プロローグ①、②


「――ひとまず、第一関門突破ですね。なんとか決闘イベントを受けて頂けて良かったです」


「ふっ……また、ルネリアの迫真の演技に助けられたけどな……はっ……セロくんが、思ったより、挑発に乗ってくれなくて……。

 …………それよりルネリア」


「なんでしょうか」


「はあ、はあ……なんで俺は今、死ぬほど腹筋させられてるの?」


「もちろん、筋トレで少しでも強く見せようという作戦です」


「今さら!?」


「筋肉中の血液量などを増やし、一時的に大きく見せる……いわゆるパンプアップというやつです。

 ちょっと立ち上がって、自分の腹筋を見てください」


「おお………………なんか変わった? 強そうに見える?」


「……いえ、まったく変わってません。びっくりしました。こんなに変わらないことがあるんですか? ぜんぜん弱そうです。そもそもなんですかそのお腹は。ひどすぎます」


「……そんな言わなくてもいいじゃん!」


***


「……アルター」


「……なんだ」


「なんか……全体的に濡れてない? 汗?」


「水だ」


「ああ……また服着て水浴びしたんだ……」


「違う。これは服をピチピチにすることで身体のシルエットを……おい、なんだその嫌そうな目は」


「……なんか、いろいろ透けてて、とても嫌」


「…………見るなッ!」


「だったら服濡らすな!」


「…………」


「……あのさ」


「なんだ」


「気に入らないなら、関わらない……それじゃだめだったの?」


「……そうだな。本当に……俺もそう思うよ」


「…………。

 これが終わったら、セロ=ウィンドライツを執拗に攻撃するのはやめて」


「フン……それは、命令か?」


「そうだって言ったら、従ってくれるの?」


「どうかな……考えてやらないこともない」


「……考えるだけじゃだめ。約束して。

 じゃないと決闘中に服脱がす」


「わ、分かった分かった! 約束する!」


「……信じるからね」


「ハッ……信じる、か。

 たかだか数週間の付き合いだ。お互いに何が分かるというわけでもない。本当に『信じる』ことなどできるわけがないだろう」


「それは…………そうかもしれないけど」


「だがアイナ。

 それでも俺は、おまえを信じる。……頼んだぞ」


***


 ざわめきと期待。

 心音と静寂。

 


 俺は深く呼吸を繰り返す。前髪をあげ、暗い幕内を歩いて行く。


「それでは――」


 背後からルネリアの声がする。


「――いってらっしゃいませ、アルター様」


 ぱちん、と音が鳴った。


 目のくらむような光をただ見つめ、やがて俺は観客たちの前へと姿を現す。

 

 

 外の匂い。

 世界の匂いだ。

 

 


***




「――唱えつかいなよ、アルター=ダークフォルト。

 

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