奴隷持ちの俺がうんたらかんたらThe Final Season 珍走探偵団最後の闘い


 やるべきことは、定まった。


 犯人の特定。


 ――いったい、誰がこれを引き起こしたのか?


 とにもかくにも、憶測の確度を上げるために……まずは、その究明に尽きる。



 そいつは、俺たちを永久のループに閉じ込め、世界から隔離することを目論んだ鬼畜ゲロカスクソ野郎だ。


 そしてそれは、はじめから決闘の存在とその勝敗を知っていて、あらかじめその神聖魔法を用意できた人間、ということになる……。


 そこに関しては、ソフィアよりもむしろ俺のほうが情報を持っているはずだ。

 なにせ、この決闘計画の立ち上げ段階から関わっているのだから。


 ――そう。

 被疑者は、すでに絞り込めている。

 

 

 最初はがっつり演技指導とかしてたくせに、いざ始まったら数少ない出番で台詞を全飛ばしする上に、最近は丸投げ気味だった計画の立案者にして、すべての始まり――アンブレラ=ハートダガー。


 人前で奴隷っぽい感じを出すのは異常にうまいが、実際の待遇的には普通にそのへんの侍女とかより上か、なんなら主人よりも立場が上になったりする破天荒美少女奴隷――ルネリア。

 

 事情をぜんぜん教えてもらってないのにも関わらず、なんだかんだで種々様々なことに協力する羽目になっているかなり可哀想なポジションの女剣士――アイナ=リヴィエット。

 

 情報をめちゃくちゃ出し惜しんでたくせに、打ちひしがれてる俺を見て可哀想になったのか、気前よくペラペラ喋ったりしてなんかイマイチ一貫性のない、甘さと優しさを覗かせる謎の偽幼女――ソフィア(偽名)。


 そして、ただひたすら目つきが悪いだけの俺――アルター=ダークフォルト。



 錯綜する思惑。

 張り巡らされた伏線。

 繰り返す世界と、繰り返す人々の抱く願い。

 そして、本当にただひたすら目つきが悪いだけで気が狂うほどの怪現象ループにノーヒントで放り込まれていた俺。

 

 

 決闘イベントの存在を知り、“時間の檻”を創り出した人物とは――。

 

 激動の最終章。

 ――俺とソフィアの推理パートが、いま始まる!

 

 

 




 

 …………などとやる気満々だったのはどうやら俺だけだったらしく、


「――アルターくんは、あれだよ。

 セロ=ウィンドライツを決闘で倒す目処をつけなきゃだね」


 ループ後。

 ソフィアから下されたのは、意外にもそんな指令だった。


「え、た、倒す?」


「え? うん。

 だからほら、もう一回説明するけどさ、“すべてはその完璧な一日のためにヘメラ・ヘネカ”から抜け出すには大多数の望んでいたことを――」


「いやいいよ、それはもう分かってるしすげえ長くなるから……。

 そうじゃなくて、その路線はもう決定でいいの? 俺とソフィアの推理パートは? 明かされる陰謀と思惑、そして浮かび上がる意外な犯人は!?」


「え、でも結局、アルターくんも誰が犯人か分からないんでしょ?」


「いやまあ、そうだけど……」


「だったら一緒に考える必要ないもん。それだと効率も良くないし……アルターくんはアルターくんにできることをやったほうがいいよ」


 バイト先に一番居て欲しくないタイプの先輩が言いそうな台詞すぎるだろ。


「……じゃあそれはそれとして、もうセロくんを倒す準備していいわけ? なんか前回のループついさっきまでは、まだ確証ないからやるなって止めてなかったか?」


「あー……」


 あー……って。

 なにその、そんなこともあったねえ、みたいなのは。


「うん、いいよ。

 だって犯人が分かっても、結局分からなくても、どっちにしてもセロ=ウィンドライツを倒すことになる可能性は高いから」


「いや、そりゃそうだけど……」


 そうだけど……そうか?

 理屈は通ってるけど……そうか?


 慎重にやろうよ~とか確信がないよ~とか、そういう話はどこにいったんだ? 前回のループと一緒に消失したんか?

 と、首を捻っていると、


「それはさ。

 仮にセロ=ウィンドライツをキミが倒して、でも実はそれは間違ってて、どうしようもない状況になったとするでしょ。

 でもそれが熟考の上で起きたことなら、まあそれもしかたないかって思うしかないよね。そういうことだよ」


「は、はあ……。

 いやまあ、分かんなくはないけどさ……」


 ……つまりなにか?

 初めから「失敗するのが怖い」とかいうより、「失敗したときの後悔を減らしたい」とかいう、そこそこ後ろ向きな理由で情報もったいぶったりしてたんか……?


「……それでよくもまあ、俺に“ビビり”って言われてムカつけたもんだねえ!」


「言っておくけどさ、今もムカってしたからね」


「なんでだよ! 本当のことじゃねえか!」


「ぜんぜん違うよ! わたしは失敗するにしても、最善を尽くして失敗したいの! 臆病者じゃないの!」


「臆病者より悪いなにかだろそれ! 口じゃなくて手を動かす奴が一番偉い、みたいな金言もあるぞ! 心に刻んどけ!」


「未知の神聖魔法とかでそれやるのって相当なバカだからね!? 適当に動いたら、あっという間にぐちゃぐちゃになったりにゅるにゅるになったりするんだから!」


「あっという間にぐちゃぐちゃになったりにゅるにゅるになったりするの!?」


 しばらく幼女と口げんかに興じる。

 ……不毛すぎた。


 しかも俺自身、打倒セロくんに向けて動くのは別に願ったり叶ったりなわけだし。

 ……本当になんだったんだこの時間は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る