氷雪の乙女編
第33話 守護騎士、北方へ
私はルディア・クロービス。聖王国の守護騎士を務めています……まだ新米だけど。さて、そんな私は現在、凍死寸前の状態に陥っております。
――天国のお父さん、見守ってくれていますか?
故郷のお母さん、護衛の仕事をしている兄さん、御元気にしていますか?
私は只今……凍死寸前の状態です。辺りは一面の銀世界、前も後ろも右も左も雪が降り積もっています。
ああ、眠い。このまま寝たら気持ち良く眠れそう――。
「さっさと歩け、ルディア。置いてくぞ」
「ロイド先輩の薄情者ぉぉおおおおっ! 可愛い後輩が凍死寸前なんですよ!?」
「それだけ元気があれば大丈夫だろ? それと、可愛い後輩がどうとか聞こえたような気がしたが――俺の幻聴か?」
「ロイド先輩、ひどい!」
淡々とした態度で雪原を歩くロイド先輩に抗議する。あーもう、この人って妙にドライなのよね……。
というか、一言言わせてもらっていいですか?
「何で、こんな寒い国に来なきゃいけないんですか~~~~っ!」
「任務だからだ」
「う……」
今現在、私とロイド先輩が居る場所は聖王国ではありません。ここは、大陸北方に位置する“氷雪国”。年中雪が降る寒冷地帯。
子供の頃に読んだ本に書かれていた事や学生時代の授業でこの国に関する事は知っていたけど、想像を大きく上回る寒さにガッチガチに震えちゃう。
何故、こんな寒い国に赴いているのかと言うと、ロイド先輩の言う通り任務だから。でも、だからって新米の私が派遣されていいのかな……。
「ルディア、新米だからとか考えてないか? 守護騎士に選ばれた以上、守護騎士としての自覚を持て」
「うぬぬ……」
「唸ってるヒマがあるなら歩け。ああ、もうひとつ言っておきたい事がある」
「何ですか~……? これ以上、お小言は聞きたくないんですけど?」
「お前、鼻水が凍ってるぞ(`L_` )ククク」
「はうっ!?」
慌てて、鼻の辺りに指を這わせると小型の氷柱が出来ておりました……もう、先輩の意地悪! しかも、笑ってるし!
守護騎士として、牙無き人々の生活を守るという使命感に燃える私ですが……その情熱は今にも消えてしまいそうです。だって、この国寒過ぎるんだもの!
ハッ……そうだ、いい事思いついた! 何で直ぐに思いつかなかったんだろう!
ロイド先輩って火の力を宿しているじゃない! だったら、先輩に火を起こしてもらえばいいじゃん!
「ロイド先輩、火炎魔法使って下さい。暖を取る事を提案します!」
「我慢しろ。凍傷になりそうならともかく、計画性も無く魔力を消耗するのは命取りだ」
あっさり却下されました。
「うぬぬ……ロイド先輩のドケチ! 鬼、悪魔、冷血漢、スイーツ男子!」
「誰がスイーツ男子だ! 甘党と呼べ!!」
「似たようなものでしょ!」
この人って、見た目に反して甘い物好きっていう意外過ぎる一面があるのよね。
聖王宮の食堂で、嬉しそうな顔でバケツプリンを食べてるロイド先輩の姿を目撃した時は、あまりにもシュール過ぎる光景に思わず目が点になっちゃった。
はぁ……任務とはいえ、こんな寒い国を歩くのは辛いなぁ。溜息交じりに、私は聖王宮での出来事を思い返していた。
――数日前、聖王宮。私とロイド先輩は謁見の間に呼び出され、エルド陛下の御前に跪いた。
「守護騎士ロイド・グラスナー、参りました」
「同じく守護騎士ルディア・クロービス、参りました」
「御苦労、面を上げよ」
面を上げた後、ロイド先輩が陛下にお訊ねになる。
「――陛下、如何なる御用件でしょうか? 何なりとお申し付けください」
「うむ、実は他国から調査の依頼が届いてな」
陛下の御言葉に、私は緊張した。聖王国の守護騎士はその実力から聖王国本国のみならず、他国に派遣される事がある。
「どの国からの御依頼でしょうか?」
「氷雪国からだ。奇妙な現象が起きている為、調査を依頼したいと」
「奇妙な現象、と言いますと……? 深淵の軍勢による被害とは異なる出来事でしょうか?」
「深淵の軍勢も関わっているのだが……この書状を見てくれぬか?」
陛下の傍に控えていた文官が、ロイド先輩に氷雪国から送られてきたという書状を渡す。先輩は渡された書状に目を通すと、困惑の表情に変わった。
私も書状を覗き込むと、そこには不可思議な内容が記されていた。
「深淵の軍勢が氷漬けで発見された……?」
氷雪国から送られてきた書状によると、ここ最近奇怪な出来事が発生しているという。氷雪国内で、深淵の軍勢が氷漬けの状態で発見される事例が立て続けに起きているというのだ。
氷漬け……誰かが冷却魔法で凍らせたのかな?
