閑話3 魔法の系統


 聖王国歴721年――アークライト邸の庭で、僕は剣の素振りをしていた。


 今日は、父さんが仕事なので自主鍛練に打ち込んでいる。だけど、やっぱりひとりだけの鍛練じゃ物足りなさを感じる。


 来年、僕は王立学園に入学する。アークライト家は代々騎士の家系である為、騎士科に入学する事が決まっている。


 運動が苦手な姉さんは、騎士科に入れなかった事を気にしているみたいだけど、父さんは自分なりの道を進めと言って励ましたそうだ。


 一通り、何時もと同じ時間くらいの鍛練を終えて、自宅に入る。浴室で汗を流して着替えると、僕は自宅の書庫に向かう。


 流石に図書館とまではいかないけど、結構な数の書籍が本棚に収納されている。騎士科に通うけど、入学前に本を読んで色々と学んでおく事も大切だ。


 今、僕が読んでいる本は魔法技術に関連する書籍。術士科に通う姉さんも、この本をよく読んでいたみたいだ。


 パラパラとページを捲って、前回読んでいたページの続きに辿り着く。


 開いたページの先頭には、こう記載されている――“魔法の系統”、と。


 魔法は幾つかの系統に分かれている。これから先読むページには、その事が書き記されている。


“放出魔法”……敵を攻撃する為に使う魔法のことを指す。簡単に言えば、掌から火球や風の刃、雷を放出する事。

 各国の魔術師団の魔術師達が、戦いで使う攻撃魔法がこれに該当する。魔術師でなくとも使うことは可能だけど、訓練していない人間が使ってもマッチの火くらいの炎や痺れさせる程度の雷しか発生しない。強大な力を操るには、何事も鍛練が重要だと父さんも言っていた。


“防壁魔法”……敵の攻撃を防御する魔法の壁を作り出す。属性に関わらず使える“共通魔法”のひとつで、主に結界術の名称で広く知られている。

 騎士は、この魔法を習得する事が義務付けられている。戦えない人々を深淵の軍勢から守る為に必ず習得する必要があるのだ。


“収束魔法”……魔力を収束させる魔法。主に魔法剣を使う際に使用する。魔法剣以外でも、放出魔法を収束して破壊力を高めるといった使用法もある。


“付与魔法”……“魔道具”を作る際に使われる魔法。魔道具とは、魔法技術で作られた道具の事だ。魔力を込める事で、様々な効果を発揮する。付与魔法を考案した人物は――伝説の魔術師ユリウス。


 魔術師ユリウスの詳しい人物像は、歴史資料には記されていない。聖王国を建国した英雄と聖女の戦友だった事、強大な魔力を有していた事くらいしか伝わっていない。


 彼は、この世界でも類を見ない異才の持ち主だったとされる。彼は、本来は誰もがひとつしか宿さない筈の属性を“5つ”も宿して生まれてきたという。

 地水火風、そして雷の5つを自在に操るユリウスは世界最高の魔術師として名を馳せた。敵を倒す為の放出魔法の威力は凄まじく、戦場を更地に変えてしまったという逸話まである。


 その彼が編み出した魔法が付与魔法だった。付与魔法で作られた魔道具は、現在ではこの世界の至るところで広く使用されている。


 付与魔法かぁ……姉さんは、魔道具に強い関心を持っているから熱心に勉強してたなぁ。僕は騎士を目指しているから、重点的に学ぶのは防壁魔法と収束魔法になるだろう。


 次に目に入ったのは、生命魔法に関する項目。


“生命魔法”……負傷などを癒す治癒魔法が該当する。光の力を持つ人間だけが扱う事が出来る。熟達した使い手になると、死後間もない状態の人間を完全な健康体で蘇生させる事すら可能になる。


 死んで間もない人間限定とはいえ、生き返らせる事が出来るなんて凄いな。といっても、そんなことが出来る術士なんてそうそう居るものじゃない。


 そもそも、光の力を持つ人間自体が希少な存在。父さんや姉さんから聞いたけど、聖王家の方達やそれに連なる家系、この世界でも数えるほどしか居ないって言っていた。


 特に聖王家の方達は、突出して強い光の力を持つという。更に聖王家には、門外不出の秘術があるという。尤も、それをお目に掛かれる機会など滅多にない。

 あるとしたら、この国に大きな危機が訪れた時だろう。


「でも、気になるなぁ。一体、どんな秘術があるんだろう?」


「ディゼルー、何処に居るの?ちょっと手伝って欲しいんだけど」


 母さんの声が聞こえてきた。何か手伝って欲しいみたいだ。

 もうちょっと本を読んでいたかったけど、仕方ないか。


 読んでいた本を本棚に戻して、僕は書庫を後にした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る