【完結】奴隷持ちの俺が学園に入学したら、主人公キャラに絡む“やられ役”になりました……。
ルネリアは俺とアイナが誰だか分かっていないとアイナは思っているが本当はルネリアは分かっておりしかも逆に俺とルネリアが人格を偽っているとアイナは知らない。
ルネリアは俺とアイナが誰だか分かっていないとアイナは思っているが本当はルネリアは分かっておりしかも逆に俺とルネリアが人格を偽っているとアイナは知らない。
というわけで、俺たち三人はエロいものを求めて酒場に来ていた。
つまり、「
……いや、どういうことなんだよ。
もう自分で買いに行けよ
しかもこの状況、もっとちゃんと言うと「ルネリアは俺とアイナが誰だか分かっていないとアイナは思っているが、本当はルネリアは分かっており、しかも逆に俺とルネリアが人格を偽っているとアイナは知らない」……とかいう、まともに考えるだけで頭がおかしくなる前提に立脚している。助けてくれ。
――で、エロを求めてなぜ酒場かというと。
そういう露骨にアブないものはいわゆる風俗街に置いてあるか、酒場が裏メニューとして販売しているのが通例……とのことである。
昔はエロ本くらいなら本屋にも置いてあった気もするが……時代は変わったということか。
ちなみに、
「……いや、べつに詳しくないから。冒険者やってると、嫌でも耳に入ってくるから知ってるだけだから」
とは、聞いてもいないのに言い訳をしてきたアイナの言である。
ふーん、耳に入ってきただけなのにようけ知ってはりますなあ、という顔でいたら無言で軽く蹴られた。
お、俺は本当にただ、よく知ってるなあって感心しただけなのに……。こいつアルター=ダークフォルトを恐れてなさ過ぎるだろ……。
さて、酒場、と言ってもただの酒場じゃない。
治安の悪い酒場……。
つまり、冒険者街のほうの酒場だ。
まず、学生街のほうの酒場や飲食店はオルド魔術学園生だらけでどこも満員だった――という事情がある。野草料理専門店とかいう、需要不明な店でさえも人が溢れていたほどだ。やはり活気ある街の休日というのはひと味違う。
必然、そうなると学生があまり近寄らない方へ南下することになる。
ルーディアの街の冒険者街。
例年、トラブルが発生しているのだろう。最初のホームルームで「冒険者を志しているか、腕に覚えがなければ近寄らないこと」と注意があったことを思い出す。
冒険者は粗野で喧嘩っ早いもの……と言い切るのはいささか乱暴な意見だろうが、統計的に見て普通より粗野で喧嘩っ早い傾向があるのは間違いない。
で、そこにアルコールが入るとなると……気をつけて損はないというのは俺にだって分かる。
「――まず、自分が魔術学園の生徒だっていうのは隠すこと。
カモだって思われるか、それか単に気に入らないか……どっちにしてもトラブルになるだろうから。だから、あくまで冒険者の振りをして」
アイナが、店の前で俺たちにそう言い含めた。
詳しいな。この街で冒険者をやってたわけじゃないらしいが……結局、どこの街のどの冒険者も同じような感じってことか。
「あたしたちは若いし、ここらへんで名が通ってる実力者じゃないから絡まれると思うけど、うまく受け流して。
特に、ルっ…………じゃなくて、あなたは奴隷だし。
……それでも、行く?」
「はい、もちろんです。
アルター様の命に従い、必ず淫らなものを持って帰ります」
ぐっと拳を握りしめるルネリア。
こいつ、もうこの状況で遊び始めてやがる。
「どんな指示にも従うあなたの献身、素晴らしいと思う」
どこで感銘を受けてんだお前は。
本当に献身的なら人前で並べねえんだよ、アルターって名前と淫らって単語をよ。
「……アルターは幸せものだね」
アイナはそう言葉を続けて、酒場のドアを開けた。
途端、暖気が流れ込んできた。
先客が一様にこちらを見てくる――ということは流石になかったが、それでも何人かはこちらを注視してきた。男も、女もだ。やはり、アイナとルネリアの容姿は目立ちすぎる。
店の中を影のように移動し、なるべく隅のほうのテーブルを確保すると、若い女のウェイターが注文を取りに来た。
「出せる料理はボードみて。とりあえず、酒は?」
「エール三つ。それから適当につまめるものと……」
「ものと?」
「あと…………や、ヤリイカのペペロンチーノをひとつお願い」
アイナが取り繕ったすまし顔で注文すると、ウェイターは興味深そうに俺たち三人の顔を見回した。
「……え、いいの?」
“ヤリイカのペペロンチーノ”なるものがなんなのか分かっているのか、という意味だろう。
……まあ詳しい意味は分からないが、エッチなものをくれという隠語なのは分かる。
なので俺たちは頷いたが、ウェイターはなおも念押ししてきた。
「え、ほんとに……? いいの?
