第7話 魔法剣講座
――騎士科、訓練場。カトラ学園長から許可を貰い、ここでライリー嬢に魔法剣を教えることになった。
少し離れた場所で、リリア嬢とエリス殿が見守っている。
騎士科の訓練場で、僕とライリー嬢は向かい合う。僕の左手には、何時も使う魔法剣の剣の柄が握られている。
「ライリー嬢、授業や文献など御存じかもしれませんが……魔法剣を扱う際に最も重要な技術は?」
「魔力制御ですね」
正解です、と頷く。魔法剣の発動で最も重要な技術は魔力制御。
魔法剣には、収束魔法と呼ばれる魔力を収束させる魔法を使う。この収束魔法を使う際に最も重要な技術が魔力制御だ。
魔力制御の技術が拙いと、魔法剣の刃は歪な形状になってしまう。切れ味が悪いどころか、魔力が暴発して負傷する恐れもある。
僕も学生の時点で魔法剣を扱うことは出来たものの、刃が歪な形状の不完全な状態だった。守護騎士に就任してから、直ぐにグラン隊長から魔力制御の鍛練を徹底的に叩き込まれた――本当に、鬼のように厳しかったなぁ、何度泣かされたことか。
「ライリー嬢の属性は何ですか?」
「雷です」
雷か……雷と聞いて、思い出す人間は父――ウェイン・アークライト。
父さんは雷の力を宿していた。光の力ほどではないけれど、雷の力の持ち主もそう多くはない。
父さんは雷の魔法剣“雷剣”の使い手だった。僕が天剣を使えるようになってから、幾度か父さんと魔法剣の試合をした。
試合の結果は10戦中――僕が4勝、父さんが6勝。
尤も、それは姫の護衛に就く前の結果だ。現在の僕と試合したら結果は分からない。これでも、深淵の軍勢との戦いの中で少しは強くなったつもりだ。
ライリー嬢も雷の力を持つということは、発現する魔法剣は雷剣だ。
「魔法剣に使う柄は所有していますか?」
「はい、ここに」
「――!?」
彼女が手にする柄を見て、一瞬我が目を疑った。見覚えがあったからだ。
その柄には、アークライト家の紋章が刻まれていた。決して見間違えはしない――父さんが使っていた魔法剣の柄だ。
「あの、どうしたんですか?」
「あ、いえ……とても立派な物だったので。由緒ある品なのですか?」
「はい、御先祖様が騎士の名家アークライト家の末女でして――この魔法剣の柄は、御先祖様が最後の当主だった父上から受け継いだものだそうです」
……そう、だったのか。ユーリに似ているわけだ。
ユーリが嫁いだのは、ライリー嬢の家系だったということか。
父さんは、僕が帰って来なかった自責の念からアークライト家の歴史を閉ざしたと、歴史資料に記載されていた。
ユーリに自らの魔法剣の柄を託したのか。守護騎士になりたいと言っていた、あの子の心を汲んだのだろうか?
――いけない、今はライリー嬢に魔法剣の指導をしなくては。
「では、まずは僕の魔法剣をお見せします」
左手に持った剣の柄に魔力を流し、白色の刃を生み出す。
正直、少しだけ罪悪感がある。本来の魔法剣は天剣なので虹色だ。
「白色の魔法剣……ディゼル先生は光の力の持ち主なのですか?」
「あ、あの……その、先生というのは?」
「え? 教えを請うので先生とお呼びしたんですけど……駄目ですか?」
「い、いえ……」
少し照れるな。僕みたいな若造が、先生と呼ばれるなんて。
――あれ? 何か強い視線を感じる。視線の主は、リリア嬢だった。
彼女はニコニコ笑っていた……が、目は笑っていない。
な、何だろう……悪寒を感じる。隣に居るエリス殿が、額に手を当てている。
「で、では……ライリー嬢、剣の柄に魔力を流し込んでみて下さい」
「はい」
ライリー嬢は、ゆっくりと魔力を流す。
彼女の持つ剣の柄から黄色の刀身が生み出される。雷の魔法剣“雷剣”だ。
これは、大したものだ。刃の形状がやや歪であるけど、学生時代の僕の不完全な魔法剣よりも安定している。後は細かい点を矯正すれば、実戦にも使えるレベルになるだろう。
「少し魔力を多く流している傾向がありますね――魔力制御を行って下さい。少しずつ、流す魔力の量を減らしてみて下さい」
「分かりました」
ライリー嬢は、魔力制御を行う。少しずつ、魔力の流れを調整していく。
流れる魔力が安定し、ライリー嬢の持つ雷剣は徐々に形状が変化する。
――ん? 何時の間にやら、リリア嬢とエリス殿以外にも見物人の姿が……。
術士科の生徒達や騎士科の生徒の姿が見られる。
ここで、魔法剣の指導をしていることを誰かに聞いて来たんだろうか?
