ホームルームと特別生クラス(三人)


「――というわけで、一年生は明日から一ヶ月は体験授業の期間になります。

 ……あの、し、質問などはありますでしょうか……?」


 教壇に立つ小柄な女性教師が、びくびくと怯えつつ、俺のいる方向を決して見ないようにしながら説明している。

 

 講堂を狭めたような教室には、俺とルネリアが一番後ろに、そしてセロ=ウィンドライツくんが教卓の前のほうに座っていた。どうやら俺たちは“特別生”クラスに配属されたようだ。

 

 当然っちゃ当然だが、こういうホームルーム的なやつはセロくんと一緒か……。

 

 ややげんなりではあるが、クラス単位で顔を合わせるのはこういったレクリエーションの時などだけらしい。

 あとは、剣術や基本魔術学などの必修授業で一緒になるくらいか。週に四コマほどってところだ。


 彼が自由選択授業で何を取るつもりか知らないが、なるべく被らなければいいが……。


「あの~……質問、ないですよね。大丈夫ですよね!

 よし! で、ではっ!」

 

 脱兎の如く教師が教室を出て行く。

 常人ならすでに退学を考えるであろう学園生活の始まりだが、俺は結構わくわくしていた。

 

 正直、授業自体にはそこまで興味はない。

 だがここを卒業すれば、あの家から俺は解き放たれる。

 目つきは異常に悪いが、普通の人間として人生を始めることができるのだ。

 

 そして、そのときには――。


「…………」


「どうしました、アルくん」


 視線に気がついたルネリアが、声を出さず、口の動きで俺にそう問いかける。

 なんでもない、と僅かに首を振った――ところで、セロくんが気遣わしげにルネリアのほうを見つつ、教室を出て行くのが見えた。


 これで、この教室にいるのは俺たちだけになった。……ようやく肩の力が抜ける。

 

「……なあ。ルネリアはどんな授業を取りたいんだ?」


 改めて距離を詰めて座り直す彼女に、俺は訊いてみる。


「アルくんと同じものを取る予定ですが」


 案の定な答え。


「おまえ……なんか学びたいこととかないのか?」


「……しかし、同じ授業を取ったほうがいいのではないでしょうか」


 まあ、そうするのが“設定”的にはいいんだろうが……。

 俺個人としては、そうしない方がいいんじゃないかと思っている。

 流石のアンブレラも、はっきりそうしろとは言わなかったしな。


「せっかく来たんだし、自由選択はそれぞれ好きなもの取ろうぜ」


「……はあ」


 ルネリアは頷いたが、不承不承という感じだ。

 俺と片時も離れたくない……というわけではなく、単に心配なのだろう。


 自分のことながら、アルター=ダークフォルトには敵が多い。

 というか、ダークフォルト家には、と言ったほうが正確か。


 しかしまあ、杞憂だろう。まさかかのオルド魔術学園内で事に及ぼうとする輩はいないだろうし……。

 と思ったが、プッツンしたセロくんに闇討ちされる可能性があるんだった。


 …………。

 

 ……護身術の授業か、遺書の書き方講座とか取ろうかな。

 それか、アンブレラがなんとかしてくれるのを祈るばかりだ。

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