オルド魔術学園とその授業について。
――やれやれ。
俺ァ、ここを生きて卒業したいだけでさァ。
授業の内容自体には、そこまで興味はないんでねェ……。
……などと格好つけていた俺であったが、実際に授業を受けてみるとこれがなかなか面白かった。
オルド魔術学園の授業はとにかくバリエーションに富んでいる。
世の中にはこんなにも沢山の学問があるのか、と目を開かされる思いだ。
まあ、考えてみれば当たり前ではあるか。
世界は、初めからそういう風にできているわけで。
たとえば、冷蔵庫ひとつとってもそうだ。
これに使われる魔石を制御する陣には少なくとも三つの分野が関わっているし、本体の材質や出荷に関わる物流網、製造過程における量産方法、販売経路、顧客調査、その潜在的利用方法……などを考えると気が遠くなる。
さらに、冷蔵庫が使われるようになったのは六十年前の人魔戦争の最前線にまで遡り……というような歴史的背景もある。
身の回りのものひとつとってもこれだけの知識の組み合わせがあるのだ。
……ということを、俺は「無知学」という学科で学んだ。
底なしの沼を見ているようで怖くなったので取らないことにしたが。
と、怯えてばかりもいられない。
この一ヶ月の体験授業の期間で、取る授業をちゃんと決めなくてはいけないからだ。
「どうするかなあ……」
なにか目的があって学園に来たなら、そこらへんは悩むまでもないのかもしれないが。
俺の場合、学園からの招待と、ルネリアの勧めがあったから――等の消極的理由があったから来ただけである。図書館が使い放題になるというのもかなり魅力的だったし。
まあ、まさかこんなことになるとは思わなかったが……。
卒業目当てである以上、必然、とりあえず楽に単位が取れそうな授業を探すことになる。
が、早々にこの路線は諦めることになった。
楽単情報を仕入れられるような繋がりが作れないからだ。言うまでもなく、俺の悪名は上級生にまで広がっているわけだしな。
ダメ元でアンブレラに聞いてみたら「あのね、学問というのはねえ……」とくどくど説教されてしまった。
ああ見えてさすがは学園長といったところか、学びというものには一家言あるようだ。
いやでもちょっと融通効かせてくれてもよくない?
と、そんなことを思っていた矢先だった。
「朝食を終えた後、学園長室に来るように――だそうです」
早朝。
俺の部屋にやって来たルネリアが、アンブレラからの伝言を伝えてくる。
なんだろう。
あまり良い予感はしないが……。
「で、それを伝えに来たのか?」
「もちろん、アルくんを食堂に連れて行くために来たんです」
「ヤダッ!!」
拒否する強い気持ちが、俺にホイッスルボイスを出させた。
一度朝食を取るために行き、散々な目に遭って以来避け続けてきた忌むべき場所である。行きたくないのである。嫌なのである。
「こら。駄駄をこねてもだめです。これもアンブレラ様からの指示なので」
「なにゆえ!」
「今のところアルくんとウィンドライツ様の絡みがあまりないので、とりあえず周囲に存在感をアピールしておく狙いがあるようです」
「食堂で存在をアピールってなんだよ!」
「大丈夫です。私に全て任せてください」
「…………」
これ以上不安になる台詞を、俺は知らなかった。
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