第47話 国王陛下からの依頼
「え、ライリーさんが親善試合に?」
「ええ、学園枠の代表選手に選ばれたそうです。少しでも腕を磨きたいから、僕に親善試合の為に特訓相手になってもらえないかと頼まれまして……」
王立学園術士科の食堂で朝食を摂る僕とリリア嬢。今朝、ライリー嬢と特訓しているところを、僕を捜していたリリア嬢とエリス殿に発見されて事情を説明した。
失念していた。あまりにも一生懸命なライリー嬢に付き合い、特訓していたらリリア嬢の起床時間前に、彼女の部屋の前に戻る事をすっかり忘れてしまっていた。
エリス殿は笑顔で――。
「いえいえ、お構いなく♪ お嬢様の護衛は私がこなしますので」
と、凄まじいオーラを発しながら、ウフフと笑って僕を見つめていた……さ、寒気を感じるのは気のせいかな?
「親善試合には他国から様々な選手が集まります。未知の相手に何処まで自分の力が通じるか、ライリー嬢は張り切っていましたよ」
「ふふ、ライリーさんらしいですね。そうだわ、私達も応援に行きましょうか」
「よろしいのですか?」
「ええ、特に予定も入っていませんし――」
『術士科のリリア・レイナードさん、学園長室にお越しください』
会話の最中、放送用魔道具から聞こえてきた放送。どうやら、リリア嬢が学園長室に呼ばれているみたいだ。
「学園長室に? 学園長が何か御用かしら……?」
リリア嬢は、何か学園長に呼び出されるような事でもしただろうかと怪訝そうな表情をする。
兎も角、彼女は学園長室に向かう事になり、護衛である僕とエリス殿も付き従う。学園内には結界が張られているとはいえ、何が起きるか分からない――リリア嬢が危険に晒されないようにしなくては。
学園長室に到着するまでの間、特にこれといった問題は無かった。リリア嬢が、コンコンと扉を叩いた。
「学園長、リリア・レイナードです」
「どうぞ、入って下さい」
「失礼します」
扉を開き、学園長室に入る。そこには、学園長を務めるカトラ殿と青髪の女性の姿があった。
青髪の女性が、僕達に一礼する。
「おふたりとも、御久し振りです」
「ファイさん、どうしてここに?」
リリア嬢が驚きの表情に変わる。青髪の女性はファイ・ローエングリン殿――聖王国の守護騎士のひとりで、ノエル殿下の学園視察で知り合った仲だ。
そういえば、ライリー嬢から今回の親善試合の騎士団からの代表選手でファイ殿が出場されると言っていたな。いや、それよりも気になるのは、彼女が王立学園を訪れている事だ。
何故、ファイ殿が学園に来ているのだろうか? リリア嬢が呼び出された件と何か関係があるのだろうか?
「リリアさん、申し訳ありません。あなたを呼び出すように学園長にお願いしたのです」
「ファイさんが? あ、あの、一体どんな御用件でしょうか?」
「その、実を言うと本当に御用件があるのはディゼル殿の方です」
「え?」
全員の視線が、一斉に僕に向けられた。本当に用件があるのは僕……?
困惑する僕は、ファイ殿に訊ねる。
「ファイ殿、一体どういう事なのですか?」
「申し訳ありません、あなたがリリアさんの護衛であるのなら、リリアさんをここに御呼出しすれば、必ず来てくれるだろうと思いまして」
なるほど、リリア嬢を呼び出せば僕が来ると踏んだのか。リリア嬢の護衛である僕を放送で呼び出すのはおかしいだろうし……。
「して、僕に御用件とは?」
「はい、依頼者御本人からお聞き下さい」
そう言って、ファイ殿は学園長室のテーブルに置かれた物に視線を向ける。テーブルの上に置かれている物は通信球――遠距離に居る相手と話す時に使う魔道具。
ファイ殿は誰かに頼まれてここに来たというわけか……ん? 待てよ、守護騎士である彼女にこういった事を頼む相手なんてひとりしかいないのでは――。
通信球が輝き、声が聞こえてきた。
『ディゼル殿、聞こえているだろうか?』
「エルド陛下……」
通信球から聞こえてきたのは、聖王国を治めるエルド陛下の御声だった。傍に居るリリア嬢、エリス殿も緊張した表情に変わる――無理もないだろう、通信相手はこの国の国家元首なのだ。
『聖王宮への招待以来だな、魔法都市ラングレイでの件も報告を受けている――学園の生徒達を深淵教団から救ってくれた事、心から感謝する』
「若輩者の私に勿体なき御言葉、光栄にございます。エルド陛下、此度はどのような御用件でしょうか?」
『うむ……親善試合についてなのだが、ディゼル殿は特別枠の事は知っているだろうか?』
「開催国にのみ設けられている参加枠ですね」
親善試合特別枠――開催国にのみ設けられている参加枠の事だ。開催国の国王陛下が推挙した人間であれば、騎士団や学園の生徒以外でも参加出来る枠であると記憶しているけど……。
『ディゼル殿、単刀直入に言おう――特別枠の参加選手になってもらえぬか?』
「……は? お、お待ち下さい、私を推挙されるという事ですか?」
『う、うむ……実は――』
エルド陛下は、申し訳なさそうな態度で事情を説明された。ノエル殿下が僕に参加して欲しいとの事だ。
『す、すまぬ。あの子の頼みを断ると、妻がなぁ……』
「は、はぁ……」
エルド陛下って恐妻家だったんだなぁ……この間、聖王宮に赴いた時は王妃様とはお会いしなかったけど、どんな方なんだろう。
とはいえ、どうしたものか。僕はリリア嬢の護衛だし――と、リリア嬢が僕の肩に手を掛ける。
「ディゼルさん、私もお話に参加させて下さい」
「は、はい……」
通信球の前にリリア嬢が立つ。
「陛下、失礼致します」
『リリア嬢か』
「はい、お話は聞かせて頂きました――陛下の御依頼とあれば、お断りするわけにはいきません。ディゼルさんの親善試合への参加を受諾します」
『かたじけない、そなたの護衛がディゼル殿の務めだというのに』
「いえ、お気になさらず。今朝、ライリーさんの特訓に付き合っておりましたし」
『ほう、そうなのか。それは楽しみだ』
……何だか、トントン拍子で話が纏まったなぁ。まさか、また親善試合に参加する事になるなんて思いもしなかった。
親善試合参加中のリリア嬢の護衛の仕事は……エリス殿に任せるしかないか。何か、物凄いやる気満々な顔をしているしなぁ。
斯くして、エルド陛下の依頼(実際はノエル殿下)で、僕は親善試合に参加する事になった。ファイ殿は僕達に一礼した後、聖王宮に帰還された。
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