第52話 夜会2


 今夜、親善試合に参加する各国の参加者達が一堂に会する夜会が開かれる。エルド陛下からの推挙で、特別枠に選ばれた僕も当然参加しなくてはならない。 


 本来ならば、参加者やその関係者以外は出席出来ないけど、エルド陛下の計らいでリリア嬢も夜会への出席が許可された。エリス殿も一緒だ。


 会場の入り口まで近付いて、足を止めた。視線を感じる――どうやら、騎士団枠の参加者の方達が僕の接近に気付いたようだ。


「ディゼルさん、どうしたんですか?」


 突然立ち止まった僕に、リリア嬢が声を掛ける。


「ああ、いえ……視線を感じまして。どうやら、参加者の方達の幾人かが僕が来た事を察知したようです」


 視線が痛い……突き刺さるみたいに参加者の方達に見られている。あまり目立たないよう、魔力は抑えているんだけどなぁ。


 学生枠からの参加者達は兎も角、騎士団枠からの参加者達は実戦を経験しているだけあって気配に敏感のようだ。


「……って、えぇええええええええええええっ!?」

 

 と、何やら素っ頓狂な声が聞こえてきた。いや、思いっ切り聞き覚えのある声だったけど。


 僕のみならず、他の参加者達も声を上げた人物に視線を向けた。皆の視線は藍色の髪の少女――ライリー嬢の姿を捉えていた。


 彼女は口をパクパクさせながら、僕を指差していた。この様子から察するに、やはり彼女は僕の参加を知らされていないらしい。


 僕はライリー嬢のところに赴く。


「あの、ライリー嬢……人を指差す行為はどうかと思います」


「あ、す、すみません――って、そうじゃなくて! な、ななな何でディゼル先生がここに!?」


「あら、さっき言ったでしょう? 特別枠の参加者が御到着って――ディゼル殿が今回の親善試合の特別枠からの参加者よ」


 ライリー嬢の疑問に答えたのはファイ殿だった。 


「き、聞いてませんよ!? どうして、黙ってたんですか!」


「いえ、僕にもさっぱり……エルド陛下の御命令で僕の参加はライリー嬢には伝えないようにと」


「え、エルド陛下がですか……?」


 エルド陛下の名前が出た事で、ライリー嬢の表情が強張る。無理も無い、国王陛下の考えに異を唱える事など出来ない。


 それにしても改めて疑問に思う。何故、エルド陛下は僕の参加をライリー嬢に黙っているように御命令されたのだろうか?


「ん……?」


 ふと、視線を感じた。親善試合の参加者達の視線ではない――少し離れた位置から僕を見つめる人物が居た。


 その人物の顔を見て、思わず息を呑んでしまう。何故なら――。


「(父さん……?)」


 視線の主は僕の父ウェイン・アークライトと、何処となく似た雰囲気の男性だった。髪の色こそ違うけど、よく似ている。


「ディゼル先生、どうし――あ、父上」


 ……彼は、ライリー嬢の父上なのか。そう言えば、彼女と同じ藍色の髪だ。


「ディゼル先生、どうしたんですか? 父上と何処かでお会いした事が?」


「ああ、いえ……僕がよく知る人と似ていたもので」


「???」


 




 最後の参加者――ディゼルに、各国の参加者の視線は集中していた。


 帝国からの参加者達。


「はぁ~こりゃまた、とんでもない色男が参加するもんだねぇ。僕、嫉妬しちゃいそうだよ」


「アンタと違って、誠実そうね」


「リューちゃん、そりゃないよ!」


「ふたりとも、静かにして下さいよ……」


 砂漠連合からの参加者達。


「あの人が最後の参加者かぁ……あれ、ソラ兄、どうしたの?」


「……あの赤髪のアンちゃん、只者じゃねぇな」


 創世神国からの参加者達。


「彼が最後の参加者――」


「何かしら、不思議な雰囲気を感じるわね……」


「おふたりもですか? ボクも、そう思います」


 極東国からの参加者達。


「……あの赤髪の青年、出来るな」


「私やリナより少し年上にしか見えませんが……」


「年若いが、相当の死線を潜り抜けていると見て間違いだろう」


「一体、どんな立場の方なんでしょうか? 国王陛下の推挙された方なら、戦いに身を置く方だと思いますけど……」


 氷雪国からの参加者達。


「おお、何かカッコいい人が来たね! てっきり、ムキムキのゴツイ人が来ると思ってたのに」


「お前なぁ……けど、確かに若いな、あの人。おれ達とあんまり歳が離れていないよな?」


 そして、各国の参加者達以上にディゼルに注目している人物が居た――ライリーの父親であるベルハルトだった。彼はじっと、ディゼルの事を見つめていた。


「彼が、ライリーが先生と仰っている方ですか。確かに、ロドムが言っていたように誠実そうな方ですね、あなた……あなた? 」


「あ、ああ……いや、何でもない。確かに悪い男には見えないな」


「あなた……?」


 ベルハルトの様子がおかしい事をナターシャは見逃さなかった。何せ、愛娘に近付く悪いムシには目を光らせる夫が、あの赤髪の青年を威圧していないのだ。


 この時のベルハルトは、ライリーが先生と呼ぶ赤髪の青年に対して奇妙な既視感を感じていた。


「(一体、何者なのだ? あの赤髪の青年を見ていると堪え切れないほどの懐かしさが込み上げてくる……私は、彼と何処かで会った事があるのか?)」


「あなた、エルド陛下が参られましたわ」


「――!」


 会場に聖王エルドがやって来た。王妃ロマリー、王女ノエルと王子ヨシュアも一緒だ。当然、護衛の守護騎士達の姿もある。


 参加者達も、聖王の来訪に姿勢を正す。周囲を一瞥した後、エルドが口を開く。


「皆、揃っているようだな――ダイン、頼む」


「はっ」


 守護騎士隊長ダインが、何らかの魔道具を用意した。魔道具に魔力を込めると、空間に映像が映し出される。


 そこには、映し出されたものは――。


 第一回戦組み合わせ


 第一試合

 イリアス・エルトハイム対リナ・クドウ


 第二試合

 ライリー・フォーリンガー対テナ・フラット


 第三試合

 ライカ・クドウ対マイラ・レイラント


 第四試合

 カイル・ハーツィア対アトス・ロンド


 第五試合

 ザッシュ・シャルフィド対ユーノ・ラシェル

 

 第六試合

 ディゼル・アークス対ソラス・レイラント


 第七試合

 ソウマ・リュウドウジ対リュー・トライアングル


 第八試合

 ファイ・ローエングリン対ラウラ・シュトレイン


 どうやら、親善試合に於けるそれぞれの対戦相手のようだ。ふと、ある事に疑問を憶えた者が挙手する――ライリーだった。


「エルド陛下、その……僭越ながら質問してもよろしいでしょうか?」


「うむ、構わぬ。何かね?」


「いえ、第一回戦しか表記されていないので……」


 そう、映像には第一回戦の対戦相手しか表記されておらず、トーナメント表のように表記されていないのだ。


「第二回戦以降はくじ引きで対戦相手を決めるようにしている。通常のトーナメント方式では面白味があるまい?」


「そ、そうですか」  


 つまり、第二回戦以降の相手は現時点では分からないという事だ。まずは、第一回戦で自分と戦う対戦相手に専念すべきだろう。


 第二回戦以降はくじ引きという旨を伝えるエルド陛下の表情は何処か楽し気に見えた。意外と茶目っ気のある国王陛下だなぁ、と各国の参加者達は苦笑するのだった――。 





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