閑話34 IF 聖なる夜の地獄絵図
※季節が春とか夏でも気にしないで下さい。また、何でこの世界にサンタさんが居るとかもツッコまない方向で。
―――12月24日深夜、聖王宮のアリア王女の寝室前。
護衛を務めるディアナ・アークライトは、寝室前の長椅子で眠っていた。王女殿下に何かあった場合、直ぐにでも駆けつける為にここで就寝しているのだ。
そんな彼女に近付く、怪しい影があった。だが、普段なら気配を感じたら目覚める筈のディアナは寝入っていた。影が彼女に迫る――その時だった。
「お姉様、あぶなぁぁぁぁあああああああああいっ!」
「え……ひ、姫!?」
バーン、と寝室の扉が開いてアリア王女が飛び出してきた。流石のディアナも、何事かと、目を覚ましたようだ。
アリアは一気に距離を詰め、侵入者の関節を極めて床に叩き伏せる。
「ぐわぁぁぁあああっ!」
「この不埒者ぉぉおおおおおおおっ! 私のお姉様に手を出すとは許しません!」
「姫様、どうなさいました!?」
騒ぎに気付いたのか、アリアの侍女を務めるセレスや聖王宮内の警護をしていた守護騎士達も集まる。
やがて、天井に備えられている照明用魔道具の明かりが点く。侵入者の姿が明らかになり、全員があっと声を上げる。
アリアが関節を極めている侵入者は老人―――赤い服を着た白髭の老人だ。
「さ、サンタさん!?」
「実在したというのか!?」
関節を極められているは、子供達にプレゼント配る事で有名なサンタさんであった。彼は、ポンポンと床を叩く。
「あたたたた……す、すまんがそろそろ解放してくれんかね?」
「ひ、姫……サンタ殿を解放して頂けませんか?」
「むう、お姉様がそう言われるなら……」
「あー死ぬかと思ったわい。ワシはそこのお嬢さんにプレゼントを渡しに来たんじゃが」
全員の視線がディアナに向けられる。どうやら、サンタさんは彼女にプレゼントを届けに来たらしい。
「……ディアナって子供って年齢か?」
「もう17歳なんですがね……」
「ある意味凄いな……」
「変な目で見ないで下さいぃぃぃぃぃぃっ!?」
生暖かい視線を向ける守護騎士の先輩達に対し、半泣きになるディアナ。その様子にアリアが怒り心頭に。
「何言ってるんですか、お姉様は17歳になってもサンタさんが来てくれる穢れのない心の持ち主ですっ!」
「姫……その、恥ずかしいんでやめて頂けますか?」
力説するアリアと真っ赤になるディアナ。
と、何やらサンタさんの様子がおかしい。腰を押さえている。
「イタタタ、腰をやられた様じゃわい。これではプレゼント配りは無理かのう」
「え、そんな!? プレゼントを配る子供達まだ居るんですよね!?」
「しかしのう……お、そうじゃ。先ほど、ワシの関節を極めた――」
「私ですか?」
「これを被ってくれんか?」
サンタは自分が被っていた赤いナイトキャップをアリアに差し出す。受け取るアリアは言われた通りに頭にそれを被ってみた。
と、突如としてアリアの身体が輝き出した。
一体、何が起きたというのか―――あまりの眩しさに眼を閉じる一同。
輝きが治まり、視界が回復した一同はあんぐりと口を大きく開けた。
あまりにも間の抜けた顔だが無理もない。何故ならば彼等の眼前にはサンタルックのアリア王女が立っているのだから。
「サンタさん、これは―――」
「うむ、すまんがワシの代わりにプレゼントを配ってくれんかの?」
「むう……確かに、このままじゃ良い子の皆さんにプレゼントが届きませんからね。私のせいで、プレゼントが届かなかったら子供達が泣いてしまいます――分かりました、私にお任せあれ!」
「いやいやいや、何で帽子被ったら服装が変わるんですか!? そこに驚きましょうよ、ねえ!?」
「ディアナ殿、ツッコミどころが満載ですがここは抑えて……」
ツッコミを入れるディアナをセレスが抑える。
「では、早速移動用のトナカイを呼ぶとしようかの。おーい、アオ」
「トナカイにアオって……馬じゃないんですから、もっといい名前にした方が」
「細かい事はええんじゃよ。お、来た来た」
窓の外に、橇を付けた宙に浮くトナカイが現れる。殆どの面々は、唖然とした表情でトナカイを見つめる。空を飛ぶトナカイに、アリアは目を輝かせる。
「わぁ、空飛ぶトナカイさんです!まさか、実物を見られる日が来るなんて」
と、窓の外のトナカイが首を出してくる。
次の瞬間―――。
「ヒィィィヤッハァァァァァァアアアアアアア!ジジイ、次の仕事はまだか!?オラぁ、飛びたくってウズウズしてるぜぇ!!」
トナカイが途轍もなく野太い声で人語を発した。周囲の刻が停止した―――動き出すまでに多少の時間を要する。
時間が動き出すと、誰よりも早く反応したはディアナであった。
