ちょっと良いこと教えてあげる♡
「推理してくれたお礼に、ちょっと良いこと教えてあげる」
――ソフィアは「これも憶測だけど」と前置きしてから、そう話し始めた。
すでにルネリアは夕食を置いて寮に戻っている。
「この世界は、外からは観測できない。現実世界から、“こちらの世界”でどれくらい時間が進んでいるかは誰も分からない。
そして逆に、“こちらの世界”からは、現実世界でどれくらい時間が進んでいるか分からない。だよね?」
「…………はあ……」
「だから、もしかしたら、こちらの時間は現実世界と同じように流れてるかもしれない。
……だけど、違う可能性もある。
向こうでは百年経ってるかもしれないし、十分しか経ってないかもしれない」
「…………はあ……」
「そういうとき、世界は極めて曖昧であやふやに動くものだよ。
この魔法が解けたその時、時間がどれくらい経ったのかを決めることができるのは……“忘却”と“順応”の外側にいるキミだけなんだ」
「…………はあ……」
「…………あの、アルターくん。
そんなずっとピンとこないことあるかな?」
ピンと来ない、わけでもなくもないが。
“ちょっと良いこと教えてあげる”とかいう、エッチなお姉さんしか言わなさそうな台詞で話し始めたのに、なんか小難しいこと言い始めるから……というわけでもなく。
「流れ的に、そろそろソフィアの正体でも教えてくれるのかと……」
「詮索禁止」
「……っすよね」
まあ、残念だが追求しても仕方がない。
元々、そういう約束なのだ。
まあ、最後までその正体が謎だったのは残念だが――と、そう納得しようとしたそのとき。
「――この神聖魔法は、キミたちの認識と記憶で構成されている。
そしてキミを含めた生徒たちの中で、わたしの本当の姿を知っていたのはただひとりだけ」
ソフィアが、呟くようにそう言った。
「……ってことは、実は幼女な生徒が学園の中にいるってこと?」
「ううん、そうじゃなくて。
この姿はたぶん、わたしがわたしらしく――……って、これ以上のヒントはナシだよ」
――ああもう、この身体はいろいろと苦労するなあ……!
そうか、たしかにいつだったかそんなこと言ってた気もする。
そしてたぶん、俺は……その人に会ったことがある……と思う。
ソフィアに最初に会ったとき、「以前どこかで会ったような」気がしたのを、いま思い出した。……まあ、気のせいだったかもしれないが。
……すっかり考え込み始めた俺を置いて、「さて」と幼女は立ち上がった。
「それから。
もしループを本当に抜け出したいのなら……今日の夜は、部屋から出ないほうがいいかも」
「……もしかして俺はいま、怖い話をされてますか?」
「……なんで敬語?」
やめてよ。
そういうの苦手なんだって。
古い祠壊したり禁足地に行ったわけでもないのに、そんな警告されることってあるわけ?
「こういう神聖魔法っていうのは……変な話に聞こえると思うけど、意志を持った生き物みたいなものなんだよ。
“この世界”が消えることを、前回で認識されたと思うから……なにか足掻いてくるかもしれない」
「な、なにかって――」
「安心して。たぶん、危害はないと思う。ただ……」
不安になるほどの間を置いて、ソフィアは最終的にふと笑った。
「何が起きたとしても、どうするかを決めるのは……キミだよ。
それは、忘れないで」
――ドアが閉じてから。
俺は、これがもしかしたらソフィアに会える最後だったのかもしれないということに、気がつく。
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