おばけのルネリア。
なかなか寝付けなかった。
ソフィアの正体に関する考察が頭をぐるぐると回っていたし、普通に怖くて眠れなかったというのもある。
「ソフィアの存在は、ひとりしか知らない……」
なんなんだよ、最後の最後まで意味深でもったいぶったこと言いやがってぇ……。
実質ノーヒントだろ……。
で。
そんでもってなに、「部屋を出ない方がいい」って。
…………本当になんなん?
なにが起きるん?
そこはそんな意味深に言う必要あったか?
…………もおおお~~~マジで勘弁してよ~~~……!
本当に怖――
コンコン、という音がした。
「ぎゃあ!!!」
悲鳴をあげて飛び上がった。
心臓が真夜中のカーニバルを始めている最中、ドア越しに声が聞こえてくる。
『……アルくん? 起きてますか?』
それは、たしかにルネリアの声だった。
あっ、なんだあ!
ルネリアじゃーん!
……と、安堵すると思われているとしたら、俺もずいぶん舐められたものだぜ。
あのな……この時間にルネリアは来ないんだよ。
こっちは死ぬほどループして知ってんだ。
あれでしょ? ドア開けたらルネリアの声した異形とかが立ってるパターンでしょ?
俺は騙されねえぞ! 絶対開けないからな! 正体を現せ!
と、俺がそちらのほうを睨んでいると、
「失礼します」
その声と共に、ドアが開いた。
え?
嘘でしょ?
勝手に入ってくるパターンがあるの?
正体を現せ、とは言ったものの。
そんなのズルじゃん。どうしようもないじゃん。
どうしようもない俺は、布団から顔を出して、固唾を呑んでそっちを見ているしかなかったのだが――。
「ルネ……リア?」
部屋の明かりに照らされたその銀髪の少女は、見紛うことなきルネリアに他ならなかった。
「はい。夜分遅くにごめんなさい」
「本当に……ルネリアなのか?」
「そうですが……どうしたんです?
……おばけにでも見えますか?」
「……見えないけど、見えないからこそそう見える」
「…………アルくんは一体、なにを言ってるんですか?」
ルネリアは布団を被る俺の傍まで来て、「はい」とその白い手を差しだした。
「おばけじゃないですよ。触ってみてください」
「…………実体のあるおばけかもしれない」
「はいはい」
ぐい、と手を握らされる。
「どうですか」
「……なんか……すべすべしてる……」
「恐縮です。
これで、本物のルネリアということが分かって頂けたでしょうか」
「いや、手とかあんま触らないから本物かどうか分かんねえ……」
……が、まああんまり怖くなくなってきたのは確かだ。
話も通じるし、本物にしか思えない。
「で、その本物のルネリアがどうしてこんな時間に?」
「それが……」
そこで、ルネリアは困ったような顔をした。
「……私にも、分からないんです。
ただ、少し歩きませんか?
ええと……その、変なことを言ってる自覚はあるのですが……そうしたほうがいい気がするんです」
「…………」
罠だ、と咄嗟に思った。
目的は分からない。
けど――明日には消えて壊れる神聖魔法は、ルネリアを使って俺をここから連れ出したいのだろう。
ソフィアの警告がなくても、それくらいのことは分かった。
……そう、分かっている。
なのに。
どうしてだろう。
「じゃあ……そうするか」
俺は、そう頷いていた。
危害はない、そうソフィアが言っていたのもあるし。
そうする必要がある――そんな確信があった。
――何が起きたとしても、どうするかを決めるのはキミだよ。
少女の声が耳に蘇る。
何かは、起きる。
というかもう、すでに起きている。
俺はきっと、そこで決めなくてはいけない。
この世界を、どうするかを。
おばけが出ようが罠が張られていようが、そこから逃げずに向き合わなければいけない……気がする。
決着だ。
俺とこの世界の、決着。
少なくとも待ち受けてるそれはたぶん、セロくんを木刀で叩きまくるよりはそれっぽく、ふさわしいものになるだろう。
「では……行きましょうか」
「ああ」
俺は頷いて、扉を開けた。
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