攻略完了/欠けたままの1ピース。
「――なあソフィア! あいつ、ちょっとスポーツマンシップに欠けてないかなあ!?」
「えーっと……。
それはまあ、セロ=ウィンドライツはスポーツでもないしスポーツマンでもないからね。どうしたの」
「どうしたもこうしたもなくてさ! あいつ、毎回毎回勝利宣言するんだよ!」
「…………うん。
え?
だってそりゃ、勝ってるからね……?」
「いや! だから、勝者ってのはさあ、誰が見ても勝者なわけじゃん。
それをわざわざ宣言する必要があるか!? 俺が芋虫みたいにひっくり返ってる横で!
それって“こいつは敗者ですよ!”って指さしてるのと一緒だよね!?」
「……それがムカつくから怒ってるの?」
「うん」
「…………め、めんどくせー!
じゃあ、どうすれば満足なのさ?」
「……そこは敢えて『降参するね』とかだったらカッコよくない?」
「いや意味分かんないし……。
それ、ただアルターくんが勝ちたいだけでしょ?」
「いや、俺も勝ったときにはそう言うよ。“降参するぜ”って。なぜならカッコいいから」
「それだとたぶんループするけどね」
「なら……仕方ないよなあ? デカい声で勝利宣言するしかないなあ!」
「はいはい。勝てればなんでもいいよ」
***
――訓練場に足を踏み入れた瞬間に伸びてきた木剣を、セロは回避する。
距離を取るためにステップを踏むが、アルターはそれを読んでいたかのように跳躍で追いついてくる。
――身体強化魔法。
それをここまで動きながらかけ続けることができるとは。
アルターのその高い魔法技術に舌を巻きつつ、跳躍と共に振り下ろされる木剣を受け流そうとセロは“構え”を取るが――。
「なっ……!」
まず本能が警告し、続いてセロの“感覚”がそれを捉える。
木剣はいまや、ただの木剣ではなかった。
驚愕に目を開く。
……多くの魔術師にとって、身体強化魔法は瞬間的な攻撃、あるいは回避行動に使われる。
体を動かしながらかけ続けることが困難であるから――という理由もあるが、その間、他の魔法が使えなくなることのほうがデメリットとしては大きい。
しかし、アルターは――。
(……
身体強化魔法を維持しつつ、
それだけでも学生の域を超えているが、特筆すべきは魔術の組み立ての早さだった。
並大抵の魔術師では、予め来ると分かっていても“妨害魔術”が間に合わない速度だろう。
……受け流すのをやめ、ぎりぎりで体を捻り躱す。
面白い、とセロは口元を歪めている自分に気がつく。
アルター=ダークフォルト。キミは、確かに強い。
――だったら、本気を出そう。
左肩をわずかに下げ、足を引く。
受けずに、受ける。
それは、受け流しの極地。
守りから、反撃へ――ほとんどゼロに等しい切り替えによって、回避不能な攻撃を可能とする剣技。
それは。
見切れるはずが、なかった。
ほとんど存在しないほどの、わずかな切れ目。
打てば返し、守れば打つ絶対領域。
瞬きほどもない一瞬。
攻撃と防御がまだ混じり合っている、その
アルター=ダークフォルトは、足を踏み入れた。
「――――ここだ」
「――がッ……!」
強烈な衝撃に、肺腑が潰れる音が自分の喉から聞こえた。
世界が揺れる。
地面に倒れ込んでいる、と気付くのにしばらくかかった。
起き上がろうとするその手に、もう木刀はない。
アルターが近づいてくる。
その顔にどんな表情が浮かんでいるのかは、薄暗い影のせいでよく分からない。
負けた、とセロは思う。
負けたのだ。
それでも、降参の言葉を口にする気はなかった。
おそらく、アルターは自分をその木剣で打ち付けるだろう。
――それでいい。
――それが、正しい。
自分は負けた。
彼には、彼の力の使い方を押し通す権利がある。それを、彼はいま証明したのだ。
「……あーあ」
……キミ、いくらなんでも強すぎない?
信じられない、という思いの残滓を噛み締めながら、セロは木剣が振り下ろされるその瞬間を待った――。
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