異常現象×異常少女
こうして、俺は再び頑張ることになったのである!
……まあ、とは言っても。
正直、「あ、俺ってまだ頑張んなきゃいけなんだぁ……」とは、思ったよね。……ちょっとだけ、ちょっとだけね。
そりゃなんだかんだ、この謎の少女がえいやと不思議パワーを発動し、なんやかんやで空とか空間が割れてループから抜けて、うやむやのうちにアンブレラ死す! ……みたいなのを期待しなかったわけじゃない。
けど、ひとりで翻弄されていたときよりも……なんというか、心強かったし、空しくもない。
それは、少女が俺より事情を知っていそうだから――という理由だけではない。
この異常現象を認識しているのが、俺ひとりじゃないと知れたからだ。
……思えば、俺は繰り返される日々の圧倒的理不尽に屈したのではなく、ルネリアにすらそれが通じない孤独に心を殺されたのかもしれなかった。
さて。
そんな少女からのオーダーは、
“一度目と同じ行動をして”。
というものだった。
ので、頑張った。
これでループが終わることを、ずいぶん久しぶりに期待しながら……。
ふうん、最後に最初の展開やるのってなんかアツいじゃん? と思いながら……。
なるべく演技レベルも落とし、忠実に再現したつもりだ。
もちろん俺の主観ではずっと前のことなので細かいところは違うだろうが、ルネリアとの会話やアイナとの会話などを含めても、流れとしてはほぼ同じにできたはずだ。
……が、穏やかな木々のせせらぎとかより聞いた「そう……ですね。おおむね、よろしいかと」はやって来たのだった。
対して、「やはり計画は変更にする。決闘イベントは来週だ」とショックを隠しなるべく心配をかけないように返し……俺は少女が部屋を訪れるのを待ったのだが、来なかった。
そして、翌日水曜日の早朝。
白ワンピの少女は、ようやくその姿を見せた。
曰く、
「重要な“一回目”の流れが分かったから、昨日は改めて情報の見直しをしてたんだ」
……とのこと。
「………………そりゃよござんすねえ」
「よござんす? ていうか……アルターくん、なんか不機嫌?」
少女は首を傾げ、
「……あ。もしかして、前回でループ抜けられると思ったとか?
だとしたら、ごめんなさい。今回はただ、欠けてた情報が欲しかっただけなんだ」
「あのなあ…………そういうのはあらかじめ言っておいてくれ……昨日来ないのもそうだしよぉ……。楽しいか? 俺の心をかき乱すのはよ……」
さすがに文句のひとつも出るさ。
そう、この幼女……「待たせたな! 協力するぜ!」とか言って颯爽と現れたくせに、全く情報を寄越さねえのである。
特に顕著なのは、少女自身に関することだ。
詮索するな、といの一番に念を押しただけのことはある。
唯一自身について語ったのは「ソフィア」という名前くらいで、それすらも偽名なんじゃないかと俺は密かに疑っている。だって名前聞いたときに、「えっと……じゃあソフィアで」って言ってたし。
えっと、じゃあって何。
もう完全に今考えたやつじゃん。
「……んで、まさか二週目のやつとかもやれとか言わないよな?
そこらへんはたぶん、一度目とそう変わらないはずなんだけど……」
「あ、大丈夫。そこからは見てたから」
「……全部?」
「うん、全部。あ、プライベートは含まないよ。キミとセロ=ウィンドライツの決闘だけね」
…………。
しれっとソフィアは言っているが、ちんちんブレードのくだりも余さずか? 頼む、そこはどうにかして余してくれるか?
が、そんな俺の祈りを無視してソフィアは「さて」と指を一本立てた。幼女然とした体格と顔に、まったく合っていない知的なポーズ。
「確定したことを言うね。
まず――この現象が人為的に引き起こされている場合、アルター=ダークフォルトはその犯人ではない」
「…………うん?」
あまりに当たり前のことすぎて、一瞬衝撃の真実が明かされたのかと思った。
俺が………………犯人じゃないだって!?!?
…………………………そりゃそうだけど?
