第45話 各国の参加者達
――親善試合、数年に一度開かれる各国の騎士団による交流試合である。
今回の親善試合には聖王国から3人、帝国から3人、氷雪国から2人、創世神国から3人、砂漠連合から2人、極東国から3人の計16人が参加する。
親善試合の参加枠には騎士団から参加する騎士団枠、各国にある学園から参加する学園枠が存在する。3人出場する国は、どちらかの枠の人数がひとり多い。
聖王国から参加するのは騎士団枠からは守護騎士ファイ・ローエングリン、学園枠からはライリー・フォーリンガーが決まっている。最後の3人目が誰であるかは、まだ発表されていない。
各国の参加者達は、今回の開催国である聖王国には親善試合開催の4日前に入国する事となっている。試合の開催は2週間後――入国は10日後に迫っていた。
――帝国。大陸東の大半を統治する、遥か昔に大陸全土を統治した古代王国の流れを汲む聖王国に並ぶ大国。
帝国の首都たる帝都、その中心地に聳え立つ巨大な建造物。帝国を統治する皇帝や皇族達が住まう帝城である。
その帝城の守りの要である帝国騎士団の鍛錬場では、ふたりの男女が剣を交えていた。
ひとりは長めの金髪を髪紐で結んだ、何処か軽薄そうな青年。もうひとりは、眼鏡を掛けた濃紺の髪の女性。
金髪の青年が、フゥと溜息を吐く。
「あのさぁ……リューちゃん、少し休憩しない?」
「ザッシュ、アンタねぇ……代表選手に選ばれたんだから、真面目に鍛錬しなさいっての!」
「やれやれ、面倒だねぇ。僕は鍛錬よりもナンパに行きたいんだけどなぁ」
金髪の青年の名はザッシュ・シャルフィド。帝国騎士団に所属する騎士……なのだが、女好きで軽薄なイメージから初対面の人間からは騎士と認識されない問題児である。
しかし、剣術の腕前は確かなもので同年代の騎士の中でも屈指の実力者。今回の親善試合の参加者に選ばれた。
そんな軽薄騎士と剣を交えている眼鏡を掛けた女性は、同じ帝国騎士団所属のリュー・トライアングル。帝立学院時代から、ザッシュとは腐れ縁の間柄。
若いながらも優れた剣術の腕を持つ才女で、彼女も親善試合の参加者である。
「全く……少しはアトスくんを見習いなさいっての」
「おりょ? そういや、アトスくんの姿が見えないね」
「アトスくんなら、基礎体力作りの為のランニング中よ――あ、来た来た」
セミロングの緑髪の少年が、流れ落ちる汗を手拭いで拭き取りながら鍛錬場にやって来る。
彼の名はアトス・ロンド、帝立学院騎士科から今回の親善試合の出場選手に選ばれた。もう直ぐ卒業を控える身、今回の親善試合に向けて鍛錬を欠かさない努力家である。
「アトスくん、精が出るねぇ」
「はい、学院からの代表として頑張ります!」
「ホント、何処ぞの軽薄騎士とは大違いね」
「リューちゃん、そりゃないよ!」
――砂漠連合、大陸南部に広がる砂漠地帯の複数の都市国家による連合体。
連合の中心都市ラーズ。砂漠連合の礎を築いたという伝説の戦士ラーズの名を冠したこの都市に、連合騎士団の本部と次代を担う騎士や魔術師を養成する砂塵の学園が存在する。
「久々の母校か……懐かしいもんだぜ」
砂塵の学園にバンダナを巻いた黒髪、褐色肌の青年がやって来た。名をソラス・レイラント――砂漠連合騎士団に所属する騎士で、親善試合の参加者。彼も数年前まではこの学園で武術と学問を学ぶ学生だった。
学園騎士科の鍛錬場に彼は足を踏み入れる。鍛錬場には長い黒髪をポニーテールにした、やはりソラスと同じ褐色肌の少女が剣の素振りを行っていた。
「マイラ、調子はどうだ?」
「ソラ兄!」
少女は素振りを止め、ソラスの下に駆け寄る。彼女はマイラ・レイラント、ソラスの従妹であり、砂塵の学園の代表として親善試合に参加することとなった。
