“明日”に至るためには。

 そのソフィアの問いかけが、意味するところを理解する前に。


「――いや、まて、それは……。

 さすがに、おかしいだろ」


 俺は、そう言っていた。


「だって、はアンブレラ以外にできない……!」


「……わたしが“憶測”を共有する気になったのは、アルターくんのその思い込みが強すぎるからなんだ」


 思い込み。

 ……思い込み?


 くらくらする。

 まるで、自分の大事な地盤が揺らいでいるような。


 そんな俺を少し悲しそうに見ながら、ソフィアが続ける。


「だって、普通に考えればさ。

 いくらアンブレラ=ハートダガーが稀代の魔女だからって、魔術を創り出せるわけがないよね。

 これは“想像”っていうより……“事実”だと、わたしには思える」

 

 ――しかし、いくらなんでもその“むちゃくちゃ”で“あり得ない”ことを、たかたが「生徒の演技が気に入らない」程度でやるか?


 何周も前に浮かんだ俺自身の疑問が、ソフィアの言葉と重なってリフレインする。


「それと……“事実”がもうひとつ。

 ――世界がループを始めるのは、アルター=ダークフォルトが負けたときである」


「……いや、それはそうとは限らない……」


 はず、だ。


「俺が決闘を起こさなくても世界はループするし……」


 そう言いながら。

 俺は、何かに気付こうとしている自分に、気付く。


「そうだね。

 でもキミが負けたに、世界のループは始まる。決闘の途中でそれが起きたりはしない。これは確かな事実だよ」


 ――俺の、負けだ。


 堂々と、セロくんを見て、力なく、空を見上げ、長台詞のあとで、観客を見て、みっともなく、無気力に、悲しげに。


 何度も何度も何度も繰り返した敗北宣言が、頭に浮かぶ。


 ソフィアは言う。


 ――気付いてるかもしれないけど。

 この世界の時計は、水曜日の夕方五時十六分で止まるの。

 たとえば、決闘が発生しない場合はこの時間を境にループが始まったりもする。


 ――でも、それは見せかけの条件や時間であって、本当の境目じゃない。

 キミが負けた瞬間。キミの敗北宣言。

 それが発せられるときに、時計はようやく五時十六分を指して、ループの始まりで、終端になるの。


「――そして、世界は二十四時間の遡行を始める」


 火曜午後五時十六分。

 ルネリアが言う。ルネリアは言い続ける。ルネリアは言った。


 ――そう……ですね。おおむね、よろしいかと。

 

「つまり」


 俺は、とうとう気がつく。

 

 決闘から逃げてはいけない。

 負けてもいけない。

 

 俺は――。

 

「……決闘に、勝たなきゃいけない、のか?」

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