「そもそも、これはアンブレラが――」
「まあまあ。アルターくんにとっては“そりゃそう”でも、わたしにとっては違うよ」
「……だとしても、俺にそんなスーパーパワーねえよ」
けどまあ、ダークフォルト家関連で広まっている噂を考慮すれば……分からなくもない疑念かもしれない。嘘。やっぱ分かんない。
「まあ、キミが“壊れ”始めた時にほとんど確信してたけどね。今回、わたしが出てきてからのアルターくんの態度などを見て、間違いないって断定することにしたよ。
キミは、巻き込まれただけだ」
「……新事実を解き明かしてくれて、非常に助かるぜぇ~」
「うん、よかった。
それと、もうひとつ」
俺の皮肉をさらっと流して、ソフィアがぴっと二本目の指を立てる。
「アルター=ダークフォルトとセロ=ウィンドライツの決闘が、ループの重要なファクターである。
つまり、キミの考え方は間違ってないってこと」
「…………まあ……はい……」
これも俺にとっては“当たり前”すぎて、今さら断定されるまでもない。ゆえに、めちゃ微妙な反応を返すしかなかった。
……ほんとにこの幼女、信じて大丈夫か?
そんな疑いの目を向け始めた俺に、ソフィアは妙に大人っぽく苦笑して言い聞かせる。
「こういう現象は、慎重すぎるくらい慎重に動かなきゃいけないものなの。
それに、まだ欠けてる情報があるから……詳しく聞いてもいいかな?」
「なにを?」
「キミと学園長は、結局なにを企んでいたの?」
「ああ――」
……そういえば、誰かにこの話をするのは初めてだな、と俺は思いながら――。
入学前に、学園長から「悪役を演じて欲しい」と頼まれたこと。
ルネリアやアイナの協力を仰ぎながら、今日までやってきたこと。
セロくんに対する潮目を変えるための決闘が、最初から目的だったこと。
――そのすべてを、洗いざらい話した。
そうか、そうだったんだ……と、ソフィアは呟いて、顔をあげた。
「……それにしても、さすがはアンブレラ=ハートダガーだね。抜け目ないなあ」
「そう……か?
そんな感心するほどの計画じゃないと思うけどな……」
最初に聞いたときは「ふん、即興にしては割りといい計画だねえ……」と思ったものだが、穴や抜け、無駄はかなりある。
アイナに事情を隠せとか、俺が二つ名持ちの冒険者に違いないとか、台詞全部飛ばすとか。
……しかし、ソフィアが感心していたのはそこではなかった。
「セロ=ウィンドライツへの過度なイジメ防止……そのついでに、この決闘で彼の実力の
……どう? そう考えると、抜け目がないでしょ?」
「んなっ……」
俺は思わず絶句した。……その視点はなかった。
「たぶん、アイナ=リヴィエット……だっけ? その子に内情を明かすなっていうのも、アルターくんと必要以上に親しくして欲しくないからじゃないかな。
……とにかく、学園長はキミに余計な力を手にして欲しくないんだよ」
「い、いや……それは普通に買いかぶり過ぎだと思うが……」
「かもね」
あっさりとソフィアは認めた。
……が、全てが考えすぎだとも言い切れない。
言われてみれば、となるような説得力があった……というか。
「……アンブレラの目的が“俺たちの実力を試す”ってことになると……二人が実力を出し切ったと判断するまでループさせられる……とかなのか?
いや、もしくは俺たちが完璧に仲違いするまで続くとか――」
「アルくん?」
突然割り込んできた声の方を、見る。
それは、ルネリアのものだった。
……そうか、いつの間にかもう七時二分か。
どうやら話に夢中で、ノックに気がつかなかったようだ。
ルネリアは周りを見回して、少し首を傾げた。
「誰かとお話されているのかと思いましたが……独り言の練習中だったんですね」
「いやそうじゃ……ちょっと待って? 俺って独り言に練習が要ると思われてるの?」
「(苦笑)」
「(苦笑)、じゃねえよ」
「それはさておき、朝食をお持ちしました。
……それでは朝練、頑張ってくださいね」
「部活じゃないんだからさ」
ルネリアが見慣れすぎた朝食のプレートを置いて、ドアを閉める。
しばらく間が空いてから、「それにしても」とソフィアが何かを誤魔化すように口を開く。
「えーっと……ルネリアさんって、キミの前ではぜんぜんキャラが違うよね。
まさか、そんなに仲が良いとは――」
「おい待てや」
「――思わなかっ…………なに、かな?」
……まあな。
前回のループで薄々気がついてたんだがな……。
「…………もしかしてソフィアって、俺以外には見えないのか?」
「…………。
……そうだよ?」
おい!
なんだその「ホントは気付いて欲しくなかったけどなあ~」みたいな態度は!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます