アイナ、墜つ。
で、肝心の実践である。
理論上、これでアイナがフルパワーで戦えるはずだ。
……勝ったな!
「ク……クククク……!」
こんなにお前と戦うのが楽しみなのは初めてだぜ、セロくんよ……!
俺は高笑いしたいのを堪え、力強く地面を蹴る。
「死ねェい!!」
そして剣を振り下ろし――「あれ?」と思う。
なんか……。
いや、気のせいか?
「オラァ! オラ、オラァ……?」
剣を打ち、剣を受ける。
…………。
………………。
…………いや、気のせいじゃないな?
なんか……へにょへにょじゃない!?
なにこの剣の振りの遅さは。受けもなんかワンテンポ遅いし。
おかしいな。
「オラァ…………ちょっとストップ!」
「え、あ、うん」
アイナにも聞こえるように大声で休戦を申し込む。
この“薬”、正しく服用すれば便利なことにアイナが念じてない間は俺が自分の意志で動くことができて――いや、そんなことはどうでもいい。
とにかく、訓練場入り口にいるアイナのもとに行く。
ちょっとちょっと、真面目にやってくれないと困りますよ! と文句を言おうと思ったのだが、
「――うごぇえ……」
……アイナは青い顔でぐったりとしていた。
な、なんだ!? なにがあった!?
「まさか……!」
はっとする。
もしやループが終わりそうだから、犯人が介入してきたのか……!?
妨害……!
そうか、まったく警戒してなかったが、考えてみればその可能性があるじゃねえか!
クソ、やられた!
「おい! 大丈夫か!」
アイナの上半身を支え、楽な体勢にする。
「う……うぅ………」
「誰にやられた!」
「……ぅぅぅ……!」
アイナが指を差すほうを見る。
「後ろ……?」
「うううー!」
違うらしい。
「いや、そんな情感込められるなら“違う”くらい言えるだろ……」
「ちがう……ちがうじゃなくて……アルター、って言ったの……うええ……」
「え、俺が……なに?」
「だから、あたしが苦しんでるのは……アルターのせい……ぎぼちわるい……」
「……ずいぶんストレートな悪口だなあ」
「じゃなくて……いいから……とりあえず、目閉じて……おえ……」
アイナが吐き気と嘔吐きを堪えながら説明してくれたことをまとめると。
俺が戦闘に集中しているせいで、視界情報が常に頭の中に流れ混んでくるらしい。
それは……まあ……。
「……そっちの方が遠隔操作よりやりやすくて良くないか?」
「……よくない……」
問題は、それが自分の視界と重なるうえに、その俺の視覚情報自体にラグがあるせいでめちゃくちゃに酔う、とのこと。
…………普通に欠陥じゃねえか!
前回とかより弱体化しているのはそのせいか……。
まあ、邪魔してくる謎の人物がいなくて良かった。
こっちはセロくんをどう倒すかで手一杯なのに、これ以上要素が増えたらわんわん泣くことしかできなくなっちまう。
「しかし、そんな罠があったとは……」
そうなると次は……。
従来の服用法でもダメ、想定された服用だとそれ以上にダメ、となると……。
ええと……。
…………。
………………。
……………………。
……なにも思いつかないや。
「……ど、どうすればいいんだ……!?」
俺は訓練場からの「アルター=ダークフォルトを棄権とみなす!」という宣言を聞きながら、呆然とアイナを支えることしかできなかった。
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