第49話 各国の参加者達2


 親善試合まで、あと4日。今日は、各国の参加者達が聖王国に入国する日。


 聖王都飛行船発着場、砂漠連合の飛行船からソラス・レイラントとマイラ・レイラントの従兄妹が降りてくる。彼等から少し離れた場所には、帝国の飛行船と創世神国の飛行船が見える。


 マイラは瞳を輝かせながら、聖王国の町並みを眺めていた。


「ふわぁ……! 砂漠連合とは全然違うね」


「そりゃそうだろ。つーか、こないだも言ったが遊びに来てるわけじゃねぇからな? あんま羽目を外すんじゃ……」 


「お、ソラスくんじゃん! おーい」


 背後から声を掛けられ、振り返るソラス。後方から金髪の騎士が見えた――帝国からの参加者であるザッシュ・シャルフィドだ。


 ソラスは心底嫌そうな顔に変わる。


「……オメーが帝国からの参加者かよ。完全に人選ミスだろ」


「おいおい、ヒドイ事言うね。実力で選ばれたに決まってるじゃん」


 げんなりした表情のソラスとあっけらかんに笑うザッシュ――実はこのふたり、以前にちょっとした出来事で共闘した間柄である。


 質実剛健さがウリである筈の帝国騎士と思えないザッシュの態度や行動に振り回され、ソラスとしてはあまり関わりたくないのだ。


「ソラ兄、友達?」


「ダチじゃねぇよ、こんな野郎」


「む!」


 キュピーンと、ザッシュの瞳が輝く。彼の視線に映るのは、ソラスの従妹であるマイラだった。


「可愛い、とても健康的で魅力的だね! でも惜しい、あと2~3年……グボォッ!?」


 最後まで言葉を紡げず、地面に叩き伏せられるザッシュ。彼の後頭部に踵落としが叩き込まれたからだ。


 踵落としを入れたのは、同じく帝国からの参加者リュー・トライアングル。彼女の隣には、これまた帝国からの参加者であるアトス・ロンドがあわあわした表情でザッシュとリューを交互に見つめていた。


 地面に倒れ伏したザッシュの後頭部を掴み、片手で軽々と持ち上げるリュー。眼鏡美人は軽薄騎士に笑顔で圧を掛ける。


「年端もいかない女の子の前で何してんのかしら、んん~? アンタには、教育的指導ってものが必要かしらねぇ?」


「あ、あい……しゅみませんでした」


 眼鏡美人からの威圧に、滝のような汗を流しながら震える軽薄騎士。そのやり取りをソラスは呆れた表情で、マイラはキョトンとした表情で見つめていた。


 一息吐いたリューがソラスと握手する。


「ソラスくん、御久し振り」


「久し振りだな、リュー。んで、そっちの坊主が帝立学院からの参加者か?」


「はい、帝立学院騎士科所属アトス・ロンドです」


 ザッシュとは似ても似つかぬ態度のアトスを見て、ソラスは頭を掻いた。


「……こういう礼儀正しいのが帝国騎士に相応しい人材ってもんだと思うんだがなぁ。何で、そっちの軽薄野郎なんかが騎士になれたんだ?」


「ソラスくん、あんまりだよ!」


「いや、ソラスくんの言ってる事は完全に的を得てるでしょ」


「リューちゃんまで! 帝立学院時代からの仲じゃないか……って、ふぉおおおおおおおおおおおおおっ!?」 


 いきなり大声を出す軽薄騎士に目を点にする一同。軽薄騎士の視線の先に、皆も視線を向けると、創世神国の飛行船から降りてくる者達の姿が。


 降りてきたのは、美しいふたりの女性と線の細い銀髪の美少年だった。デレーッとした顔で女性ふたりを見つめる軽薄騎士。 


「う、美しい……創世神国からの参加者は美女がふたりも」


「アンタ……銀髪の少年は眼中に無しかい(怒)」


「あの女性達……神殿騎士団の方達みたいですね」


 美しい女性騎士に見惚れるザッシュに青筋を立てるリュー。


 アトスは女性ふたりの纏う装束が、創世神国の神殿騎士団の騎士の物である事を見抜いた。帝立学院の授業で、各国の騎士の特徴などを習っていた為だ。


 神殿騎士団の勇名は、広く知れ渡っている。大陸最古の歴史を誇る創世神国の誉れである。


 創世神国からの参加者達は、帝国と砂漠連合からの参加者達の所にやって来た。彼等は一礼し、自己紹介する。


「創世神国神殿騎士団所属、ラウラ・シュトレインです」


「同じく神殿騎士団所属、ユーノ・ラシェルです」


「女神の庭騎士科所属、カイル・ハーツィアです」


「帝国騎士団所属、リュー・トライアングルと申します」


「美しい御嬢さん方! 僕は――」


「ああ、そっちの軽薄な男も一応帝国騎士ですが無視されて結構です」


 ザッシュがラウラとユーノに話し掛けようとするも、リューの言葉に遮られる。鼻息を荒くしながら、眼鏡美人に抗議する軽薄騎士。


「ちょっと、リューちゃん! 異国の地での出会いを邪魔しないでくれない!?」


「帝国騎士が恥を晒すんじゃないわよ。ほら、アトスくん」


「帝立学院騎士科所属、アトス・ロンドです」


 アトスが創世神国の参加者達に自己紹介した後、ソラスとマイラも続く。


「砂漠連合騎士団所属、ソラス・レイラントだ」


「砂塵の学園騎士科所属、マイラ・レイラントだよっ!」


「あら、もしかして御兄妹ですか?」


「いや、マイラは従妹だよ――お、どうやら御出迎えが来たみたいだな」 


 ソラスの視線の先――青髪の女性騎士がこちらに歩いて来る。その身に纏うのは、聖王国騎士団の精鋭中の精鋭“守護騎士”のみが纏う事を許された戦闘衣。


 凛とした雰囲気を感じさせながらも微笑がそれを和らげている。青髪の女性騎士が一礼する。


「各国からの参加者の皆様、聖王国によく御出で下さいました。聖王国が守護騎士ファイ・ローエングリンと申します――皆様の案内を務めさせて頂きます」


「……」


「……」


「……ふわぁ、綺麗な人」


 アトス、カイルは真っ赤になって見惚れ、マイラは感嘆の声を上げる。


 ザッシュは、リューに後頭部を掴まれてジタバタしている。おそらく、速攻でファイを口説こうと動き出そうとして、リューに拘束されたといったところか。


 呆れた眼差しで軽薄騎士を見つめるソラスと苦笑するラウラとユーノ。ファイの案内で、参加者達は聖王都に足を踏み入れた――。





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