「しかし、お前が代表に選ばれるとはな」
「凄く楽しみ! 聖王国って、どんなところかな!?」
「おいおい、遊びに行くんじゃねぇんだぞ?」
まるで旅行に行く子供のように瞳を輝かせる従妹を、呆れた表情で見つめる従兄であった。
――極東国、大陸の東に浮かぶ島国。この国では、侍と呼ばれる者達が騎士と同等の地位にある。また、侍が属する集団は騎士団ではなく、侍衆という呼称が用いられる。
極東国の首都である光都の東区に侍や術士を養成する学園“陰陽館”が存在する。親善試合には侍衆からひとり、陰陽館から生徒がふたり参加する。
陰陽館の鍛錬場にひとりの侍と、ふたりの男女の姿があった。
侍の名はソウマ・リュウドウジ――極東国侍衆の一員であり、親善試合に出場する参加者。彼は落ち着いた眼差しで、眼前の練習試合を見つめていた。
ソウマの眼前では黒髪の少年と少女が剣を交えている。
よく似た顔立ちのそのふたりは双子の兄妹で、兄の名はライカ・クドウ、妹の名はリナ・クドウ。ふたりは、極東国の武の名門クドウ家の出身である。
「――それまで。ふたりとも、熱心なのはいいがあまり無理はするな」
「「はい」」
――創世神国、大陸のほぼ中央に位置する小国。大陸で最も古い歴史を誇る宗教国家である。
この国は、世界を創造した“創世の女神”を信仰しており、女神像が安置された壮麗な神殿には多くの人々が祈りを捧げに訪れる。国を守護する騎士達が所属する騎士団は神殿騎士団と呼ばれている。
神殿の女神像の前に跪き、両手の指を絡めて祈り捧げる橙髪の女性騎士と茶髪の女性騎士の姿がある。ラウラ・シュトレインとユーノ・ラシェル――神殿騎士団に所属する親友同士で、親善試合の参加者達。
祈りを終えたふたりは、立ち上がる――と、女神像が安置されているこの部屋の扉を開く音が聞こえ、ふたりは振り返った。
扉を開いて入って来たのは、銀髪の少年だった。創世神国の養成校“女神の庭”の騎士科の生徒カイル・ハーツィア――彼も親善試合の参加者である。
「す、すみません……遅れました」
「カイルくん、一緒に祈りを捧げると約束したでしょう?」
「さては、寝坊した?」
「はい……遅くまで鍛錬して疲れてまして」
頭を掻きながら謝るカイルに、彼女達は苦笑した。
――氷雪国、一年を通して雪が降る寒冷地帯。魔術師達による結界で各地が守られている事で知られるこの国にも騎士達は当然存在する。
氷雪国の白銀騎士団はこの国の守りの要。しかしながら、今回の親善試合には白銀騎士団からの参加者は居ない。
白銀騎士団団長は、王都にある養成校“雪嶺学園”にもうひとつの参加枠を与え、学園の生徒ふたりを参加させることを決めた。有望な若者に経験を積ませたいとの事。
「ぬぉんどりゃーーーーーーーーーっ! 相手が誰だろうとやってやるぜぇ!!」
「……少しは静かに鍛錬してくれよ。恥ずかしい……」
大声を上げながら素振りをする少年……ではない、ボーイッシュな雰囲気を纏った黄緑髪の少女。彼女はテナ・フラット、雪嶺学園の騎士科に在籍する生徒で親善試合に参加出来る喜びを隠せないようだ。
反対に、冷めた眼差しでテナを見つめながら素振りする青みがかった黒髪の少年も参加選手である。彼はイリアス・エルトハイム、雪嶺学園騎士科の学年主席で、剣術だけではなく結界術にも長けている。
ちなみに、このふたりは幼馴染である。パワフルなテナに振り回され続け、イリアスは気苦労が絶えない日々を送っている。
そして、聖王国では最後の3人目を誰にするかで国王エルドが頭を悩ませているのであった。そう、実はまだ聖王国から参加する最後の代表選手は決まっていないのだ――。
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