繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し、それから


「俺のことは放っておいてくれ……って、昨日言っただろ」


「ですが」


「これは、命令だ」


 ルネリアが唇を引き締めて、一礼する。

 手つかずで残した朝食を下げた彼女が退室するのを待たずに、俺は再びベッドに向かう。


「…………」


 横になっていると、時間を浪費しているという感覚に溺れそうになる。


 ……筋トレしなきゃ。


 しかし不安感を解消するために起き上がろうとしたそのとき、そろそろ行かなくては、という気持ちがわいてくる。


 どこに?

 剣術の授業に。

 

 なんのために?

 ループから抜け出すために。

 

「…………」


 俺はわずかに起こした身を、再びベッドに沈める。


 ……分かっている。

 まだやれることはある。

 何がこのループの“正解”になるかは分からないが、どこかにアンブレラが想定した正解があるはずだ。

 試行錯誤を繰り返せば、彼女の望むパターンを踏めるかもしれない――。

 

 少なくとも、そういう可能性はある。

 アンブレラがやったことならば。

 

 んなこたぁ、分かっている。

 ただもう、そういう期待と絶望と無力感に疲れたのだ。

 なにもやる気になれない。意志よりもっと根深い部分が、焼き切れてうまく繋がらなくなったような感じ。


「…………」


 眠りと覚醒の間を繰り返す。

 何度も、何度も。

 気がつけばまたループし、俺は彼女に「放っておいてくれ」と言い放っている。


 最後に食事をした周回がどれくらい前なのか、何周ルネリアが物言いたげに手つかずの夕食と朝食を下げているのか、それどころか水を飲んだ記憶も排泄・排尿の覚えもない。 

 



「…………」


 ふと。

 目が覚めた。

 



 時計を見ると、夜中の二時だった。

 いつの、と考える必要はない。もはやこの世界に夜中の二時は、水曜日の深夜以外あり得ないからだ。

 

「…………」


 もう一度眠ろうとする。


「…………?」


 ……眠れない。 

 妙な違和感があった。

 

 繰り返すループの中でこの時間まで起きていた時もあるので、少なくともこの部屋で俺に知らないイベントは起きない。ルネリアは入ってこないし、虫やネズミの類いも、幽霊すらもない。

 

 俺は身体をゆっくりと起こして――。





「――こんばんは。アルター=ダークフォルトくん」





 ……気力があれば、軽く二メートルは飛び上がって天井を突き破っていたと思う。


 すっかり鈍くなった脳が、今なにが起きているのかを理解するにつれて、心臓が早鐘を打ち始める。

 血流が激しくなり、頭皮がぴりぴりとしびれる。

 

 それは、小柄な人影だった。


 震えてなかなか言うことを聞かない指を伸ばし、部屋の明かりをつける。

 まぶしさが目に突き刺さり、思わず瞼を閉じる。


 再び開けても、その少女はベッドの傍にいた。

 

 ふわふわと波打つ長い髪。「少女」よりも幼い顔立ち。以前どこかで会ったような気もするが、それがどこだったのかは全く思い出せない。

 長い時間制服ばかりを見ていたせいか、彼女が着ている質素な白いワンピースがより一層まぶしく見える……。

 

 急に明かりをつけた俺に抗議するかのようなしかめっ面を見せていたが、少女は取り繕うように「さて」と歳不相応に腕を組み、俺の顔を見た。


「わたしは、あなたに協力するためにここに来た。

 ……わたしのことは、見えているよね?」


 ああ、と言いたいのに声が出なくて。

 俺は、バカみたいに何度もコクコクと頷くことしか出来ない。



 それは。

 ……俺が待ち望んで待ち望んで待ち望んでやまなかった、“新たな展開”だった。

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