ひとりきりの暁暗のなかで。
「決闘はしない。俺のことは放っておいてくれ。これは命令だ」
そして俺は、ひたすら惰眠を貪った。
愚直なほどに。
もう二度と起き上がらなくても良い。そう思った。
………………。
…………。
……。
飽きた。
もう、ぜんぜん、ループ三回目とかで飽きた。
惰眠、貪りたくなさすぎ。起き上がりたすぎ。
……というか正確に言うと、俺の可愛い筋肉たちが衰えていくのが許せなかったのである。
かつての自分からすると信じられない心境の変化だが、それも当然かもしれない。
この変わらぬ脱出不可能なループにおいて唯一変化していってくれるものが、可愛くないわけがないのだ。
「ふっ……ふっ……!」
腕立てや腹筋などの自重トレーニングの後はとにかく鶏肉を食う。鶏の怨霊がいるとすれば真っ先に俺を祟り殺しに来るであろう勢いで、食う。あとブロッコリーも食う。ブロッコリーと鶏の怨霊に追いかけられる夢も見る。
「よしよし……大きくなれよ……」
盛り上がってきた筋肉たちに、猫撫で声で話しかけたりする。
目つきの鋭さと体つきがマッチするようになって、我ながら段々格好良くなってきている気がするが、これはマッチョ特有の自己肯定感上げ上げ効果のせいかもしれない。
もちろん、マッチョポジティブシンキングを貫通して、ネガティブになったりもする。
不安もあるし、あとはこんな目に遭わせたアンブレラに対する怒りもある。
「殺してやる……」
怒りは連鎖反応を起こし、あっという間に巨大な負の感情へと変貌を遂げていく。
いつまでも同じ日を繰り返す閉塞感と、それを誰にも共有できない孤独感と、こんな目に遭わせているアンブレラとそんな奴に釣られて言いなりになっていた自分と何も知らないでこの二十四時間を繰り返している奴らと俺をここに閉じ込めやがって殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺して
……そういうときは身体をいじめ抜く。頭から怨嗟の声などの余計なものが消えていき、謎の脳内物質が疲労と共にじゅわじゅわ出てくる。
怒りと不安が、肉体に対する愛情へと変化していく。
……おかしくなってるな、と冷静に思うときもある。
いや、おかしくなるに決まってるだろ、と頭の中の麻痺した部分が猛然と反論する。なんか……すんません、と思う。
そんな日々をぐるぐると繰り返していたのだが、ある周回のときに身体が動かなくなった。
いや、正しく言えば動く。
動くのだが、動作が緩慢だ。
無理矢理早く動こうとすると、吐きそうになる。
まことに不思議なことだ。
そんなことを思いつつ爽やかに汗を流していたのだが、そこから少し先の周回で、俺は動けなくなった。
限界の限界――。
とうとう、それがきたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます