ようこそ、わたくしの“契約学”へ。
結論から言うと、俺は激弱だった。
一太刀も避けることができず、さりとて一太刀も受け止めることもできなかった。
そして今、扉の向こうでアイナがアンブレラに俺激弱の旨を伝えているところだ。
たぶん。
俺が同席すると忖度される可能性があるので、ここで待っているのだ。
ちゃんと事実を伝えてくれないと命に関わるし……。
と、思っていたんだが。
待てよ。
考えてみると、「指導なんか必要ないですよ!」と逃げられる可能性もあるのか。
…………。
まずい、そうなると非常にまずい。
待て!! 俺は非常に弱いぞ!!!
と雄叫びを上げながら部屋に突撃しようとしたそのとき、扉が開いてアイナが出てきた。
「…………」
難しそうな顔をしている。
アンブレラにまた何か難題を押しつけられたのだろうか。
「……“契約学”の授業、取れって。一緒に」
俺のほうを見ずに、アイナが言う。
新たな指令が下ったようだ。
実に嫌そう。
そりゃ嫌だろうとも。
……というか。
“契約学”ってなに?
***
アンブレラに詳しい話を聞きたいところだったが、ほんの十分後にその“契約学”とやらの授業が始まるというので急ぐ。
「――で、“契約学”とやらは一体なんなんだ!」
「知らない! けど、プランBって言ってたっ」
振り返りもせず、アイナがそう答えてくる。
サブプランか。
ということは俺強化計画の一環ではあるんだろうが、それがどんなものなのか想像もつかない。
「はあっ、はあっ――どこなんだ、教室はっ」
「三号館!
……もしかして、もうバテてる?」
「ぜえっぜえっ……そうだが?」
「体力がなさすぎる……。
まずそこからか……」
呆れられつつ、教室棟に駆け込む。
なんとか間に合いそうだ。
どの教室なんだと問おうとして、気づいた。
「ここは二号館だッ」
「……じゃあどこなの三号館って!」
「おい!」
知らずに先導してたのか!? と仰天したかったがその時間もない。
チャイムが鳴ってしまった。
「遅刻、あたしだけの責任にしないでよ。二人の責任だからね」
「ヒュー、ヒュー……バカ言うな。
三人だ。好き勝手人を振り回す学園長の責でもある」
「……それはそうだ。意外とまともなこと言うね」
などと打ち合わせつつ、扉を引く。
五分ほどの遅刻だ。
講堂で行われるような授業なら良かったが、指定されたのは小さな教室である。
しかも、生徒は他にいない。
言い訳を考えつつ、恐る恐る教室に入る。
教壇の椅子には、教師とおぼしき老人が座っていた。
「――では、授業を始めよう。座りなさい」
俺たちの遅刻を咎めることなく、読んでいた本を閉じた老人は椅子に腰掛けたままそう言った。
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