第39話 お仕置きと招待
俺こと、ロイド・グラスナーは怒り心頭で腕を組んでいた。俺が怒りに打ち震えているのには理由がある。
現在、俺が居る場所から少し離れた位置にある温泉に入浴中の3人の乙女が居る……否、ひとりはイノシシ娘か。
イノシシ娘の名はルディア・クロービス、俺と同じ聖王国の守護騎士を務めている後輩だ。この大馬鹿者は、共に温泉に赴いた可憐な少女に対して不埒な行為を働いたのだ。
そのような行為に手を染めるとは、騎士の風上にも置けん奴だ。拳骨の3~4発くらいを叩き込まなくては気が済まん。
握り拳を作り、ボキボキと骨を鳴らしながら獲物を待つ。
「あ~いい湯だったぁ。シルクさんの肉まんも最高だったよ~(*´Д`)」
「グレートなサイズの肉まんだったね~(*´ω`)」
「あうう……(´;ω;`)」
御満悦な表情のルディアとリーナ、泣き顔のシルク嬢が歩いて来る。
随分といい表情だな、後輩よ。さぞや、お楽しみだったようだなぁ?
さぁ、断罪の時間といこうか――。
「ルディア、随分とお楽しみだったらしいなぁ」
「ロイド先輩……」
「守護騎士ともあろう者が不埒な行為を働くとは、先輩は嘆かわしいぞ」
「あの、先輩……」
「これから先輩として、お前に教育的指導を――」
「先輩、鼻血出てますよ」
「……」
俺は、懐からポケットティッシュを出して鼻腔に詰め込んだ。髪を掻きながら、ふっと微笑を浮かべた。
「俺としたことが無様な姿を晒したな。非常食に持ってきたチョコレートを食べ過ぎた影響で鼻血を流すところを、よりにもよって後輩であるお前に見られてしまうとはな」
「何言ってんですか、先輩。さっきの通信魔法が原因でしょ?」
「これはチョコレートの食べ過ぎによる影響だ、馬鹿者! 断じて、シルク嬢の艶やかな声に反応して噴き出した鼻血ではない!!」
「んもぅ、 ロイド先輩ってば身体は正直じゃないですか♪ イ・ケ・ナ・イ・人なんですからぁ♪」
そう言って、ルディアは人差し指で俺の額をつーんと小突いた。
数分後。俺はシルク嬢に謝罪していた――イノシシ娘のこめかみをグリグリしながら。
「シルク嬢、この馬鹿者が本当に申し訳ない」
「あーんあーん! ごめんなしゃい、調子に乗り過ぎましたぁああああっ!! でも、しょうがないじゃないですかぁ! 目の前にあんなグレートな肉まんがあったら誰だって揉み揉みしたくなりますってばぁっ!!」
「お前という奴は心からの反省が出来んのかァァァァァァァッ!」
「ぎぃええええええええええええっ!」
反省の色が見られないイノシシ娘のこめかみをグリグリする。その光景を見ていたシルク嬢が、オロオロしながら止めに入った。
「ロイドさん、それくらいで……もう気にしてませんから」
「うう……シルクさん、肉まんが大きいから心も広い――あいたっ!」
この期に及んで戯言をほざく後輩の頭に拳骨を叩き込んだ。ぷくーっと、たんこぶがひとつ出来上がる。
全く、このイノシシ娘は……少しは自重して欲しいものだ。
ああ、いかん――馬鹿娘の折檻をしていた所為で大事なことを忘れるところだった。俺達の任務である異変調査を、依頼された御本人に報告しなければならない。
異変の原因は、シルク嬢の強過ぎる魔力が制御出来ないことで発生した冷却魔法。この事実を依頼者――この国の国王陛下にお伝えする為に、これから氷雪国の王都に向かう必要がある。
当然、事情を説明する為にシルク嬢にも同行してもらわねばならない。
「シルク嬢、これからこの国の王都に向かう。当然、君にも来てもらわなくてはならない。君達が温泉で入浴している間、通信球で国王陛下と謁見する準備を進めて頂いている」
「こ、ここここ国王陛下とお会いするんですかっ!?」
シルク嬢は真っ青な表情になり、数歩後退る……無理もないか。何せ、これから国王陛下にお会いすると言われて、緊張しない方がどうかしている。
何よりも、彼女はずっと森の中で引き篭もって生活していた人間だ。そんな彼女が公の場、しかもこの国の王城に招待されることになろうとは夢にも思わなかっただろう。
だが、異変調査の報告の為にはその異変を起こした本人と直接話がしたいというのが国王陛下の願いだった。国王陛下たっての願いとあっては、断れる筈もない。
「頼む、国王陛下御自身が君と直接会って話がしたいそうだ。国王陛下の御依頼とあっては、我々も断ることが出来ない」
「ひゃう……わ、分かりました」
ガチガチに緊張しつつも、シルク嬢は承諾してくれた。何とか了承してもらってよかった。
すると、こめかみを押さえていたルディアがこんなことを言ってきた。
「あ、そうだ……先輩。王城に向かう前にシルクさんの服装を整えた方がいいんじゃないですか? 国王陛下と謁見するなら、相応の格好じゃないと」
「ほう、お前にしてはなかなか気が利くじゃないか」
「お前にしてはって……(´;ω;`)」
いじけるルディア。リーナが傍に寄って、よしよしと頭を撫でている。
ま、何はともあれ……シルク嬢の服装を整える為に、服屋に行く必要があるな。氷雪国の王都の服屋なら色々と揃っているだろう。
こうして、俺達は氷雪国の王都に向かうことになった。途中、リーナを住んでいる村まで送り届ける。
「シルクお姉ちゃん、ちゃんと帰って来てね」
「うん、必ず」
村人達は、シルク嬢に警戒している様子は無かった。これは年配の村人の口から明らかになったことなのだが、村の人々はシルク嬢の祖母殿が作った薬で疫病から救われた過去があるらしい。
どうやら、その祖母殿からシルク嬢の話を聞いていたらしく、氷漬け事件の真相も薄々感付いていたようだ。
少しだけ安心した。強い力を秘めているということは恐れられる――周囲から疎外される可能性が高くなるからだ。村人達が、恩人の孫娘を拒絶するような人間達でなくてよかった。
王都まで徒歩は流石に時間が掛かるだろうと、村の村長が馬車を用意をしてくれた。村長の心遣いに感謝し、俺達は馬車で氷雪国の王都に向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます