閑話33 IF もし、ディゼルが女の子だったら……3
※二度ある事は三度あると言いますが、またしてもバカちんの作者がこんな話を書いてしまいました。今回は姫様以外の暴走をご覧あれ。
アークライト邸、騎士の名家アークライト家の屋敷である。現在、この屋敷の客間には3人の人間がテーブルについていた。
ひとりは、アークライト家の長女レイン・アークライト――ディアナの実姉。強い火の力を宿して生まれ、聖王宮の魔法研究室に勤務している優秀な魔術師。
残るふたりはディアナの友人であるジャレット・クロービスと、アメリー・フュンリー。
「さて、ふたりに今日来てもらったのは他でもないわ。ディアナに危機が迫っています」
「あの、すんません。俺、帰ってもいいっスか?」
「ジャレットくん、私の火炎魔法でこんがり焼かれるか話を聞くか……好きな方を選びなさい♪」
「アッハイ……続きを話して下さい」
レインが掌から炎を出現させると、ジャレットは真っ青な顔に変わり、大人しくなった。アメリーは真剣な眼差しを向ける。
「レインさん、ディアナに危機が迫ってるって一体……?」
「言うまでもないでしょう……あのイカれた王女が肉食獣のような眼差しで可愛い妹を狙っているのよ! 姉として心配に決まってるでしょ!?」
「あの……一応、あの人ってこの国の王女なんスから、もう少し言葉遣いを……不敬罪っスよ」
ギリギリと歯ぎしりしながら、忌々し気に窓の外を見つめるレイン。彼女は重度のシスコンだった。彼女のディアナへの溺愛っぷりは周囲が引くレベルだ。現に、ジャレットもドン引きしていた。
そんなレインの目下の悩みは、妹の護衛対象である聖王国第二王女アリアの存在であった。妹がアリアの護衛になってからというもの、王女はディアナにべったりと張り付いているのだ。
「あの王女殿下は危険よ。隙を見せたら最後、ディアナにあんなことやこんなことをするに決まっているわ!」
「ま、まあ確かにアリア王女は恐ろしいところがあるって話っスけど……」
以前、聖王宮で開かれた舞踏会に暗殺者が現れた事件が起きた。人伝にしか聞いていないが、その時に暗殺者全てを撃退したのは他ならぬ護衛対象のアリア王女その人だったという。
護衛をしていたディアナや他の守護騎士は出番が全く無かったという話だ。正直、そんなに強い王女殿下に護衛が必要なのだろうか。
レインは、テーブルを強く叩いた。
「王女ルートなんて断固阻止よ! 実姉ルートこそ至高! 可愛い妹を正しい道に引き戻すのが姉の務めよ!」
「いや、何言ってんのこの人!? つーか、どっちにしろディアナがやべー道に引き摺り込まれそうな予感しかしないんスけど!!?」
「というわけで、ジャレットくん、アメリーさん、私に協力しなさい。あの王女からディアナを奪還する計画に参加しなさい」
――あ、これはもう逃げられないな、とジャレットの顔は真っ青を通り越して真っ白になっていた。
うふふふと、笑みを浮かべながら両手から灼熱の炎を出しているこのお姉さんに異議を唱えようものならば、あの炎で消し炭にされる事間違いなしだ。
「レインさん、寝言は寝てから言って貰えませんか?」
「……え゛?」
ずっと黙っていたアメリーが、冷めた眼差しでレインを見つめていた。室内の空気が凍りついたような気がした。ジャレットは青褪めた表情で、レインとアメリーの様子を窺う。
「(ちょいちょい、アメリーさん!? 言葉を選んでくれませんかね!!? 下手に刺激したら、このお姉さんに消し炭にされるんですけどォォオオオオ!!)」
当然の如く、レインの両手から出ている炎の出力が上昇する。しかし、そんな状況でもアメリーの表情には些かも変化が見られない。
「アメリーさん……あなた、今までの話聞いてなかったの?」
「聞いてましたよ」
「だったら――」
「王女ルートに実姉ルート……? 何をふざけた事を言ってるんですか――ここは“心友”であるあたしのルートを選ぶのがディアナが進むべき道です!」
「(ちょっと待ってェェェェェ! アメリー、おま……ディアナの事狙ってたのかァァァァァ!?)」
アメリーのまさかの発言に、ジャレットの脳内は混乱の極に達する。まさか、こんな身近にもディアナを狙う肉食獣が潜んでいようとは。
「な、なんて事なの!? こんな近くに不倶戴天の天敵が潜んでいたなんて!」
「誰が不倶戴天の天敵ですか! それが未来の義妹に対する言葉遣いですか!」
「何処の誰が未来の義妹じゃい! おのれのようなじゃじゃ馬娘の義妹なんぞいらんわァァァァァァ!!」
――本能が告げる、ここに居たら命が無い。ジャレットはダッシュで客間を飛び出していた。直後、轟音が響き渡る。
客間が一瞬にして吹き飛び、ディアナを巡る実姉と心友の激しいバトルが開始された。ふたりは奇声を上げながら、お互いの拳を繰り出す。
「きぃえええええええええええええええええっ!」
「しゃあああああああああああああああああっ!」
拳がぶつかり合う毎に、凄まじい衝撃波が発生してアークライト邸が瓦礫と化すのに時間は要さなかった。
目の前で繰り広げられる激闘を目の当たりにして、ジャレットは思う――。
「(聖王国ってやべー女の巣窟なんじゃねーかな……)」
巻き込まれないように、遠距離からふたり見つめながら分析する――正直、あのふたりだけで守護騎士以上の戦力ではなかろうか。
同時刻、聖王宮の最も高い塔から街の様子を見ていたアリアが指差した。
「お姉様、あの辺りが何だか賑やかですね」
「え、ええ……そうですね」
……あの辺りって、自分の家がある場所なのでは。後日、久々に帰宅したディアナは倒壊して変わり果てた我が家を目の当たりにして唖然とする。
ちなみに、暴走した姉と友人は帰宅したアークライト家夫人ソフィア・アークライトの拳骨で撃沈した。その様を見ていたジャレットはというと……。
「いや、何て言えばいいんスかね。あのふたり以上にヤバかったっスね、ディアナのお袋さん。ありゃ、絶対怒らせちゃいけないタイプの人っスね」
怒りを笑顔で隠したソフィア夫人の前で正座させられたレインとアメリーは、数時間に渡るお説教を受けて、すっかり意気消沈していた。
「母は強しって言葉は聞いた事あるっスけど……正にそれを体現してたっスね」
その後、レインとアメリーは暫くの間、ソフィア夫人の下で淑女教育を施される事となったそうな。
文字通りの“淑女”になってればいいんだけどなーと、ジャレットは色んな意味で不安になっていた。何せ、拳骨であの恐ろしいふたりを沈めた夫人なのだから。
「いや、そんな感じで話を締めないでくれる!? 私ん家がこんな状態になってるのに!!」
瓦礫と化したアークライト邸の前で、ディアナのツッコミが木霊した。
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