だって、ヤリイカなんて……かずのこ以上なんだよ?」
まずそのかずのこが分かんねえよ。ヤリイカってどの程度のレベルなんだよ。なんかすげえ気になってきたよ。
「それもペペロンチーノでなんて……お盛んってレベルじゃないよ……倒錯しすぎだよ……」
ペペロンチーノもヤバいのかよ。
思わず俺は訊いていた。
「普通はどれくらいなんだ?」
「……な、なめこの……饅頭とか?」
だんだん「ヤリイカのペペロンチーノ」がとんでもなくエッチな言葉に聞こえてきたな。
「…………」
「…………」
「…………」
ウェイターが去り、酒が運ばれてくるまでの間……なんか気まずい感じが俺たちの間に流れていた。
アイナはボードに書かれた文字を暗記する勢いで読み込んでいたし、俺は帰ってから同じテーブルを制作できるくらいに板目を眺めていたし、ルネリアは「私は関係ないですけど? ご主人サマの言いつけなんですけど?」みたいな顔をしていた。ずりいこいつ。
……しかし、まさか人生で同年代の異性と酒場でエログッズを注文する羽目になるとは思わなかった。後学のためにお伝えしておくと、ブツが届くまでの時間が地獄すぎるので
「お待たせ、エール三丁ね」
どん、とテーブルにジョッキが三つ置かれる。
が、それだけだ。
ヤリイカは!? ヤリイカのペペロンチーノはまだなのか!? はやく入手して出て行きたいんだが!?
「あー……じゃあ、乾杯」
「うん、お疲れ」
気まずさから逃れたい一心で、恐らく同じ気持ちのアイナと同時に酒を流し込む。
空きっ腹だったからか、酩酊感がぐわぐわときた。
「ぷはっ……。
ルネ……えっと、あなたは呑まないの?」
ジョッキに手をつけてないルネリアに、アイナがアルハラを仕掛けている。
もうそこまで来たらいい加減ルネリアって呼んでもいいだろ。ルネ……から誤魔化すの、本当は無理だからな。
「いえ……申し訳ありませんが、いわば職務中ですので……」
「でも、ご主人様もきっと許してくれると思う」
ね、という目で見てくるアイナ。
いや、そりゃ良いけどさ……俺、アイナの世界だと、ルネリアが俺を他人って認識してることになってるはずだよね? その場合、俺になんの権限があることになるわけ? ホントにどうでもいいけどさ……。
「……ああ、いいんじゃないか」
「ほら、アルタ……この人もこう言ってることだし」
アルタ……まで言っちゃったらもう無理だろ!
「ええと……この方は全然ご主人様と関係ない人ではありますが、良いということにして呑みます」
設定を遵守して意固地になる場面でもないか……と判断したっぽいルネリアが、観念して酒に口をつける。
「おまちどおさま。
あー、例のやつは今用意してるから待ってよね」
そのタイミングで、軽い一品料理が運ばれてきた。
冒険者たちの好みなのか、味付けは全体的にかなり塩辛い。酒の味を誤魔化すにはもってこいだった。
「……で、ヤリイカのペペロンチーノってなんなんだ?」
「え。さあ、知らない」
「…………」
「や、本当だからね。
あたしの知識では“酒場にそういうのが置いてある”っていうのと“ヤリイカのペペロンチーノ”がセットなの」
そんなことあるか? と思っていると、
「冒険者お決まりのジョーク、煽り文句ですね。“酒場でヤリイカのペペロンチーノでも注文しな”という風に使われます」
「……あなたのご主人様の好みに合うといいね」
「ご心配には及びません。
主人は
「…………ふーん」
「…………」
……こいつら俺をおもちゃにしすぎじゃない?
かと言って憤然と反論できるわけもないので、酒を飲み干す作業に没頭するしかない。
と、ジョッキを持ったそのとき――。
「――ううっ、どうすればいいんだ……っ」
カウンターの端……俺たちにほど近いひとり用の席で、そんな押し殺したような声が聞こえてきた。
顔を上げてそちらを見ると、男がわかりやすく項垂れ、頭を抱えている。
「お客さん、飲み過ぎじゃない? 吐くんなら外でお願いね?」
ウェイターが慣れた様子で声をかけるが、
「うるさい……! いいからもっと酒を持ってこい……! なるべく甘くて呑みやすい、アルコール感がないやつをな……!」
すでに相当呑んでいるのだろう、男はふらふらと身をよじった。
自棄になっている割りにはだいぶ可愛い注文だな……という感想は、その横顔が見えた瞬間に塗り変わった。
整ってはいるが、酷薄そうにも見える顔。
……それは紛れもなく、あのワルダー=イービルジーニアスだった。
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