冷却魔法とは、低温状態を作り出して敵を凍りつかせる魔法。水魔法に習熟した魔術師などが使用出来るという話を王立学園に通っていた時、授業で習った記憶がある。
この場に居ないけど、水の力を持つファイ先輩が冷却魔法を使ったところを見た事がある。送られてきた書状と同じように、深淵の軍勢を氷漬けにしていた。
「奇妙なのは氷漬けになった深淵の軍勢は発見されたが、一体何者が氷漬けにしたのかが分からないという事だ」
「氷雪国内の騎士か魔術師の手によるものではないのですか?」
「現場に駆けつけた時には、既に氷漬けで周囲に人の気配は無かったとの事だ」
確かに、それは奇妙としか思えない。騎士や魔術師の仕業でないとしたら、一体誰がそんな事をしているんだろう?
まぁ、それはともかく……どんな内容であっても、他国から依頼を断る真似なんて出来ないわ。そんな事すれば、守護騎士の名がすたるわ。
「お任せ下さい、陛下。必ずや原因を突き止めて参ります」
「感謝する。本当ならば、ファイも同行させようと思ったのだが……彼女は砂漠連合に派遣しているのでな」
ファイ先輩は先日、大陸南方の砂漠連合からの依頼を受け、そちらに派遣されている。深刻な水不足に陥った地方の調査と問題解決に奔走しているらしい。
守護騎士になってからというものの、ロイド先輩とファイ先輩と3人で行動する事が多いから、ロイド先輩とふたりだけで行動するなんて珍しいかも。
……と、いう経緯があって、私とロイド先輩はこの極寒の国にやって来た。何者が深淵の軍勢を氷漬けにしているかを調査する事が、今回の私達の任務。
雪原を歩きながら、私はロイド先輩に話し掛ける。
「それにしても、誰の仕業なんでしょうね? 深淵の軍勢を氷漬けにするって事は敵じゃないんじゃないですか?」
「そう思いたい気持ちは分からなくもないが、正体不明である以上は油断出来ない。敵でないなら、姿を見せない理由は何だ?」
「う~ん……」
確かにおかしいわね。人前に姿を現さない――人前に出れない理由があるって事なのかしら?
深淵の軍勢を氷漬けにするって事は、悪人じゃないと思いたいんだけどなぁ。
もし、氷漬けを行っている人物が敵だったら、私達が氷漬けにされる可能性もある――ハッ!?
「な、何て事なの!? 私が氷漬けにされたら、凍れる美少女騎士という芸術作品が出来上がってしまうわ! そうなったら美術館に飾られちゃいますよね、ロイド先輩!?」
「寝言を言ってないで、真面目に任務に従事しろ」
「ロイド先輩、ひどい!」
こんなやり取りを続けながら歩いていると、町が見えてきた。
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