激詰めルネリアと深掘りアイナ。


「――そいうわけなので、早くウィンドライツ様にボコられておかないと大変なことになるんですからね。

 分かりましたか、アルくん」


「はい……」


「アンブレラ様のことですから、前日になって急に決闘イベントをやるなどと言い出しかねません。ちゃんと備えておかないと、痛い目を見ることになります」


「はい……。

 いや、でも! それはそもそも学園長がアイナと尾行しろって――」


「でもさっきは結局普通にデートしてましたよね?」


「は……いや、でも! それは話の流れでアイナの服がダサいかどうか、店員にジャッジしてもらおうって話になったから服屋に入ったのであってデートなどでは――」


「こら。女の子の服をダサいとか言っちゃダメですよ」


「はい……。

 いや、でも! そもそもアイナが正直に言えって――」


「それでも、です。へそを曲げてリヴィエット様が協力してくれなくなったらどうするんですか」


「はい……」


 ……こいつ全然言い訳聞いてくれないなあ!


 アイナを店員に任せて、服屋を出た瞬間にルネリアに捕まり――。

 ……俺は今、建物の隙間のような人気のない路地でガチの説教を喰らっていた。


 曰く、時間を惜しんで特訓に励んでとっととセロくんに負けてこい、とのこと。

 あまりに本筋に沿った諫言にぐうの音も出ない。


 ……というか。


「なんで尾けてるのが俺たちって分かったんだ?」


「歩き方や仕草などで分かります」


 さもありなん、だった。

 そりゃ、何年も一緒にいる奴のことは分かる……気がする。いや言うほど分かるか? そもそも尾行に気づいているあたり、ルネリアがただすごいだけの可能性もあるな。


「しかし認識阻害の魔導具、ですか。……アンブレラ様の技術力は底が知れませんね」


「ああ。ほんと、絶対に敵に回したくないよな……」


「では、この眼鏡を返す前にそのあたりで適当に強盗などを」


「ねえ話聞いてた? 敵に回したくないって言ったよね?」


「――してはいけませんからね」


「あっ、俺って今たしなめられてたんだ」

 

 などと話していると、「アルター?」と俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 服屋から出てきたアイナが、こちらを除きこんで不思議そうな顔をしていた。


「あ、ここにいたんだ」


 服装はほっとするほど無難なものに変わっていた。下はそのままだが、ゆったりめのステッチニットを着ている。水産牛Tシャツは今や首のあたりにその痕跡を残すばかりで安心した。

 それ以外にも何着か買ったのだろう、買い物袋を提げている。


「……なんでそんな狭い路地裏にいるの? 虫じゃないんだか――らルネッ!?」


 妙な鳴き声をあげていたが、これは途中で俺の影になっていたルネリアに気がついたせいだろう。

 なにが起きてるの、と言いたげな目を向けてくる。


 なにって……尾行に気づいていたルネリア~ただの奴隷ということに表向きはなっていますが、実は二つ名持ちの冒険者で超万能です。戻ってきてくれと言われてももう遅い~が、認識阻害を看破して俺たちを逆尾行してきただけだが?


 ……と説明できるわけもなく、さてどうしたものかと思っていると、ルネリアがするりと前に出て頭を下げた。


「お連れ様がいらっしゃったのですね。そうとは知らず、お引き留めしていまい申し訳ございません。

 主人に申しつけられたものを購入するため、お店を探しておりまして……偶々近くにいらっしゃったこの方に道を訊いていたところだったのです」


 ……なんか無理があるような気がしなくもないが、あくまで俺がアルターだとは気づいていない、私はただの奴隷ですよアピールは欠かしていない。咄嗟にしては流石だと言えた。

 果たして、アイナは疑うそぶりもなく「そっか」と頷いた。うまく誤魔化せたか――と胸をなで下ろしたが、


「えっと……それで、ル……あなたは何を探してるの?」


 と、奴は無駄に深掘りしようとしていた。

 いや、いいから。手伝おうとかしなくていいから。何も探してないんだから。


「……いえ、大したものではないのですが――」


「こんなところまで来るってことは、なかなか見つからないもの、だよね」


「いえ、その……まあ、はい……」


「しかも、こういう裏路地みたいなところに売ってそうな……」


「あの、その……まあ、はい……」


「……それってつまり…………み、淫らなやつ、でしょ」


「あの…………申し訳ありませんが、ご賢察の通り口に出すのが憚れる類いのものですので。ご容赦ください」


 ……あれよあれよと言う間に、俺がエログッズを奴隷に買わせている奴になっていた。


 いつもなら「ルネリアてめえ!」となるところだったが、今のは理詰めで逃げ道を塞いだアイナが悪い。アイナてめえ!


「そ、そっか……そうなのか……」


 そうなのか……じゃねえんだよ。じっとりとした目でこっち見てくるなよ。

 そもそも、もっとあっただろ。エロ以外の可能性がよ。薬物とか、爆弾とか。いっそそっち方向を疑ってくれよ。どう見てもエロよりはバイオレンス寄りだろ俺の顔つきは。

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