第50話 各国の参加者達3
聖王都、その名の如く聖王国の首都である。氷雪国から親善試合に参加する為にやって来たおれ――イリアス・エルトハイムは現在、幼馴染であり同じく親善試合の参加者であるテナ・フラットと共に聖王国の大通りに赴いていた。
氷雪国から参加者であるおれ達と極東国から参加者達は、他の国より一足早く聖王国に到着した。入国手続きも、滞りなく済ませている。
親善試合に参加する為に来たのだから、おれとしては少しでも鍛錬しておきたいところだったんだけど……この小うるさい幼馴染が観光したいとワガママを言うから付き合っている。
テナは大通りに並ぶ店を見て、瞳を輝かせている。
「ふぉおおおおおおっ! お土産屋さんが一杯だぁ! イリアス、全部買っちゃおう!!」
「そんな金があるわけないだろ、少しは静かにしてくれよ……」
こいつは、何時もテンションが高くて困る。もう15歳なんだから、少しは落ち着きってものを身に付けて欲しいものだ。
テナは氷雪国で最も高度があるボルメスク山脈の麓の村の生まれ。ボルメスク山脈は、世界創世の際に女神が降り立った聖地のひとつとして広く知れ渡っている。
彼女の村は、聖地である山脈を護る為の戦士の一族が住まう村。当然、テナもその戦士の一族の血を受け継いでいる。
で、何でおれがこいつと幼馴染であるかと言うと、おれの家系であるエルトハイム侯爵家の領地内にある村だからである。おれはこう見えても侯爵家の三男だ。
長兄は侯爵家の跡取りとして父上の補佐を務め、次兄は既に氷雪国の白銀騎士団に入団している。おれも、学園卒業は白銀騎士団に入団するつもりだ。
貴族と言うと、取っつきにくい雰囲気があるかもしれない。だけど、ウチの家系は領民と寄り添うを信条としている為か、父上や母上、兄上達も領民達とは親しく接している――無論、おれもだ。
9年前、父上に連れられておれはボルメスク山脈麓の村を訪れた。父上からは領地を自身の目で見て、そこに住まう人々の声をよく聞くようにと言い聞かせられてきた。
テナとはその時に出会った。まだ6歳だったおれ達は、雪合戦や雪だるまを作ったりして遊んだ。
……まさか、そのテナの父上が彼女を雪嶺学園に入学させるとは思わなかった。テナの才能を伸ばしてやりたいという、親心からくるものなんだろうけど――この元気娘は学園じゃ色んな騒動を起こすので、今や学園内じゃ知らぬ者が居ない有名人だ。
信じられない事に、学園にはこいつのファンクラブが存在するらしい……一体この傍迷惑娘の何処に魅力があると言うんだ。見た目は、まぁ美少女の部類に入るかもしれないけど、中身が残念過ぎる。
「イリアスー、何してんのさー? ほら、お土産お土産」
「うを!?」
何時の間にやら、テナは大量のお土産を抱えていた。こ、これはマズイ……何とかせんと財布があっという間にすっからかんになってしまう!
こ、ここは幼馴染として忠告せねば!!
「テナ、お土産はもっと考えてから選んでくれよ。無駄遣いすると、お前の父上や母上が怒るぞ」
「むう……それは困る。んじゃ、幾つか元の場所に返そう――わわっ」
「お、おい!?」
あまりにも沢山のお土産を抱えている為か、テナはバランスを崩しそうになる。いけない、支えないと――。
「失礼、大丈夫ですか?」
しかし、おれが動く前に後ろからテナを支える人間が――黒髪の少年だった。年齢はおれやテナと同じくらいかもしれない……何だか見慣れない服装をしている。
少年の直ぐ後ろには黒髪の少女の姿もあった。艶やかな黒髪と黒い瞳の美しい少女に、思わず息を呑んでしまった。
明らかにこの大陸では見られない服装と顔立ち、黒髪と黒い瞳――もしかして、彼等は極東国の人間?
「ありがとう」
「いえ、お怪我がなくて何よりです」
「ライカ、何事かあったのか」
テナを支える黒髪の少年に声を掛けたのは、これまた黒髪の男性。彼を一目見た瞬間、頬から汗が伝った。
「(この人、強い……)」
やって来た黒髪の男性――只者じゃない。一目見ただけで、彼が相当の手練れだと直感で理解した。
腰に差しているのは独特の鍔を持つ細身の片刃の剣、極東国で使用されている刀と呼ばれる剣に違いない。この人、もしかして極東国の侍か……?
極東国には侍と呼ばれる剣の使い手達が居ると学園の授業で習った。かの国では、侍と呼ばれる剣士が騎士に相当する存在と聞く。
「ソウマ殿、実はこちらのお嬢さんがバランスを崩しそうになりまして……」
「そうか……む、そなた達、もしや親善試合の参加者か?」
「え? は、はい――自分はイリアス・エルトハイムと申します。氷雪国雪嶺学園騎士科に所属しております。今回の親善試合の参加者として参りました。それはテナと言いまして、一応参加者です」
「コラ!テナをそれ扱いすんなよ!!」
憤慨する幼馴染、ちなみにこいつの一人称は“テナ”と、自分の名前呼びだ。年頃なんだから、そろそろ言葉遣いを何とかしろっての……。
「某はソウマ・リュウドウジ、極東国の侍衆に所属している」
「私はライカ・クドウ、極東国陰陽館武道科に所属しています」
「リナ・クドウと申します。兄上と同じく、陰陽館武道科に所属しております」
テナが黒髪の少年と少女――ライカとリナを交互に見る。
「あ、兄妹なんだ。そういえば、凄く似てるし――双子?」
「ええ、そうです」
そういえば、よく似てる。双子を見るのって、初めてだなぁ。
彼等が極東国からの参加者か……ライカ、リナのふたりもなかなか手強そうだけど、ソウマ殿に関しては隙がまるで見当たらない。彼と初戦で当たる相手は不憫としか思えないなぁ。
「あら、皆さん――お揃いで」
澄んだ声が聞こえ、振り返ると守護騎士であるファイ・ローエングリン殿の姿があった。入国の際に、おれとテナを案内して下さった女性だ。
「ここが大通りか、賑やかだねぇ。リューちゃん、アトスくん、何か買ってく?」
「アンタねえ……まぁ、騎士団のみんなへのお土産ぐらいならいいかな」
「ぼくも友人や家族に何か買っていこうと思います」
「ふわぁ……ソラ兄ソラ兄! お土産屋さんがいっぱい!!」
「いや、だから……俺等、遊びに来てんじゃねぇぞ?」
「これだけお店が沢山あると、迷ってしまいそうね」
「本当ね」
「ボク達も何か買っていきましょうか?」
ファイ殿の後ろには、他国からの参加者と思われる方々が――帝国、砂漠連合、創世神国からの参加者達だろう。
聖王国からの参加者以外は、これで勢揃いってところか。そういえば、聖王国からの参加者はどんな人達なんだろう――ファイ殿に訊ねてみよう。
「あの、ファイ殿。聖王国からはどんな方達が参加されるんですか?」
「聖王国からは私と王立学園の生徒がひとり、そして特別枠から参加される方がひとりの3人です。私以外のふたりとは、親善試合前日に開かれる夜会でお会い出来ると思いますよ」
ファイ殿も参加者のひとりなのか……聖王国の精鋭である守護騎士だから強いんだろうな。残りのふたりは、数日後の夜会で会えるらしい。
一体、どんな人達なんだろうか。まだ見ぬ聖王国の参加者達への興味が湧いた。
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