ワルダーを救え!
ど、どうしよう。
いますぐ近くに行ってワルダーくんの肩を抱き、優しく事情を聞き出すべきだろうか。
どしたん? もうちょっと静かな場所に行こうか? などと誘い出して親密になり、なんやかんやで悪役代行の流れに持って行くことは果たして可能だろうか。
そんな邪なことを考えていると、
「おいおい、どしたん?」
男二人組に先を越されてしまった。
絡む、というより普通に心配していそうな感じだ。単なるいい人の可能性が高い。
「ずいぶん酔ってるな? パーティメンバーの誰かが死んだか?」
「うるせえ……」
「おいおい。なんだ、そんな邪険にするなよ。話くらい――」
「黙れ。その日暮らしの冒険者風情が……。
僕はあのオルド魔術学園生だぞ……! お前たちとは違うんだ……!」
「っ、なんだと……」
「ガキが、喧嘩売ってんのか?」
あ、あわわわ!
とんでもない勢いでトラブルを引き起こしてる!
ワルダーくん尖りすぎだろ!
「フン……僕は酔っ払いだぞ。ストレスから逃れるために深酒してるんだ。その上で君たちごときに絡まれると、ますます酒量が増えて健康に悪いじゃないか」
「こいつ……絡まざるを得ないことをペラペラと……」
「お、おい! 待て、暴力か!? 暴力に訴えるのか!? これだから冒険者は! 社会性のないカスどもが! 喧嘩はやめよう!」
「なんだこいつ!」
「めちゃくちゃだぞ!」
まずい、ワルダーくんの立ち回りが下手すぎる!
大波乱の予感がしてきた。止めなければ……!
「ま、まあまあ! ここはひとつ、俺の顔に免じて許してやってくれませんか」
「……誰だテメエは」
「目つき悪いな」
喧嘩をインターセプトしに飛び込むと、二人から睨まれた。
普通に怖いが、暴力沙汰になってもたぶん大丈夫だろう。なにせこっちには凄腕のアイナとルネリアがいるのだ。全力で威を借る勢いだ。
「っていうか、免じるもなにもお前の顔なんざ知らねえよ」
「目つき悪いな」
「フッ……良いんですか? そんな口をきくと……後悔しますよ」
「なんだその根拠のあまりなさそうな自信は」
「目つき悪いな」
さっきから俺の目つきにしか言及してない奴はなんなんだよ。
「つうか、なんか同業者っぽくねェんだよな……。さてはテメエもこのガキと同じ、魔術学園生だな?」
「……いやいや、全然違いますけどね」
「嘘っぽいなあ! 証拠出せ!」
「そうだ! ライセンスカードとか出せ!」
……まずいな、このままだと単純に標的が二つに増えるだけになってしまう。
少なくとも学園生ということは隠さなくては。
「そんな口をきくと……後悔しますよ」
「お前そればっかじゃねえかよ!」
「いいから学園生じゃないって証拠だせ!」
「おい、なんか事態がややこしくなってないか? 助けるなら早く助けてくれないか?」
とうとうワルダーくんからクレームも入ってしまった。
しかしまあ、時間は稼いだ。
そろそろアイナかルネリアのどっちかが助けに来てくれる頃合いだろう――と期待を込めて振り返ると、二人はこっちを見てすらいなかった。
なんか談笑とかしてるっぽかった。
嘘でしょ? こんな至近距離で俺が絡まれてるのに?
「えー……ちょっと待っててくださいね」
「おう」
「手短にな」
「早く助けてくれ」
テーブルに戻る。
「――ですので、意外と年上なのではないかと思っているところです。
それも、豊満な体型なのではないかと」
ルネリアが淡々と意味不明なことを言っていた。
何の話をしてるんだ。
「どうだろう……。身分差? みたいなのが好きだと思う。
絶対そうだよ。ていうか、そうだったし」
「自信ありげですね」
「自信ありだね」
……まさかとは思うがこいつら、まだ俺の性癖について激論を交わしてるのではあるまいな? 深く訊きたくはないが。
「おい、そんなのいいから早く助太刀してくれ!」
「そんなのとはなんですか」
「そんなのって言い方はないじゃん」
「ごめん」
こいつらもう酔ってるのかな。
「なあ、冒険者であることを証明できるか?」
「え? 証明……ライセンスとかってこと? あー……どこにやったっけ……」
アイナが自分の財布を探り始めた。
……なかなか見つからなさそうだ。
半年行ってない店のポイントカード探してんじゃないんだから……と思いながら待っていると、腕をつんつんと突かれた。ルネリアだ。
これでよろしいでしょうか、と声を出さずに言いながら、何かをこっそりと渡してくる。
――それは、楕円形の金属質の板だった。
表裏に刻印がされており、恐らく身につけるための紐が穴に通っている。
……そういえばこれ、ルネリアが俺の名前で登録していたというライセンスじゃないだろうか。
ライセンスを手にしたアイナに「この人冒険者仲間です!」と主張してもらう――という頭が悪すぎる計画だったが、それよりも説得力があって何よりだ。
これでワルダーくんを救える!
「お待たせしました!」
「テメエ! 結構待ったぞ!」
「ですよね」
だいぶ怒っている。そりゃそうだ。
冒険者だと証明しても一悶着は避けられないかもしれない。
ちなみにワルダーくんはというと、ガブガブ酒を飲み続けていた。豪胆すぎるだろ。やはり俺の見込んだとおり悪役の才能に溢れている……あとは呑んでいるものを果実酒から蒸留酒に変えれば完璧だ。葉巻とかも吸わせよう。
「まあまあ、とりあえずこれを」
俺はライセンスとやらを渡す。
男は指で弾いたり片目で凝視したりしていたが、「……チッ、どうやら本物の冒険者らしいな」と真贋を見定めた。面倒なことになった、と言わんばかりの表情を浮かべている。
ずい、と身を寄せてきた。
「なあ、分かるだろ?」
いや、全然分からない。
「ここは余計な首突っ込まんでくれや」
分からないが……あるいは最初から、学園生っぽい奴に声をかけてカモにするのが目的だったのかもしれない。ぜんぜん良い人なんかじゃなかった。
「大人しく退いてくれれば、お互い面倒なことにはならねえ。だろ?
このガキにはちょっと痛い目みてもらって、ヘヘッ、金を出してもらうだけだ……」
「痛みでしか得がたい人生経験……勉強代ってやつだよ。
分かるよな? ええと……アルター=ダークフォルト、さんよ……。
……なんだ? この物騒な名前は……ダーク……アルター=ダークフォルト!?!?!?!?」
ライセンスの刻印から名前を読み取ったその瞬間、男の顔色が変わった。
「ア、アンタ……あのダークフォルト家の……。
嘘だろ……?」
額に汗を浮かべ、ゆっくり慎重に俺にライセンスを返してくる。
いつ豹変してナイフで刺してくるか、と言わんばかりの怯えようだ。
「き、聞いたことがあるぜ……。
今は活動を休止してるが、凄腕の冒険者だったって……。
――音もなく相手に近寄り、一瞬で屠る……。
最期に見るのは、闇に光るその目だけ……。
付いた二つ名は……“白闇蛇”……!」
すげえな!
どんな活躍したらこんなに名が通るんだ
専用の口上みたいなのまであるじゃねえか!
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