閑話32 IF もし、ディゼルが女の子だったら……2


 ※前回の最後に続きませんと書いたのに、バカちんの作者がまたまた『定期的にギャグを書かないと死んじゃう病』を発症してしまい、つい書いてしまいました。今回は序章5のパロディです。先に序章5を見ると雰囲気がブチ壊されていることがよーく分かります。






 私は、“ディアナ・アークライト”。天の力を宿した聖王国の守護騎士のひとり。


 今、私達の住む世界は大きな危機に見舞われています。表裏一体に存在するもうひとつの世界“深淵”からの侵略を受けているのです。


 数ヶ月に及ぶ激しい戦いは、世界各国による連合軍が優勢に進めていました。しかし、とうとう深淵の支配者である深淵の王が現世に出現。


 圧倒的な王の力によって世界が蹂躙される前に、王を封印しなくてはならない。女王アストリア陛下の破邪法陣が展開され、魔法陣の力で弱体化した深淵の王と戦うべく、私とグラン隊長は決戦の場へと赴く。


 漆黒を纏った巨人――深淵の王の力は強大だった。破邪法陣の力で弱体化しているとはいえ、隊長と私のふたり掛かりでも気を抜けば命はない。


 戦闘開始から数時間が経過――アストリア陛下による送還術が発動し、深淵の扉が出現して王を深淵へと引きずり込む。


「おのれ、こうなれば貴様等を地獄に送ってくれる……ッ!」


 深淵の王の掌から黒い球体が放たれる。あれは――闇魔法の一種!?


 黒い球体へと、私と隊長は引きずり込まれそうになる。丁度、今の深淵の王が引きずり込まれるのと同じような状態だ。


「“昏き門”――それに吸い込まれたものが何処に行くかは我も知らぬ。いずれにせよ、生きて帰れるとは思わぬことだ」


 駄目、疲弊した今の私と隊長ではあれから逃れることは難しい。こうなったら、取るべき手段はひとつしかない。隊長だけでも空間転移で安全な場所に飛ばして――。


「――さま」


「え?」


「――お姉様」


 ……げ、幻聴かな? 今、姫の声が聞こえたような気が。


「お姉様ぁぁぁぁああああああっ!!」


「って、えぇええええええええっ!?」


 空の遥か彼方から、アリア王女――姫がこちらに向かって飛んできた。


 いやいやいや! ちょ……何これ!? 何で姫がここに居るの!!?


 ていうか、空飛んでるし! どういう状況!?


「おのれ、そこの真っ黒黒助がぁぁぁああああああっ! 私のお姉様に何晒すんじゃコラァァァァァァァァァァァァッ!!」


 姫が拳を前方に繰り出すと、拳から放たれた風圧によって深淵の王が放った黒い球体は一瞬で掻き消された。


 私とグラン隊長、深淵の王ですら目の前の光景に唖然とした。


「く、昏き門が、拳の風圧で掻き消されただとぉぉオオオオオオオオオッ!?」


「歯ぁ食い縛りなさぁぁぁぁあああいっ!!」


「ぐぼげらぁぁぁああああああああああっ!?」


 姫の鉄拳が、深淵の王の顔面に叩き込まれる。轟音と共に、地面に倒れ伏す深淵の王。


 あの……私と隊長のふたり掛かりでも大苦戦した相手が、姫の一撃でぶっ飛ばされているのは気のせいですか?


「安心しろ、ディアナ。気のせいではない」


「隊長、人の心を読まないでもらえますか?」


「読んでいない。今のお前の顔を見れば、何を考えているか理解出来る」


「はぁ、そうですか……(´Д`)」 


 ……って、そうだ! 姫と深淵の王は――。


「聖王流破邪滅殺天地無双地獄極楽昇天覇王拳の真髄、とくと味わいなさい!」


 姫は深淵の王の右腕の人差し指に関節技を極めていました。えーと……もう何とツッコんだらいいんでしょうか。


「ぎゃぁぁぁああああああああああああっ! な、何だこの小娘は……わ、我が肉弾戦で圧倒されるだとぉぉおおおおおっ!?」


 ハイ、ソウデスネ。深淵の支配者が肉弾戦で圧倒されてますね。私も目の前の光景に、開いた口が塞がらない状態であります( ゚д゚)。


「はぁあああああああああああああっ! 聖王流破邪滅殺天地無双地獄極楽昇天覇王拳奥義――とびっきりの右すとれーとぉぉおおおおおっ!」


 あの、姫……それ奥義じゃなくて単なる右ストレートですよね!?


