ループする世界で俺だけ成長できる件について。




 セロが訓練場に足を踏み入れた瞬間、突きを繰り出す。




***


「――そもそもの話、今のままじゃかな。

 アルターくん、身体強化魔法ってできる?」


「……まあ、たぶん覚えようと思えばすぐできる、と思うけど。

 ……意味あるか?

 “打ち消し”されるだけじゃないの?」


「うん。

 やるの」


***




 セロが訓練場に足を踏み入れた瞬間、アルターは身体強化して突きを繰り出す。

 しかしステップで距離を離され、“打ち消し”される。




***


「――とにかく、距離を離されちゃダメだ。

 やられるよ。“キミをゼロに戻してやる”を」


「そうは言いますけどねアンタ……自分に魔術かけながら動くって相当ムズいんだぞ……!」


「そっか。

 だったらこの時間も、アイナ=リヴィエットに頼んで練習しなきゃ、だね」


「ス、スパルタ過ぎる! 前時代的! ゆとりを持とう!」


「だって、ホントに十年もやりたくないでしょ。

 それに、これくらい出来ないで倒せるほど、セロ=ウィンドライツは甘くないよ?」


「ウゥ……ウゥゥ……!」


***




 ステップで距離を離されそうになるが、跳躍で追いついて木剣を振り下ろす――。




***


「なん……なんなんだあれ!? こう、剣が! 剣がぐにゃって!」


「“受け流し”の技術だね。やっぱり、不意を突いても力任せに攻めると使ってくるか……」


「ほーん…………で、対策は?」


「……正攻法は、構えてる間は攻めないこと、だけど……。

 たぶん、その間に“打ち消し”使ってくると思うから、結局攻めなきゃだめかな」


「…………詰んでない?」


「いや、木剣だから受け流しを使ってくるんだよ。

 だったら、受け流せないようにすればいい」


「どういうこと? 毒塗っておくとか?」


「……アルターくん、自分に身体強化魔法かけて距離を詰めながら、木剣に属性付与エンチャントできない?」


「……ちょっと待て。

 本気で高度二重魔術ダブルキャストやれって言ってるのか?」


「うん」


「うん、じゃないんだよな。

 それができたら本当に“白闇蛇”名乗れるわ!」


「できたら名乗っていいよ」


「いや名乗りたいわけじゃねえよ……」


「そうなの? カッコいいのに……」


「…………うそ、ごめん。本当はめちゃくちゃ名乗りたい」

 

「うんうん。じゃ、頑張ろー」


「ウゥゥゥ……!」


「アルターくんがちょくちょくやる、その犬が威嚇するみたいなやつはなんなの?」


***




 ステップで距離を離されそうになるが、跳躍で追いついて木剣を振り下ろす。

 セロが咄嗟に受け流しの体勢を取ると、アルターは身体強化を解いて――。


「いや、むずすぎるだろ……!」


 顔をしかめて、降参のポーズを取った。




***


「――高度二重魔術ダブルキャスト、ですか?」


「なんかこう……コツとかあれば教えて欲しいんだけど」


「えー」


「えーって言った?」


「……だってそんなことしたら、アルくんが私より強くなっちゃうかもしれないじゃないですか」


「なんで俺より強く在りたいのか分かんないけど……。

 あとたぶん、それでもルネリアの方が遙かに強いから安心してよ……」


「そもそもアルくん、身体強化魔法なんていつの間に覚えたんです?」


「いやまあ、あれはな。

 組み立てもなにもない、ただ魔力を纏わせるだけだから。誰でも気合いでできるだろ」


「…………いえ、普通はできないんですが……」


***




 ステップで距離を離されそうになるが、跳躍で追いついて木剣を振り下ろす。受け流そうとするセロの目が、驚愕に見開かれる。

 木剣は今や、ただの木剣ではない。

 学生の域を超えた、高度二重魔術ダブルキャスト――。


 面白い、とセロは、自分が笑っていることに気がつく。



 

***


「――おい! なんなんだあいつ!?

 俺があれだけ苦労した属性付与を! いとも簡単に! しかもなんかニヤっとしながら!」


「うーん、あれはなあ……。

 なんか、剣がやつだよね?」


「そうそれ! なにあれ!?

 アイツ本当に魔術使えないのか? 魔術使える奴より魔術っぽいことやってないか?」

 

「うーん……困ったな。

 なにをやってるのかは分かるんだけど、対策が分かんないんだよね」


「……どうするんだ、攻撃ルート変えるか?」


「どっちにしても、あれを攻略しないといけないと思う。

 アイナ=リヴィエットなら、もしかしたら対処法を知ってるかもだけど。でも、どういう技なのかを伝える手段が――」

 

「ある」


「――ない、え?」


「ある! あるぞ伝える手段が!

 “薬”で動画を見せればいいんだ! うおおお!! ありがとうアンブレラ!」


「……アルターくん、さっきからずっと何言ってるの?」


***




 高度二重魔術ダブルキャスト――。

 受ければ、木刀などひとたまりもなく確実に破壊される。


 面白い、とセロは自分が笑っていることに気がつく。


 アルター=ダークフォルト。キミは、確かに強い。


 ――だったら、本気を出そう。

 

 左肩をわずかに下げ、足を引く。

 ――。




***


「……そこだ。はい、そこ。止めて。

 あ、ちょっと戻して。……はい、そうそう。

 そこで、踏み込むの」


「ここか……。

 いやでも、そんなことしたら……こっちが無防備にならないか?」


「大丈夫、それは見せかけの攻めだから」


「見せかけ?」


「いい、アルター? 剣には守るか、攻めるかしかない。

 そこに半端はなく、達人はその切り替えが早いだけ。

 だから踏み込むなら、“守る”になったこの一瞬――」


***



「そこだッ――」


「――甘いッ!」






***


「切り替わった、この一瞬――」


***



「だったら、ここでッ――!」


「遅いッ!」





***


「――瞬間いま


***



「――ッッ!」



***


「――瞬間いま!」


***



「ここだッッ!!」





***


「――瞬間いま!!」


***






「…………ッ!」


「…………の、勝ちだ!!」


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