エピローグ①
そして。
一ヶ月が経った。
***
「……ではこれより、第三回ワルダー=イービルジーニアス暗殺会議を始める!」
俺の力強い宣言にルネリアがぱちぱちと拍手をし、アイナは「かんぱーい」とやる気を感じられない声でジョッキを掲げた。
俺もアイナもすでに、あの妙ちくりんな認識阻害眼鏡はかけていない。
アンブラが俺の任務遂行を認め、卒業後のダークフォルト家離縁支援を確約したその瞬間に、アイナに事情を話したからだ。
……とは言っても、すべて信じてくれているかは微妙なところだが。
特に信じてくれていないのが、あの食堂野菜食べ食べ水浴びモンスターと化したのがルネリアの仕業だという部分で、
「はあ? ルネリアさんがそんなことするわけないじゃん」
……の一点張りである。
いや、こいつはそんなことするの。するんだよアイナ……。
「証拠ならある! 俺の脳内を見てくれば分かる! 頼む、“薬”飲んで動画見てくれ!」
「なに言ってんのかぜんぜん分かんないからやだ!」
「なんでだよ! ちゃんと編集してあるから! SEとかテロップとかも入ってるから!」
「だから、意味分かんないんだって!
てかそもそもあの“薬”、学園長に返したじゃん!」
「…………そうでした」
くそ、薬……薬さえあれば……。
……まあでも、以前セロくんに絡んでいた頃より明らかに態度は軟化しているから、良しとするか。
「ええと……それで、なんでアルターはワルダーを殺したいんだっけ?」
「おまっ、根本的に分かってなかったのか!? もう第三回なのに!?」
「ただの打ち上げかと思ってた」
「ただの打ち上げ、三回もやらないだろ!」
「いやあ……」
と、なにやらゴニョゴニョしていたが、「 ……ルネリアさんを誘う口実かと……」と耳打ちしてくる。なんなんだよこいつ。耳打ちするような内容でもないだろ。なぜなら勘違いだから。
そもそも、こっちはほぼ毎日同じ部屋で飯食ってんだよ。飯食いに行くのに口実もなにもないんだ。
んなことより、
「だからな、ワルダー=イービルジーニアスはな……」
そして、俺は語り始める。
あの苦節の日々を。
地獄のループを……。
……しかし話してる間ずっと、
「まあ確かに筋肉は急についたけど」
「なんか、あたしの出番少なくない?」
「変に長すぎる」
「で、なんなのその神聖魔法」
「ワルダー、ワルダーかあ……結局、学校やめちゃったんだよね?
もしかして退学したタイミング的にこじつけてない?」
などといちいち茶々を入れていたアイナは結局、
「……てかね、もう三回くらい聞いてるからね、それ」
と大きなあくびをした。こいつよぉ……。
「三回も話してるのにぜんぜん伝わらない俺の気持ち、果たして考えたことがあるかな?」
「まず、その神聖魔法? が使われたってなんで分かったのかが分かんない。
セロくんに勝つぞ! の流れに無理があると思う」
「ぐ……」
……そうなのだ。
少女の存在を他言しない、という約束を律儀に守っているせいで、そこらへんの説得力が著しくないのだ。
俺がいきなり打倒セロくんを決意し、とんでもないスピードで成長するご都合主義物語になっている。
ちなみにもちろん、あの湖畔の景色もカットだ。なんかエモーショナルな感じになって恥ずいし、どうせ話したところでルネリアと俺にしか分からんだろ。だから、内緒だ。
「――それに、その話だと結構な時間が経ってるはずなのに、実際はぜんぜんそんなことないのもご都合主義っぽい」
「ウゥゥ……ウゥ……!」
「論破されて悔しがってる野犬?」
「くそおちくしょお……あんま良い反論が思いつかねえよお……。
たのむ、助けてルネリア!」
「申し訳ございません。一昨日何を食べたか懸命に思い出していて話を聞いていませんでした」
「なんで?」
「めちゃめちゃ飽きてるじゃん」
……こんなことになるなら、やっぱ五年くらい経たせればよかったかも知れない。
そんな後悔もするが。
――まあ、でも。
「……ありがとな」
俺が神妙な面持ちで頭を下げると、ふたりはくすくすと笑う。
「それも、毎回言ってますね」
「感謝だけは毎回してくれていいけど、次からはループの話いらない。
あ、そういえば次の契約学の課題が――」
さらっと流されてしまうことに傷つきつつ――ああ、大丈夫だ、と俺は思う。
なにが大丈夫なのかは、うまく言えないけれど。
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