 バコオォォォオオオオオオンッという豪快な音と共に、深淵の王が深淵の扉の先――遥か彼方までぶっ飛ばされる。


「馬鹿な、我が、こんな小娘に……」


 うん、深淵の王――敵だけど、その気持ちはよーく理解出来るよ。私と隊長に負けたならまだ分かるよね。いきなり現れたお姫様にボコボコにされて、深淵に追い返されるなんて、理解出来ないよね。


 深淵の扉が閉じ、暗雲に閉ざされていた世界に陽の光が差し込む――深淵の王は無事に封印されました……姫のお陰で。


「お姉様、御無事ですかっ!?」


「は、はい……姫のお陰で」


 正直な話、姫が来て下さらなかったら私と隊長は深淵の王の魔法で命が危うかったかもしれない。本当に心から感謝しています。


 あ、そういえば――どうして、姫は空を飛んで来られたのかしら?


「姫、どうやってここに? 空を飛んで来られたようですけど……」


「ああ、それは――」






 時間は少し遡り――聖王都、聖王宮。


 キュキュキュキュピーン!


「ハッ――!? 」


 虫の知らせとでも言えばいいのか。ディアナに危機が迫っていることを、アリアは感じ取った――お姉様の身が危ない、と。


 聖王宮の自室の窓から、外を眺めていたアリアは自室から出ようとする。アリア付きの侍女であるセレスは、当然の如く止めに入る。


「お姉様が、お姉様が危ない! セレス、ちょっと出掛けてきます!!」


「姫様、どちらに行かれるおつもりですか!?」


「無論、お姉様のところです!」


「無茶を言わないで下さい、場所は戦場ですよ!?」


「――アリア」


 アリアに声を掛ける者がひとり。声の主の方に振り返るアリアとセレス。

 そこに居たのは、聖王国の女王にしてアリアの姉であるアストリアであった。


 正に天の助け――きっと、姫様を止めに来て下さったに違いないと、セレスはホッと胸を撫で下ろす。


「アリア、行くのですね」


「姉様、お願い出来ますか?」


「ええ、いつでも」


「……え?」


 間の抜けた表情に変わるセレス。


「(え、どういうこと? 陛下は、姫様を止めに来たんじゃないの?!)」


 アストリアに声を掛けようとしたセレスだが、女王は深呼吸を始めた。

 一体、女王は何をなさるつもりかと思ったら――何と、アリアの両足を掴んでグルグルと回転し始めた。


「ちょ、陛下――な、何をされているんですかぁぁああああああああっ!? 」


「聖王流破邪滅殺天地無双地獄極楽昇天覇王拳――じゃいあんとすぅいんぐぅううううううううううううっ!」


 アストリアは気合の篭った掛け声と共に、アリアをぶん投げた。


「姉様、ありがとうございますぅぅぅうううううううううっ!」


 姉に礼を述べながら、アリアは空の彼方に消えた。







「――という経緯があって、私はこの戦場に駆けつけたのです」


「いやいやいや、予想外もいいところでしょう!? 」


 あの穏やかで慈悲深いアストリア陛下が、そんな武闘派だったなんて……ちょっと、ショックを受けてしまいます。


「あの、隊長! アストリア陛下も聖王流っていう武術が使えたん――」


 隊長は、何処か遠い場所を見つめていました。


「……隊長、明後日の方向を見ないで目を合わせてくれませんか?」


「あー聞こえない聞こえない。今の私には、何も聞こえないー」


 そこには、何時も堂々とした隊長の姿はありませんでした。


 ……ああ、なるほど。過去にアストリア陛下と何かあったのね。どうやら、トラウマになる出来事があったみたい。


 これは将来、陛下の尻に敷かれる未来は避けられそうにないわね。


「お姉様、さぁ、帰りましょう――私達の愛の巣へ」


「へ……? ちょ、あ、愛の巣って何ですか!?」


「んもぅ、分かってらっしゃるでしょう♪」


「いえ、理解出来ないからお聞きしたんですがっ!? た、隊長、助け――」


「あー聞こえない聞こえない。今の私には、何も聞こえないー」


「隊長ぉぉおおおおオオオオオオオオオオオオオっ!?」


 姫に腕を掴まれ、ズルズルと引っ張られていく私。だ、誰でもいいから姫を止めてぇぇぇぇぇええええええっ!


 聖王国歴727年――深淵の戦いはこうして幕を閉じた。公式記録では、守護騎士隊長グランと天の騎士ディアナの活躍で深淵の王は退けられたとあるが……歴史書に記されたことが全て真実とは限らない。真実は封印されたのだ。


 ……ちなみに、戦いの後にディアナが姫に何をされたのかは、読者の御想像にお任せしよう。

 




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