第22話 忍び寄る影2
――午前8時、ラングレイの宿泊施設で術士科の生徒達が朝食を摂る時間帯になった。護衛である僕やエリス殿、グレイブ殿も同じように朝食を摂っていた。
僕は、早朝のことが頭に引っ掛かってなかなか朝食が進まない。食事が進まない僕が気になったのか、グレイブ殿が話し掛けてきた。
「ディゼル殿、どうした? ここの朝食が口に合わないのか?」
「あ、いえ……少し、気になっていることがありまして」
「気になること?」
「実は、早朝にこの街の市長にお会いしたのですが……」
「ええっ!?」
ガタンと、音を立てて誰かが椅子から立ち上がる――ロゼ嬢だった。
彼女は、つかつかと僕の下にやって来た。い、一体どうしたんだろう?
「ディゼルさん、め、メルトディス市長にお会いになられたんですの!?」
「え、ええ……ロゼ嬢は市長を御存知なのですか?」
「当然ですわ! 若くして、大陸でも指折りの魔術師ですのよ!」
瞳を輝かせながら、遠くを見つめるロゼ嬢。どうやら、メルトディス市長は彼女の憧れの存在のようだ。
ロゼ嬢は、市長のことを熱く語り出す。メルトディス市長は14年前――僅か13歳という若さで王立学園を卒業したという。
「(13歳で王立学園を卒業……!?)」
これには、僕も流石に驚いた。僕も騎士科を飛び級で卒業したけど、その時は14歳だった。王立学園は、本来は12歳から16歳まで通う必要があり、飛び級で卒業出来る人間は極めて稀だ。
その上、メルトディス市長が卒業した年齢は13歳……つまり、たったの1年で学園を卒業したということになる。
学園側も、優秀な彼に学園で学ばせることは無いと判断したらしい。ここで学ばせるよりも、故郷である魔法都市ラングレイで幅広い知識を学ばせる方が彼の為だろうと。
ちなみに、どうして聖王都の王立学園に入学したかというと、魔法都市ラングレイ以外の場所で見聞を広めることが目的だったそうだ。当の学園側は、彼の才能を持て余し、早々に卒業させてしまったようだが……。
その後、故郷であるこの都市に戻って来た彼は5年前――この都市の市長に就任したとのこと。
彼が市長に就任してからの5年間で、この都市は更なる発展を遂げた模様。結びつきが深い聖王国だけではなく、各国の魔道具開発にも大きく貢献している。
強い魔力や雰囲気から、優秀な方とは思っていたけど――そこまでとは。
「ディゼルさん、何処で市長と会いになられたんですの?」
「早朝、鍛練している時に声を掛けられまして……」
「そうだったのか。して、ディゼル殿。気になっていることとは?」
「市長おひとりで、早朝から何をされていたんでしょうか? この町の代表者なのだから、多忙だと思うのですが」
「ふむ、確かに……」
「そうですわね……」
グレイブ殿とロゼ嬢も考え込む。メルトディス市長は、おひとりで何をされていたんだろうか?
と、エリス殿が軽く両手を叩く。僕達は、一斉に彼女に視線を向ける。
「皆さん、考え事は後にしましょう。朝食が冷めてしまいますよ?」
「は、はい……」
「そ、そうでしたわ……」
「た、確かに……」
そうだ、朝食中だったことを忘れていた。ロゼ嬢は、自分が居た席に戻る。
色々気になるが、僕達が市長のお仕事に関われる筈もない。僕はリリア嬢の護衛に専念するとしよう。
――午前9時15分。私と魔術師団第1部隊に所属する魔術師数名は、ラングレイ市内を巡回している。現在のところ、不審な輩は見つかっていない。
……奴等、何処に居る? この都市に侵入している事は間違いない筈。私は通信魔法でアレッサくんに連絡を取る。
「アレッサくん、各区画から何か異常は報告されていないか?」
『いえ、特に……各区画に派遣した魔術師団からも何の報告も届いていません』
市内に不審な素振りを見せる者は居ないか。となると、連中が潜伏しているのは市内ではなく――。
「奴等、地下区画に向かった可能性が高いな」
この街の地下には、魔法鉱石が採掘出来る鉱脈が存在する。魔法鉱石が採掘可能な鉱脈は大陸各地に存在している。この街の鉱脈はその昔、大魔術師ユリウス・ラングレイによって発見された。
ユリウスは、そこで発見した魔法鉱石を友人であり聖王国初代国王となられたアヴェル陛下に渡したという逸話がある。
その後、魔法鉱石採掘を円滑に進める為、長い年月を掛けて地下区画が整備されたと記録されている。
アレッサくんの焦った声が頭に響く。
『そ、それが事実なら大変な事になります! 彼等に魔法鉱石を採掘されたら、どんな悪事に使われてしまうか……!』
「無論、阻止しなくてはならない。アレッサくんは、引き続き市内を巡回する部隊と連携してくれ。地下区画には私と第1部隊の魔術師達で向かう」
『わ、わかりました!』
「ああ、それから――アレッサくん。万一、私と連絡が取れなくなった場合は、校外学習に来ている王立学園の生徒達に各区画の避難所に避難するよう放送用魔道具で呼び掛けてくれ」
『は、はい……』
通信魔法を終え、私は第1部隊と共に地下区画へと向かう。魔法都市ラングレイは13の区画に分かれており、第1区画、第4区画、第7区画の3つの区画に地下区画に入る為の入り口が設けられている。
私達は、最も近場であった第7区画へと足を運ぶ。第7区画にある、地下区画への入り口に到着早々――目に入ったのは、倒れている魔術師達の姿。
「大丈夫か!?」
第一部隊の魔術師のひとりが、倒れている魔術師を抱き起す。気を失っている……いや、寝息を立てて眠っている。これは、睡眠魔法を使われたのか。
睡眠魔法は共通魔法の一種で、相手に強力な眠気を与えて眠らせる。倒れている魔術師達はその魔法で眠りの世界へと送られたのだろう。
眠っている彼等は、地下区画入り口を警備していた魔術師達。そんな彼等を眠らせるとは、敵の中にはかなり優れた魔術師が居るのか。
「何が起きるか分からない。索敵を怠らないようにしよう」
「はい!」
私を含めて現在6人で行動を共にしている。それぞれが感知術を発動させて、何者かが潜んでいないか警戒しながら先に進む。現時点で、周辺には何者も潜んでいないようだ。
やがて、開けた場所に到着した。そこは、第1区画と第4区画、第7区画にある地下区画の入り口を通ることで辿り着く合流地点。この場所から更に先の地下は一本道だ。
時計に目を配る――時刻は、もう直ぐ午前10時か。
「やはり、周辺に潜んでいる者は居ないようですね」
「ああ。更に奥に進んで――ッ!」
私は息を呑んだ。他の者達は気付いていないようだが、微弱ながらも天井に魔力反応を感知した。
地下区画の天井には、照明用の魔道具が設置されている。しかし、それとは異なる魔力反応だった。
遠隔視の魔法で天井を注視する――そこには、照明用魔道具とは明らかに異なる魔道具が設置してあった。主に爆破解体などの作業で使われる魔道具だ。微弱だった魔力が急速に高まる……!
「いかん、罠だ!」
「市長……!?」
次の瞬間、天井付近で爆発が発生し、無数の瓦礫が私達に降り注いだ。
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