第40話 雪の都とおめかし
リーナを村に送り届け、村長さんが用意して下さった馬車に乗って私とルディアさん、ロイドさんは氷雪国の王都にやって来た。
馬車から降りて、目の前に広がる街並みに圧倒されてしまう。深い森の中で生活してきた私にとって、初めて見る王都はまるで別世界に来てしまったような気分になる。
そういえば、おばあちゃんが若い頃に一度だけ王都に行ったことがあるって言ってたっけ。その時のことを詳しく聞いておけばよかったなぁ。
周囲を見回していると――。
「シルクさん、こっちこっち」
ルディアさんに呼ばれ、私は彼女が手招きする方に向かう。ルディアさんの後ろには、沢山の服が飾られている建物が見えた。
あ、そういえば……服屋さんで服装を整えた方がいいって言ってたっけ。今着ているのは普段着だし、こんな格好じゃ笑われてしまうかも。
国王陛下にお会いするもの、きちんとした身なりでないと。だけど、どういう恰好をすればいいのかな?
着飾ったりしたことがないから、どんな服装をすればいいのか分からない。
「フッフッフ、お困りのようですね――」
あれ、何かルディアさんが腕を組んで笑ってる。しかも、何か様子がおかしいような……。
「ここは、このルディアにお任せあれ! シルクさんが着るに相応しい服を――」
「ああ、君。あちらの御嬢さんに似合う服装を選んで頂きたい」
と、意気込んでいるルディアさんを無視して、ロイドさんが服屋の女性店員さんと話を進めていた。それを目の当たりにしたルディアさんが、ロイドさんに食って掛かる。
「ちょっと、ロイド先輩! 何勝手に話進めてるんですか!?」
「やかましい、イノシシ娘。勝手なことをしているのはお前の方だろうが」
「だって、シルクさんみたいな美少女がおめかしするんですよー? すっごいワクワクするじゃないですかー」
「鼻息を荒くしながら言うな。お前のことだから、如何わしい服をシルク嬢に勧めるに決まっている」
「そんなことありませんよー。こんなこともあろうかと、とびっきりの衣装を用意してるんですよ? シルクさん、これ着てみて――絶対に似合うから」
「えっと……こ、これ、服なの?」
ルディアさんが渡してきた物は、何やら服とは思えない品だった。な、何かしら……ウサギの耳のような物が付いたヘアバンドと水着?
私に渡された物を目にした後、ロイドさんがルディアさんのところまで歩いていく。な、何か、指をポキポキ鳴らしてるみたいだけど……。
「……ルディア、シルク嬢に何を渡した?」
「何って、バニーガール衣装に決まって……あたたたっ!?」
ロイドさんが、鬼の形相でルディアさんのこめこみをグリグリし始めた。
「お前という奴は、よっぽど俺を怒らせたいらしいなぁ?」
「だって、シルクさんってばすんごいボンッキュッボンじゃないですかぁっ! 絶対、バニーガール似合いますってばぁ!!」
「時と場所を考えんかっ! バニーガール衣装で国王陛下と謁見する人間が居ると思っているのかァァァァァァ!!」
「ぎょえええええええええええっ!」
ルディアさんの悲鳴が響き渡る。街の人々は、困惑した表情で騎士ふたりのやり取りを見つめていた。
この後、私は店員さんにお店の中に案内されて、服を選んで頂いた。
ううーと唸りながら、こめかみを押さえているルディアさんと溜息を吐いているロイドさんのところに戻る。
「えっと、似合ってますか?」
「うむ、いいじゃないか。どこぞのイノシシ娘が選んだ破廉恥な衣装とは比べ物にならんな」
「破廉恥とは失礼ですね!? バニーガールには浪漫が詰まってるじゃないですか!」
「お前は少し黙っとれ」
こうして、服装を整えた私はロイドさんとルディアさんと一緒に王都の中心に位置する王城へと向かう。
到着した王城の前で、私は立ち眩みを起こしそうになった。荘厳な佇まいのお城を目の当たりにしたからに違いない。
こ、これからこのお城の中に入るんだ……私みたいな田舎娘には一生縁も所縁もない場所だと思っていた。
王城の城門の前にはとても身分の高そうな方が待っていた。どうやら、このお城の文官を務めていらっしゃる方みたい。
ロイドさんとルディアさんが一礼する。
「聖王国の守護騎士ロイド・グラスナー及び、ルディア・クロービスにございます。国王陛下からの御依頼の報告に参りました」
「御苦労様です、国王陛下が謁見の間にてお待ちです」
文官の方に案内され、私達は王城の中へと足を進めた。
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