“白闇蛇”アルター=ダークフォルト
「誰に聞いたんですかそんなの!」
「副業で冒険者やってる先生がいて、そうらしいって……。
え、ちょっと待って? “二つ名持ち”っていうのは本当なんだよね?」
“二つ名持ち”というのは、極めて優れた実力を持つ冒険者を指す言葉である。
例えば“竜殺し”とか“大食らい”とか“風狩猟者”とか、功績や見た目、特性で誰ともなく呼ばれるようになる……らしい。
そしてもちろん、俺にそんなものはない。
というかまず、そもそも冒険者になったことがない。事実無根である。
「いったいどういうことなの……?」
「さあ……」
三人で首を傾げる。なぜその副業冒険家の先生はそんな嘘を……。
あ、と声を挙げたのはルネリアである。
「どうした?」
「……いえ、これは関係ないかもしれませんが――」
たぶん関係あるだろうなあ、と思いながら続きを待つ。
「これは私が、アルター=ダークフォルトの名を使って冒険者活動していたときのことですが」
「ャヤァ!?」
思った以上に関係があったので意味不明な声が出てしまった。
「いつ!?」
「二年ほど前です」
「なんで俺の名前を!?」
「あながち嘘というわけでもないじゃないですか」
「あながち嘘だろ!」
「奴隷身分だと手続きが大変だったんです。なので、“奴隷は主人の所有物”理論でアルくんとして登録していました」
どういう理論だよ、と思ったが本筋はそこじゃないのでこれ以上は腰を折らないことにした。
でも冒険者やってたの今初めて聞いたよ? それはそのときに報告してくれても良くない?
「活動を続けて一年ほど経ったあたりで、最近やたらと変な名前で呼ばれるなあ、と思ってはいたんです。
今思えば、もしかしたらそれが“二つ名”だったのかもしれません」
「へえー! 一年で? それは異例のスピードだねえ」
アンブレラが感心しているので、すごいことなんだろう。
まあな。
ルネリアは大抵のことはすごいのだ。
「ちなみに、なんて呼ばれてたの?」
「たしか――“白闇蛇”と」
「かっこよすぎる……」
急激に冒険者になりたくなってきた。
闇も蛇も俺のイメージに引っ張られすぎている気がするけど。
「で、巡り巡って俺が強いという話になったのか……」
原因は解明できた。
……が、事態の解決は全くしていない。
そもそも、だ。よく考えると
今朝見た感じ、セロ=ウィンドライツくんは線の細い小柄な体格だったが……だからといって勝ち目があるとも思えない。
いやまあ負けイベントだからそれでいいんだけど、肉塊になりたいわけじゃないんだよな。
「そういや、剣術の稽古をつけるって話はどうなったんですか? 初日以来、さらっとなかったことになってますけど」
「ダークフォルト家の子息に個人授業とか怖すぎるって泣きつかれちゃって……じゃあやらなくてもいいかって思って……」
「…………」
「ま、まあ代わりの先生を探しておくから! 最悪、本番まで三日くらいの稽古になっちゃうと思うけど」
「三日ぁ!?」
一体、三日でなにが出来るようになるんだ。
人生のやり残したことを終える時間に充てた方が有意義だろ。
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