、何らかの記録が断片的とはいえ残っていてもおかしくはない。やはり、闇の力を宿す人間は存在しないのではないだろうか。
……では、あの黒い腕輪はどのように製作されたというのか? 彼等は聖王国から校外学習に来た王立学園の生徒達の魔力を利用して、疑似的な深淵の扉を作り出そうとした。
深淵の扉を疑似的に作り出す方法を齎したのは深淵教団の教皇だと教団の魔術師が口走っていたと、アレッサくんが話してくれた。一体、その教皇とは何者なのだろうか?
一般的に、教皇という称号は大陸最古の歴史を誇る宗教国家である創世神国の統治者である女神教の最高指導者に与えられるものだ。創世神国からすれば、深淵教団の教皇は教皇の名を騙る不届き者……許し難い邪教徒の首魁という認識だろう。
「(その深淵教団の教皇とやらが、疑似的な深淵の扉を作り出す術を部下である魔術師達に齎した……どう考えても普通の人間ではない事は明らかだ)」
そこまで思案して、私は頭はあり得ない仮説に辿り着く。深淵教団の指導者である教皇は人ならざる存在――即ち、深淵側の存在ではないかと。
闇の力を宿す人間の存在が確認されていない以上、あの黒い腕輪を作り出せるのは闇の力を宿す深淵の悪しき異形だけではないのか……?
「(しかし、仮にそれが事実だとしたら――深淵教団の教皇は我々人間と同じように明確な“自我”を有している事になる。自我を持った深淵の異形など存在するのか……?)」
――結論を出すには、まだまだ情報不足だ。私は目を通していた資料を閉じる。
何れにせよ、深淵教団の動向には目を光らせなくては。彼等が他国で同じような事件を引き起こす可能性はゼロではないからだ。
資料を本棚に収めていると、執務室の扉を叩く音が聞こえてきた。
「市長、入ってもよろしいですか? お茶をお持ちしました」
「ああ、ありがとう」
根を詰め過ぎても結論は出ないな。少し、休息を取るとしよう――。
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