「あの……どうでしょうか?」
魔力制御した魔法剣を見せるライリー嬢。刃の歪さは消えている。
「今後は、この形状を常に維持出来るように鍛練して下さい。筋がいいので、3~4ヶ月も鍛練すれば完璧に体得出来ると思います」
「本当ですか――わわっ!?」
雷剣が、バチバチと音を立てて刃が少し歪んだ形状に変わる。少し気が緩んだ影響かもしれない。
「集中力が切れたり、魔力制御が疎かになると直ぐに歪な刃に逆戻りします。そのことを忘れずに」
「す、すみません……」
まぁ、何はともあれ、指導は上手く行った。人にものを教えるほど経験豊富というわけじゃないんだけどなぁ……ん?
あ、あれ――騎士科の生徒達が大挙してこちらに向かって来てる?
「すいませーん!」
「僕等にも魔法剣の指導を!」
「ライリー先輩ズルい!」
「俺も!俺もお願いします!」
え? いやいやいや、いくら何でも人数が多過ぎませんかね!?
結局、押し寄せてきた騎士科の生徒達に魔法剣を指導する羽目になった。
つ、疲れた……気付いたら、既に夕暮れ時だ。
「ディゼルさん、お疲れ様です」
「は、はい。流石にあの人数になると、時間が掛かりました……」
「ディゼル殿も生真面目ですね。お断りするという選択肢は無かったのですか?」
「彼等の熱意に負けまして――」
エリス殿の言葉に苦笑いする。騎士科の生徒達は、熱心に魔法剣の指導を受けてくれた。
何よりも、こうやって魔法剣の指導をしていると思い出す――グラン隊長と魔法剣の鍛練をしていた時のことを。
辛く、厳しい鍛練だったけれど充実感はそれ以上だった。心残りがあるとすれば、隊長から一本取ることが出来なかったことだろう。
「さぁ、そろそろ夕食の時間ですよ。学生寮に戻りましょうか」
「ええ」
騎士科学生寮――夜も更けて、生徒達は眠りの世界に入っている。
ライリーは、目を覚まして時計に目を配る。まだ夜明けの時間ではない。
ディゼルに指導して貰ったお陰で、魔法剣の制御が格段に向上した。守護騎士になるという夢に少し近付くことが出来て、昂奮を抑えられない。
「(いけない、そういうところを抑えないと、魔法剣の歪さが矯正出来ない)」
魔力制御だけではなく、精神面も強くあること。守護騎士を目指すのだから、様々な面を鍛えなくては。
「(ディゼル先生、私より少し年上なのに凄い人だなぁ……ん? あれ、ちょっと待って――確か、天の騎士様の名前もディゼルじゃなかったっけ?)」
まさか……と、思いつつも直ぐにその考えを改める。
天の騎士は300年前の英雄だ。いくら何でも、あり得ないかと苦笑しながら布団を被る。
彼女が、英雄騎士本人から指導を受けたと知るのは、もう少し先の話――。
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