「キェェェェェェアァァァァァァシャァベッタァァァァァァァ!!トナカイがシャァベッタァァァァァァァ!?」
「ディアナ、落ち着け!何か顔が凄いことになってるぞ!?」
「ディアナ殿、落ち着―――けませんよね、普通……」
「人語を話すトナカイだしな、しかもえらく世紀末テイスト……」
しかし、この場に居る面々の中で、ひとりだけ異なる反応を示している者が。
例の如く、アリア王女殿下である。
「わぁ、喋れるトナカイさんなんですね!」
「人語を話すトナカイが存在する事に疑問を抱いて下さいませんか、姫ぇぇぇえええええっ!?」
ディアナのツッコミが響く中、サンタ姫によるプレゼント配送がスタートする。
橇に乗ったアリアは、本業サンタから渡されたリストに目を通してトナカイに指示を出す。
一軒目のお宅の上空に到着―――が、ここでひとつ重要なことを忘れていた。
どうやって家に入ればいいのか。すると、トナカイのアオが助言をくれた。
「ヒィィィヤッハァァァァァァアアアアアアア!お姫さん、懐から水晶玉を出しな!ジジイと連絡が取れるぜぇ!」
「水晶玉? あ、これですね――サンタさん、聞こえます?」
アリアは懐から水晶玉を取り出し、水晶玉に語り掛ける。
手に持っていた水晶玉が宙に浮いて輝き出す―――水晶玉には本物のサンタとディアナ達が映し出された。
「おお、聞こえとるぞい」
「あの、サンタ殿……その水晶玉は一体どういう技術で作られてるんですか?」
「細かい事はええんじゃよ。で、何か問題が起きたのかね」
「どうやって家に入ればいいんですか?」
「そりゃ勿論、煙突から―――」
「煙突なんてありませんけど」
「……開いとる扉や窓はないかの?」
「戸締りも完璧みたいです(´・ω・`)」
困った……これでは子供達にプレゼントを配れないではないか。どうすればいいのか、と聖王宮の守護騎士達はうーんと唸る。
が、サンタ姫は何を思ったのか、急に立ち上がる。彼女はプレゼントが入った袋からプレゼントをひとつ取り出した。
それをどうするつもりなのか、家に入れないのなら配ることなど―――。
水晶玉に映るサンタ姫は、プレゼントを思い切り―――。
「はぁぁぁぁぁあああああああああああああっ!」
プレゼント配送の一軒目のお宅に向かって投げた。
ズドォォォオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
凄まじい轟音と共に、プレゼントは家の屋根を突き破って“お届け”された。
当然の如く、プレゼントをお届けされた家からは住民の悲鳴が聞こえてきたのは言うまでもあるまい。
あまりの惨状に本物のサンタは泡を吹いて倒れた。
「さ、サンタ殿!しっかりして下さい!!」
「ちょ……何やってんですか、姫ぇぇぇえええええ!?何で、プレゼントをぶん投げて配ってるんですか!?」
「いや、ありゃ配るなんて生易しいものじゃないだろう……」
そう、あれはプレゼントを配るなんて行為ではなく、まるで砲撃だ。
サンタ姫の導き出した答え―――家に入れないなら物理的にお届けすればいい。
「一軒目配達完了―――次」
「姫、戻って下さいぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「何言ってるんですか、お姉さま! プレゼントを全て配り終えないと子供達が悲しみます」
「いや、そうじゃなくて――こ、このままでは聖王都がぁあああああああああああっ!!」
「ヒィィィヤッハァァァァァァアアアア!お姫さん、アンタ最高だぜぇ!あのジジイのちまちました配り方とは大違いだぜぇ!これくらいはやらねぇとなァ!!」
「そこの世紀末トナカイ、少し黙ってなさいぃぃぃいいいいいいいっ!!」
ディアナの制止も空しく、プレゼントという名の砲弾が良い子の子供達の家に降り注ぐ。
聖なる夜、轟音と阿鼻叫喚の悲鳴が聖王都各地で絶えなかったという。
夜が明け、仕事を終えたサンタ姫は―――。
「いい仕事をした後に飲む紅茶は美味しいです!」
「はぁ……そうですか」
清々しい笑顔で、セレスが淹れた紅茶を飲んでいた。
ディアナや他の守護騎士達はげんなりした表情で、聖王都各地に向かう準備をしていた。彼等は聖王都各地で起きた謎の砲撃事件の調査を命じられた。
犯人が目の前に居るお姫様とは、国民は夢にも思わないだろう。
本物のサンタさんは、もうこの国には来れない……と、うっすらと涙を浮かべていた。
「ヒィィィヤッハァァァァァァアアアアアアア!また来年んんんんんんんんん!!」
「やかましい、もう来れんわァァァァァァァ!」
こうして、聖王国にサンタさんは現れなくなったとさ(笑)
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