奴隷・貴族・思考
「私、そろそろ予定があるの。だから解散にしましょう」
というロミリアの一言で、ひとまず解散の運びになった。
時刻は午後三時。
セロとワルダーがどうするかは分からないが、このまま彼らと行動を共にすべきか――とルネリアが考え始めたところで、
「ルネリア、あなたもこちらでしょう」
と、振り返ったロミリアに呼ばれる。
豪商と貴族。どちらについて行くべきか、改めて問うまでもない。
「失礼いたします」
ワルダーたちに一礼して、ルネリアはロミリアに追いつくために歩を早めた。
「貴女の息抜きになったら良いのだけど」
「はい。卑なる身で皆様方と過ごせること、余る光栄でございました」
「そう。
……ねえルネリア。在学中はあくまで学友として接してくれないかしら。せめて貴女のご主人様が近くにいない時くらいは」
「畏れ多いことです。……ですが、クレスト様がそう望まれるのであれば」
「ロミリアでいいわ。様もいらない。
それと……もし貴女のご主人様に“帰るのが遅い”とか怒られたら、私のせいにしなさい。
クレスト家はダークフォルト家に比べれば弱小貴族だけれど……まあ、多少の効果はあるでしょう」
「お心遣いに感謝を…………いえ、ありがとうございます」
ロミリアは善人だ――とルネリアはその評価を確かなものにする。
おそらくさきほど解散を言い出したのも、自分を気遣ってのものだろう。
貴族特有の高慢さはなく、世間知らずでもない。
さらに言えば、容姿も秀でている。
それこそ誰からも好かれる少女――。
だからこそ厄介だ、とルネリアは思う。
現段階でいかにロミリアがセロ側であっても、彼女を起点に
アルターのような“悪役”を用意し、何かしらのイベントを起こすべきだというアンブレラの考えは正しいだろう。
問題は、アルターが“悪役”で成すべきことを終えた後だ。
決闘イベントの時期が後ろに行けばいくほど――つまり、ロミリアの善性を知る人間が増え、注目度が増えるほど――彼女の「無能力者を庇う変人」という収まるべき立ち位置が「自分の正義を貫いた者」へと神格化され、かたやアルター=ダークフォルトは「無能力者に負けた間抜け」で済んだものが「成敗すべき差別主義者」にまで成り下がる。
大衆の正義とは、そんなものだ。
最悪の場合――退学署名運動や、ダークフォルト家や政府への
ロミリア=クレストというイレギュラーのせいで、どの程度の揺り戻しで済むかはイベントを起こす時期の早さで決まってしまう状況になったと言っても過言ではない。
(本当に、厄介な……)
そうため息を吐きたくなる。
それに、計画の首謀者であるアンブレラがそのあたりの事を考えているかどうかは怪しい。彼女の言いなりのまま動くというのは、あまり良いやり方ではないのではないか、とルネリアは考え始めていた。
(アルくんにもしものことがあったら……)
そしてもし、自分が彼の奴隷でいられなくなる事態に陥ってしまうのなら――。
「……どうかした?」
不意に立ち止まったルネリアに、ロミリアが尋ねる。
「申し訳ありません。私はここで……買い物を頼まれていたものですから」
「そう? それじゃ……なにかあったら私に言いなさいよ。力になるわ」
失礼します、と頭を下げて来た道を戻る。
焦りすぎかもしれない。アルターのことになると冷静さを欠く節があることを、誰よりも彼女自身が分かっていた。
それでも――。
(――デートしてる場合じゃないですよ、アルくん……!)
自分たちを尾けてきていたアルターとアイナと思しき二人を、引き摺ってでも剣術の特訓に戻らせるため、ルネリアは歩き出した。
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